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2022.02.01
新興国経済
その他新興国経済
内外経済ウォッチ『アジア・新興国~中南米での「左派ドミノ」はチリに到来~』(2022年2月号)
西濵 徹
南米チリでは、昨年12月に大統領選挙の決選投票が実施された。11月の第1回投票には計7人が出馬したが、右派・チリ共和党から出馬したホセアントニオ・カスト氏が1位、左派・社会融合党から出馬したガブリエル・ボリッチ氏が2位となり、左右両極の候補者による決選投票となった。チリでは、ピノチェト元政権下で発布された現行憲法で『小さい政府』を志向する新自由主義的な経済政策が採られてきたが、その背後で経済格差が社会問題となってきた。
結果、2019年のピニェラ政権による公共料金引き上げをきっかけにした反政府デモはその後に一部が暴徒化し、APEC首脳会議やCOP25が開催断念に追い込まれる事態に発展した。その後は改憲議論が盛り上がり、昨年5月の制憲議会選では左派政党や反体制派などが多数派を占める事態となった。ボリッチ氏は制憲議会選での左派躍進の旗印となり、『大きな政府』への転換やポピュリズム的な財政政策を志向したほか、CPTPPをはじめとする自由貿易協定の見直しを主張するなど通商政策の大転換を訴えた。他方、チリは輸出依存度が高く、ボリッチ氏の掲げる通商政策の転換には経済界や右派を中心に忌避感が強まり、旧来の中道右派勢力の支持者の『受け皿』としてカスト氏がボリッチ氏を猛追した。結果、1回目の投票においてカスト氏がボリッチ氏を僅差で上回る結果に繋がる事態になったとみられる。

決選投票に向けては、左右両極の候補者がともに『中道』派を如何に取り込むかが課題となった。カスト氏は、ピノチェト軍政時代を礼賛する発言を繰り返すほか、その直截的な言動が米国のトランプ前大統領やブラジルのボルソナロ大統領と準える向きもみられた。また、経済政策面では新自由主義的な政策運営を称賛する一方、ここ数年の治安情勢の悪化を受けて、治安維持に向けて国民保守主義色の強い主張を繰り返した。他方、銅公社(コデルコ)の民営化に関する主張を弱めたほか、法人税や付加価値税の減税にも慎重論を唱えるなどバラ撒き姿勢のトーンを抑える動きをみせた。他方、ボリッチ氏も自由貿易協定についてトーンを弱めたほか、財政規律を重視するとともに、富裕層や鉱山会社への増税の主張も微修正させた。こうしたなか、ボリッチ氏は性的少数者の権利向上などで都市部や若年層の取り込みに成功した。
ボリッチ氏はチリ史上最年少の大統領となり、国民の間で分断が懸念されるなかで宥和を意識する姿勢をみせる。他方、中南米においては『左派ドミノ』の動きが広がっているなか、伝統的に新自由主義的な経済政策を志向したチリにも到来したことを意味する。足下のインフレ率は昂進するなか、政策転換の大転換を懸念して金融市場では通貨ペソ安が進む動きがみられ、インフレが一段と昂進するリスクもある。当面はボリッチ次期政権の動きに注目が集まる展開が続くであろう。

西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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