米国:雇用者数が減速も失業率は低下(26年6月雇用統計)

~トランプ2.0の供給制約と根強い労働需要を背景に、失業率は低位安定~

桂畑 誠治

目次

1. 非農業部門雇用者数は減速も、反動と悪天候が主因

26年6月の非農業部門雇用者数(事業所調査)は、前月差+5.7万人(前月:同+12.9万人)と減速し、市場予想中央値(ブルームバーグ集計)の同+11.3万人を大幅に下回った。

内訳をみると、政府部門が前月差+0.8万人(前月:同+3.2万人)と減速したほか、民間部門は同+4.9万人(前月:同+9.7万人)と伸びが鈍化し、市場予想中央値の同+10.7万人を下回る結果となった。

雇用の基調を示す移動平均をみると、非農業部門雇用者数の3カ月移動平均は前月差+11.1万人(前月:同+16.4万人)へと減速した。これは今月の弱い数字に加え、過去2カ月分(4月、5月)の雇用者数が計7.4万人下方修正されたことも影響している。一方、6カ月移動平均では同+9.2万人(前月:同+8.0万人)へと小幅に加速した。民間部門に限っても、3カ月移動平均は前月差+9.9万人(前月:同+15.0万人)に減速したものの、6カ月移動平均では同+8.8万人(前月:同+7.9万人)と小幅に加速しており、雇用の緩やかな増加基調そのものは維持されている。

イベントによる押し上げ効果の剥落や悪天候の影響によって単月の変動は大きくなっているが、緩やかな景気拡大に伴う労働市場の安定性は持続していると判断される。

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2. 医療・社会扶助が牽引役となる一方、飲食店や余暇、宿泊は反動減

詳細な内訳をみると、政府部門では連邦政府が前月差+0.2万人(前月:同+0.3万人)にとどまったほか、州・地方政府が同+0.6万人(前月:同+2.9万人)と大きく減速したことが、政府全体の押し下げ要因となった。

民間部門では、高齢化に伴う構造的な需要増と人手不足が続く医療・社会扶助(+4.66万人)が引き続き高い伸びを記録した。さらに、教育サービス(+2.22万人)、専門・技術サービス(+1.82万人)、生成AI需要の爆発的な高まりに伴うデータセンターの建設ラッシュを背景に、建設(+1.10万人)も底堅さを示した。その他、雇用派遣(+0.93万人)、その他サービス(+0.80万人)が増加したほか、製造業(+0.30万人)、卸売(+0.24万人)、輸送・倉庫(+0.23万人)でも雇用が拡大している。

対照的に、メモリアルデー(5月25日)が例年よりも早かったことや、6月開催の北米ワールドカップ(W杯)特需を見込んで5月に先行採用が進んだ反動等によって、一部の対人サービスセクターは減少に転じた。具体的には、飲食店(▲3.29万人)、宿泊(▲2.17万人)、小売(▲0.75万人)、芸術・エンターテイメント・余暇(▲0.65万人)などが押し下げられた。このほか、政府補助金の削減に見舞われた保険(▲0.19万人)や、AI導入の影響を受けている商業銀行(▲0.22万人)、情報(▲0.90万人)が減少した。また、鉱業(▲0.40万人)、不動産・リース(▲0.12万人)、公益(▲0.08万人)もマイナスを記録している。

こうした業種別の動向からは、労働市場の二極化が鮮明に読み取れる。医療・社会扶助や建設が旺盛な労働需要を吸収する一方で、生成AIの普及に伴う構造変化に直面する情報、金融セクターや、政策的な不確実性にさらされる一部の製造業では、人員の適正化が継続している。

3. 金融市場では利上げ織り込みが若干低下

金融市場では、予想を下回る雇用者数の伸びを受け、年内の利上げ期待が後退した。FF金利先物市場が示す各会合の確率は以下のように変化した。まず、7月FOMCでの据え置きの可能性が約82%(前日:約71%)へと上昇し、利上げの可能性は約18%(前日:約29%)へ低下した。9月FOMC時点で現行水準である「3.50~3.75%」に留まる(据え置き)可能性が約47%(前日:約36%)へと上昇し、25bpの利上げの可能性は約53%(同約64%)へと低下した。さらに、12月FOMC時点で現行水準に留まる可能性は約24%(前日:約17%)へと上昇し、年内25bp以上の利上げの可能性は約76%(同約83%)へと低下している。26年末のFF金利の着地予想は3.91%(前日:3.96%)へと低下した。

この金利低下に伴い、米10年国債利回りおよび2年国債利回りはともに低下した。為替市場ではドルが主要通貨に対して弱含み(ドル安)で推移した。株式市場では、発表直後は長期金利の低下を好感して主要3指数がそろって上昇した。しかし、その後はNYダウが最高値を更新した一方、AI関連での売りに押されてNASDAQ総合指数が下落に転じるなど、強弱が分かれる展開となった。

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4. 労働市場はトランプ2.0の影響下で需給が均衡

こうした労働市場の変容の背景には、トランプ2.0による政策バイアスが色濃く影を落としている。相次ぐ大統領令による制度や規制の急進的な変更が現場の混乱を招き、2025年以降の米労働市場は基調として軟化傾向にあった。特に通商政策における関税の賦課・撤回・上乗せの乱発、あるいはそれらを示唆する発言の繰り返しが企業の不確実性を高め、計画的な採用の抑制や局所的な人員削減を誘発している。

また、移民規制の厳格化や不法移民の取り締まり強化が、労働供給の直接的な抑制に繋がっている点も無視できない。現在の米労働市場は、構造的な供給制約を背景に、企業の採用抑制(低雇用)と、人手不足に伴うリストラの抑制(低解雇)が同居する「一種の引き締まった均衡状態」にあると言える。

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5. 賃金は底堅い伸びも、インフレ再燃で実質マイナス圏にとどまる

平均時給は前月比+0.3%(前月:+0.3%)となり、市場予想(+0.3%)と一致した。前年同月比でも+3.5%(前月:+3.4%)と市場予想通りに若干加速したものの、2022年3月のピーク(+5.9%)からの緩やかな低下傾向は維持されている。ただし、トランプ関税の影響やイラン・中東情勢の緊迫化に端を発したガソリン価格の急騰により、インフレ圧力が再燃している。このため、実質賃金がマイナス圏にとどまっているとみられ、足元の個人消費を抑制する潜在的なリスク要因としてくすぶっている。

一方、労働投入量は前月比+0.1%(前月:+0.1%)と横ばい圏ながら、3カ月移動平均(3カ月前対比年率)では+1.3%(前月:+0.8%)へと加速しており、労働需要全体がなお底堅く拡大している実態が示唆された。

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6.失業率は低水準を維持、労働需給はタイトさが継続

家計調査によると、6月の失業率(U3)は4.2%(前月:4.3%)へ低下し、市場予想中央値を下回った。労働参加率が61.5%(前月:61.8%)へと低下するなかで、失業率は依然として低い水準での安定を維持している。一方、「現在は職探しをしていないが過去1年間に求職活動を行った人」と「正規雇用を探しているが経済的理由によりパートタイムで働いている人」を含む「広義の失業率(U6)」も、7.9%(前月:8.1%)へと低下した。U3、U6ともに中長期的には緩やかな軟化トレンドを示しつつも、絶対水準としては極めて良好な雇用環境であることに変わりない。

また、労働環境の自信度を示す「失業者に占める自発的離職者の割合」が10.9%(前月: 12.5%)へと低下したものの、水準そのものは高く、労働者が雇用環境に対して極端な悲観に傾いていないことが裏付けられている。

労働参加率の低下については、トランプ政権による移民流入の抑制に加え、団塊世代の退職加速という構造的要因が下押ししている。今後についても、労働供給が物理的に制約される環境下では、雇用者数の伸びが鈍化したとしても失業率は上昇しにくく、タイトな労働需給の均衡が続く見通しだ。

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7.総括:過熱抑制とインフレリスク緩和で、FRBは据え置き継続へ

6月の雇用統計は、「雇用者数の伸び鈍化」と「失業率の低下」が同時に進行する結果となった。これは、トランプ政権の政策に伴う構造的な供給制約と、サービス業や建設投資を中心とした根強い労働需要が拮抗する「綱渡りの均衡状態」が継続していることを示している。

FRBにとっては、労働市場が悪化と過熱の双方を回避しながら「脆弱なバランス」を継続していることが確認された形だ。インフレ目標達成に向け、当面タカ派姿勢をにじませた政策金利の据え置き措置を正当化しやすくなったという意味で、FRBの現状のスタンスを補強する結果であったと総括できる。

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桂畑 誠治


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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