四半期見通し『米国~経済を不安定化させるトランプ2.0~』(2025年1月号)

桂畑 誠治

目次

足元でも米経済は堅調さ維持

米国では、経済が堅調さを維持するなか、労働市場の軟化、インフレの緩やかな低下が続いている。24年7-9月期の実質GDP成長率(2次推計)は、前期比年率+2.8%(4-6月同+3.0%)と減速したものの、低い実質10年国債金利、健全なバランスシート等を背景に、実質国内最終需要が同+3.4%(同+2.8%)と加速しており、米国経済は堅調さを維持した。

10-12月期入り後の経済情勢をISM指数でみると、10、11月平均の製造業が47.5と7-9月期の47.1を上回ったほか、非製造業も54.1と7-9期の52.6を上回った。この結果、10-11月のISM総合景気指数は53.4と7-9月期の52.0から上昇しており、10-12月期の米経済が堅調さを維持していることを示している。

このような中、労働市場では10月の非農業部門雇用者数が前月差+1.2万人(前月同+22.3万人)とストライキの影響によって4万1400人下振れたほか、9月下旬から10月上旬にかけて南東部に襲来したハリケーン「ヘリーン」、「ミルトン」による一時的な影響で急減速した。これらの要因を考慮すると、雇用の増加ペースは緩やかに減速している。一方、ストライキやハリケーン襲来などの影響を受け難い失業率は、10月に4.1%(前月4.1%)と横ばいとなった。ただし、労働参加率が低下する形で、失業率の上昇が抑えられていることから、労働市場の軟化が継続していると判断される。

インフレでは、FRBが重視しているPCEコア価格指数(食品とエネルギーを除く)が10月に6カ月前対比年率で+2.3%(前月同+2.3%)と中期的な低下傾向が持続しているが、3ヵ月前対比年率で+2.8%(同+2.4%)と上昇しており、短期でインフレ圧力が強まりつつある。

図表
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FRBは冷静さを失わず

米大統領選直後の11月6、7日に開催されたFOMCで、FRBは政策金利を予想通り25bp引き下げ、FFレート誘導目標レンジを4.50~4.75%とすることを全会一致で決定した。

堅調な経済が続くもと、雇用全般やインフレの鈍化によって、雇用とインフレの目標を達成する上でのリスクバランスが概ね均衡しているとの判断が維持された。また、大統領選挙の結果が直ちに金融政策に影響することはないとの見方を示した。労働市場が更に軟化することを回避するため、FRBは利下げを決定した。パウエルFRB議長は、政策金利が「かなり制約的な水準からの再調整の過程にある」と利下げ後も、政策金利の水準が経済活動を抑制するのに十分に高い水準にあるため、利下げ継続が正当化されると判断している。ただし、そのペースについて、議長は「既定の道筋はなく、会合ごとに決定する」と今後の利下げペースは、データ次第であることを強調した。

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24年は前年比+2.7%の高成長実現へ

24年10-12月期の個人消費は、資産残高の増加、内外での人の移動の活発化等に支えられるものの、雇用・所得の増加ペース鈍化、消費者マインドの低下、借入コストの上昇等を背景に、減速すると見込まれる。住宅投資は、高いモーゲージ金利、人手不足の影響等によって小幅の増加にとどまると予想される。また、設備投資は、政策の先行き不透明感の強まりを背景に、鈍化すると予想される。このため、実質GDP成長率は10-12月期に前期比年率+2%程度に鈍化するものの、24年は前年比+2.7%(23年同+2.9%)と2年連続の高い成長が見込まれる。

トランプ政権2期目も主要政策は減税と関税

25年1月20日に発足するトランプ政権2期目の減税政策では、トランプ氏が1期目で実施し、25年末に終了する個人の所得税率の引き下げなどを恒久化する方針である。また、法人税率は15%に引き下げ、接客業に携わる人々が受け取っているチップや社会保障の給付金への課税の廃止のほか、キャピタルゲイン税の税率引き上げ回避を行う方針である。

歳出では、高齢者の公的医療保険や社会保障の削減は一切行わない方針である。また、住宅購入の支援は、住宅ローン金利の引き下げや、税制優遇措置などによって実施する。一方、政府効率化省の新設や、輸入品に対する関税賦課によって、財政赤字削減を目指す。

安全保障政策では、トランプ氏は、メキシコ、カナダが米国境を越える麻薬性鎮痛薬の一種、フェンタニルと不法移民を取り締まらなければ、就任初日に25%の関税を課す方針であることを発表した。また、中国がオピオイドの輸出を阻止しなければ10%の追加関税を賦課することも発表した。これらは、メキシコ、カナダ、中国側が対応できることから、早期に合意が成立する可能性が高い。しかし、通商政策で対米黒字削減や不公正貿易慣行の解消などを目指した交渉にはかなりの時間がかかるうえ、早期の実現は困難である。このため、段階的に関税賦課が実施される恐れがある。

米経済は25年にソフトランディングする公算

25年前半の実施が予想される政策では、一部の輸入品に対する10%程度の関税賦課や対中国への関税賦課のほか、移民の制限、環境・金融・AIなどの規制緩和、反トラスト法の運用緩和などが挙げられる。

短期的に長期金利の上昇、ドル高を進め、25年の経済成長を抑制しよう。25年のインフレでは、PCEコアデフレーターが前年比で一旦上昇した後、ドル高等による財価格の下落やサービスコアの緩やかな伸び鈍化により、+2%台前半に向けて低下するとみられ、実質FF金利の上昇による景気減速が続くと予想される。このため、失業率は上昇する可能性があり、労働市場の更なる軟化を回避するために、FRBは25bpの利下げを継続し、FFレート誘導目標を3.5%程度に引き下げると予想される。

大統領がトランプ氏、共和党が上下両院で過半数を握る“トリプルレッド”でも、経済成長やインフレ率を押し上げる大規模減税などは早くても25年10-12月期から開始され、大部分は26年から効果が出始め、26年の経済成長やインフレを押し上げるとみられる。米国経済が25年にソフトランディングに成功するもとで、トランプ政権が減税政策を実施すれば景気が過熱し、労働市場が逼迫することでインフレ率が再び上昇する可能性がある。FRBが大幅利上げを迫られ、景気後退に陥れば、26年11月の中間選挙で共和党が過半数を割り込み、トランプ政権はレイムダック化する可能性が高い。そうなれば、国内政策が停滞する一方、貿易戦争が激化するとみられ、世界経済の分断が進む恐れがある。

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桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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