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2026.07.02
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米国:不確実性下の前倒し発注が指数を下支え(6月ISM製造業)
~コスト増圧力は根強いが、6カ月連続の拡大圏維持~
桂畑 誠治
- 目次
1. 総合景況感と背景
26年6月のISM製造業景気指数(季節調整値)は53.3(前月54.0)と0.7ポイント低下し、市場予想中央値(53.9)を下回った。それでも、拡大・縮小の分岐点である50を6カ月連続で上回り、米製造業部門の拡大基調が維持されていることが示された。足元では、トランプ政権の関税政策による不確実性やコスト増が引き続き抑制要因となっている。しかし、堅調な国内需要を背景とした在庫補充に加え、関税やイラン紛争に伴う将来的な価格上昇を見越した顧客側の前倒し発注が指数を下支えした。
2. 調査コメントにみる地政学リスクと政策の不確実性
パネリストのコメントからは、イラン等の中東紛争による原油・原材料高、高インフレ、関税の不確実性が長期化し、企業の設備投資抑制や消費者の買い控えを招いている実態が窺える。需要の二極化も顕著であり、産業・医療用など全体的な需要が減速する一方、防衛・半導体・AI分野の需要は非常に堅調である。
こうした環境下、企業はコスト管理を徹底しつつ、リスク分散のためのサプライヤー多様化(脱中国・東南アジアシフト)、在庫の引き締め、契約構造の工夫を推進し、サプライチェーンの強靭化(レジリエンス強化)に注力している。

業種別の主な動向をみると、化学・石油製品では、イラン紛争による原油高が原材料や接着剤の価格を押し上げており、戦争終結による価格水準の正常化が期待されている。コンピューター・電子製品では、中東情勢や関税、インフレの不確実性から設備投資に慎重な姿勢が目立つ。PFASや環境検査向けの消耗品需要は増加しているものの、買い手のコスト意識は高い。電気機器・家電では、小売売上が一時的に安定し、直近2カ月の関税据え置きを歓迎する声がある一方、今後の混乱への警戒も強い。食料品・タバコでは、中東紛争と関税影響でコストが高止まりし、納期も長期化している。機械・その他製造では、防衛、半導体、AI分野が非常に堅調な一方、産業・医療用は新品より整備品が好まれる傾向にある。輸送用機器では、欧州やインドからのエネルギー追加料金要求が収まり、ベトナムやタイなどアジア圏への供給網分散が進む半面、新たな232条関税が収益性を大きく圧迫しているとの強い不満が報告された。
3. 構成項目別の動向と寄与度
6月の総合景気指数を項目別に分析すると、雇用の改善と在庫の増加が全体を押し上げた一方、サプライヤーの入荷遅延の緩和、新規受注や生産の減速が下押し要因となった。価格指数は低下したものの依然として高い水準を維持しており、製造業におけるコスト増圧力の根強さを示している。
・総合指数への寄与度と水準
総合指数(前月比▲0.7ポイント)への寄与度をみると、在庫(+0.30ポイント)、雇用(+0.22ポイント)が押し上げ要因となった。一方、入荷遅延(▲0.64ポイント)、生産(▲0.42ポイント)、新規受注(▲0.16ポイント)が押し下げに寄与した。指数水準としては、雇用が50を下回ったものの、新規受注、生産、在庫、入荷遅延はいずれも50を上回って推移しており、全体として拡大を示す水準を維持している。
・主要項目の詳細動向
新規受注は56.0(前月56.8)と前月から低下したものの、拡大圏の高い水準を維持しており、需要の堅調さを示している。ただし、価格上昇や供給懸念に先んじた顧客の前倒し発注による押し上げ効果は弱まり始めている。新規受注が拡大した業種は18業種中11業種(前月14業種)へ減少し、縮小は6業種(前月1業種)へ増加した。拡大業種は、一次金属、アパレル・皮革製品、印刷・関連支援活動、電気機器・電化製品・電気部品、コンピューター・電子製品、一般機械、非鉄、加工金属、プラスチック・ゴム製品、輸送機器、化学製品の11業種である。縮小は紙製品、家具・同関連製品、食品・飲料・タバコ製品、その他製造業、木材製品、繊維の6業種であり、石油・石炭製品は横ばいとなった。
雇用は49.7(前月48.6)と縮小圏ながらも前月から上昇し、減少幅が縮小した。雇用が増加した業種は、印刷・関連支援活動、紙製品、一次金属、電気機器・器具・部品、プラスチック・ゴム製品、一般機械、その他製造業、輸送機器、化学製品の9業種と前月と同数であった。マクロ環境としては、需要動向の不透明感を背景に、企業がレイオフや採用凍結を通じた人員削減・調整を優先する姿勢を継続している。
生産は52.2(前月54.3)と低下したものの拡大圏を維持しており、拡大ペースの減速を示している。拡大業種数は8業種(前月14業種)に減少し、縮小業種は6業種(前月1業種)に増加した。しかし、新規受注および受注残が拡大水準を維持していることから、生産拡大の持続性は高いとみられる。
在庫は51.4(前月49.9)と拡大圏に転じた。地政学的な不確実性の高まりから企業は慎重な在庫管理姿勢を崩していないが、手元在庫の減少や顧客側の在庫不足感を背景に、一定の積み増しが進んだ。
入荷遅延は、57.4(前月60.6)と小幅に低下したものの、依然として50を大きく上回っている。港湾での停滞やトラック輸送の制約、悪天候に加え、イランを含む中東情勢の混乱が、サプライヤーの納入期間を長期化させる主因となっている。
サブ項目をみると、新規輸出受注が48.5(前月50.6)と縮小圏に低下した。一方、輸入指数は52.9(前月53.0)と低下したものの拡大圏を維持しており、サプライチェーン寸断への懸念から物資を前倒しで確保する動きが輸入の伸びを支えている。
4. 業種別動向
6月に総合指数が拡大した業種は、全18業種のうち、印刷・関連支援活動、電気機器・電化製品・電気部品、繊維、一次金属、アパレル・皮革製品、加工金属、コンピューター・電子製品、一般機械、プラスチック・ゴム製品、輸送機器、非鉄、化学製品、その他製造業、食品・飲料・タバコ製品の14業種(前月16業種)へと減少した(下線は拡大・縮小が2カ月以上続いたことを示す)。主要6業種で拡大した業種は、石油・石炭製品を除く5業種(コンピューター・電子製品、一般機械、輸送機器、化学製品、食品・飲料・タバコ製品)である。
一方、縮小した業種は紙製品、家具・同関連製品、木材製品の3業種(前月1業種)に増加した。なお、石油・石炭製品は前月から横ばいとなっている。
5. 高止まりする仕入価格
インフレ動向を示す仕入価格指数は、73.0(前月82.1)と9.1ポイント低下した。しかし、依然として極めて高い水準にあり、製造業における強いコスト増圧力が持続していることを裏付けている。鉄鋼やアルミニウム価格の上昇、関税、中東情勢の緊迫化を受けた石油製品の高騰が引き続き仕入価格指数を押し上げている。6月に物価上昇を報告した回答者の割合は55.1%となり、5月の66.3%から11.2ポイント低下した。
価格の上昇を報告した業種は15業種(前月16業種)に及ぶ。商品別では、アルミニウム、銅、鉄鋼、銅・鉄鋼製品、電子・メモリ部品、熱間圧延鋼、樹脂、ステンレス鋼、プラスチック・同製品、貨物(運賃)、燃料など広範囲な品目で価格上昇が確認された。また、供給不足品目として電子部品、電気部品、メモリ、半導体、熱間圧延鋼材が挙げられ、需給のひっ迫が継続している。
6. 先行き展望:短期的混乱と中期的な拡大基調
今後の製造業の業況について、短期的には米国とイランの停戦合意の履行や和平交渉を巡る不確実性が足かせとなるものの、一段のコスト上昇を警戒した需要の前倒しが当面の下支え要因になると見込まれる。
中期的には、①半導体、医薬品、重要鉱物等への分野別関税によるインフレ波及が限定的となる公算が高いこと、②AI投資に加えて減税や給与所得・資産価格の上昇を背景に国内需要が堅調を維持すること、③低水準にある顧客在庫が生産を誘発すること等に支えられ、製造業は2026年を通じて拡大の勢いを保つ可能性が高いと考えられる。










桂畑 誠治
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 桂畑 誠治
かつらはた せいじ
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経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済
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