注目のキーワード『長寿経済』

鄭 美沙

厚生労働省によると、2025年の日本の女性の平均寿命は前年から0.20歳延びて87.33歳、男性は0.25歳延び81.35歳となりました。WHOによると、世界全体でみても、平均寿命は2000年から2019年の間に男性が64.4歳から70.6歳へ、女性は69.2歳から75.7歳へと6歳以上延びました。その後、世界全体の平均寿命は新型コロナウイルス感染症の影響で低下しましたが、2023年には女性の平均寿命がコロナ禍前の水準に回復するなど、長期的に長寿化の流れが続くとみられます。

長寿化は、医療や介護、社会保障制度などへの対応が必要となる一方で、新たな需要や経済活動を生み出す機会となります。こうした考え方は「長寿経済(Longevity Economy)」と呼ばれ、世界経済フォーラム(WEF)は「人々が健康で経済的なレジリエンスを保ちながら、より長い人生を送るために必要な条件が整った社会・経済」と位置付けています。従来からある「シルバーエコノミー」という概念は、主に高齢者向けの商品・サービス市場を指していたのに対し、長寿経済は、雇用や健康増進、社会参加などを含め、長寿化を前提に社会・経済全体を再設計するというより包括的な概念といえます。

WEFは、長寿経済を支える柱として、(1)経済的レジリエンスの確保、(2)全ての人を対象にした金融経済教育、(3)健康寿命の延伸、(4)生涯にわたるスキル形成、(5)社会とのつながりや生きがい、(6)長寿格差の是正の6つを挙げています。具体的には、例えば(1)経済的レジリエンスの確保では、「デキュムレーション(Decumulation)」が重要な要素の一つとなっています。デキュムレーションとは、資産形成期に積み上げた金融資産を、退職後に計画的に取り崩し、生活費などに活用していくプロセスを指します。長寿経済では、資産を「形成する」だけでなく、「計画的に使う」という視点がこれまで以上に重要となります。そのため政府には、制度横断的な老後所得設計の整備が、企業には退職前後の金融経済教育の充実が求められます。

このように、長寿経済の実現には、金融システムをはじめとする社会の仕組み全体を長寿化に適応させることが欠かせません。各企業においても、長寿化を新たな成長機会と捉え、経済活動に活かす方策を検討していくことが求められます。

(政策調査部 主任研究員 鄭 美沙)

鄭 美沙


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