内外経済ウォッチ『日本~トランプ相互関税の日本経済への影響~』(2025年5月号)

星野 卓也

目次

日本に24%の“相互関税”

トランプ関税が世界経済・金融市場を揺るがしている。トランプ大統領は4月2日に「相互関税」政策を発表し、これまでの国際貿易体制を大きく変える措置を打ち出した。この政策は、全輸入品に対して①一律10%のグローバル関税を課すことを基本とし、②特に貿易不公正が大きいとされた57か国に対しては11%から50%の関税を適用する内容だ。日本もその一つとして24%の相互関税 が示された。その後、金融市場の激変などを受けて9日には、②の措置を90日間停止することを決めた。関税のニュースに世界経済が一喜一憂する展開となっている。

日本経済への影響は多面的だ。単に輸出減少にとどまらず、短期・中長期の両面で経済・金融市場に広範な影響を及ぼす見通しである。一連の関税措置は単なるトランプ氏の「交渉カード」ではなさそうだ。世界の貿易・経済体制の再構築を企図したものであり、長期化が予想される。

短期影響:輸出減や金融市場経由の波及

短期影響としては、まず対米輸出への影響が大きい。24%の相互関税が適用される場合、自動車への追加関税と相互関税により、対米輸出の実効関税率は約20%pt上昇する見込みだ。日本側にとっては対米輸出21.3兆円(2024年)に対し4~5兆円程度の負担増となる。相互関税率が10%にとどまる90日の猶予期間においても、自動車に対する追加関税(+25%)は続く。自動車は日本の対米輸出の約3割を占めるため、輸出の重荷になることは変わらない。

この負担はアメリカ消費者への価格転嫁や日本企業側のコスト削減で賄われるが、日本の対米輸出環境は大幅に悪化し、輸出減少圧力として顕在化するだろう。世界経済悪化懸念とトランプ政策の不透明感が企業判断の足かせとなり、製造業利益の悪化予想も設備投資を下押しする。アメリカは世界最大の需要先であり、輸出先の抜本的転換は容易ではない。

金融市場を通じた逆資産効果や消費者マインド悪化も懸念される。新NISA開始以降、若年層を中心にリスク資産保有者が増加しており、株安と円高のダブルパンチとなる家計も少なくない。従来の日本は家計金融資産の現預金偏重が課題視されてきたが、それが景気悪化時のバッファーともなってきた。リスク資産保有比率の上昇により、本格的な市場下落局面での家計への影響は従来よりも大きくなる可能性がある。

日銀の利上げは様子見だろう。関税のインパクトが大きく、世界経済への影響が多岐にわたり不確実性が高いためだ。世界経済の悪化が顕著になれば、現在の政策金利0.50%が今回利上げ局面のターミナルレート(到達金利)となる可能性も考えておく必要がある。

補正予算を含めた経済対策の実施も想定される。経済産業省はすでに対策本部の設置や輸出産業への資金繰り支援を決定している。特に影響の大きい自動車産業では生産調整の必要性も高まり、製造業従事者の雇用保護や支援が重要な論点となるだろう。

中長期影響:サプライチェーン再編の波が来る

近年は、地政学リスクの高まりの中で、日本企業が生産拠点の“脱中国”を図る動きがみられた。今後は対米輸出依存度を下げる動きも出てくるだろう。米国市場の重要性は変わらないものの、地域分散によるリスク低減を図る企業が増加しそうだ。

ただ、企業も世界最大のGDPを持つアメリカを放棄できない。関税措置はアメリカでの生産拠点拡大も促すだろう。日本の自動車メーカーはメキシコなど他国からアメリカへの輸出を前提にサプライチェーンを構築してきた。高関税国から低関税国へ生産拠点を移す、迂回輸出の拠点として利用する動きも出てきそうだ。一連の関税政策によって、日本企業のサプライチェーン再編が進む見込みである。

星野 卓也


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ