内外経済ウォッチ『米国~中間選挙でバイデン政権レイムダック化のリスク~』(2022年2月号)

桂畑 誠治

目次

バイデン大統領の支持率は40%台前半に低下

バイデン政権が23年以降レイムダック化する可能性が高まっている。アフガニスタンからの米軍撤退戦術の失敗、新型コロナウイルスの感染拡大防止の失敗、インフレ高進、公約に掲げたインフラ投資法案や税制・支出法案の成立の遅れ等によって、バイデン大統領の支持率は40%台前半まで低下し、上昇に転じる兆しは全くない。現職大統領の支持率が低いほど中間選挙で与党が議席を大幅に減らす可能性が高まる。40%台前半の低い大統領支持率では、下院で民主党が40議席程度減らすとみられる。米議会の勢力図は1月7日時点で上院が民主党50議席、共和党50議席と同数のうえ、下院では民主党221議席、共和党211議席と、民主党が僅差で議会の過半数を握っている状況のため、中間選挙では民主党が下院で過半数を割り込む恐れがある。

バイデン大統領の支持率再上昇が困難な情勢に

中間選挙に向けてバイデン大統領の支持率回復の可能性は残されているだろうか。大規模インフラ投資に続いて、1.75兆ドルの税制・支出法案の成立、経済や労働市場の拡大、インフレの低下が必須条件となる。税制・支出法案は、上院民主党の穏健派議員が規模や内容で反対しているため成立が危ぶまれているが、選挙公約の実現のため内容を修正したうえで、成立が見込まれる。この法案の成立もあり、経済成長は堅調さを維持し、失業率の低下、求人の増加など労働環境の改善が継続すると見込まれる。一方、インフレは21年11月のPCEデフレーターが前年同月比+5.7%(10月:同+5.1%)、PCEコアデフレーターが同+4.7%(10月:同+4.2%)と高進を続けており、ピークアウトが遅れている。主要国による戦略備蓄の放出、新型コロナウイルスのオミクロン変異種による感染拡大が景気を悪化させるとの見方から原油価格上昇に歯止めがかかったものの、世界的な経済成長の持続を背景に再上昇する可能性がある。

バイデン政権下でデルタ変異株による感染第5波、デルタ変異株とオミクロン変異株による感染第6波に見舞われている。7日間平均の感染者数が22年1月5日に約60万人と過去最悪となり、死者数が約1,380人と高水準で推移している。感染収束の兆しが見られないうえ、世界的なワクチン接種の遅れによって異なる変異種による感染第7波に見舞われる可能性は否定できず、サプライチェーンの問題、労働力不足などが続く可能性がある。また、住宅価格の高騰などによって賃貸料や帰属家賃の上昇が継続するとみられ、中間選挙に向けてインフレが高止まりするリスクがある。そうなれば、FRBが早期に金融引き締めを実施することで、景気が悪化し、バイデン大統領の支持率上昇を妨げる一因になりかねない。

ねじれ議会でバイデン政権がレイムダック化へ

22年の中間選挙の結果、上院と下院で多数党の異なるねじれ議会となれば、民主党と共和党の対立により議会で法案が成立し難くなる。民主党が支持する富裕層への増税や環境や金融規制の強化、社会保障の拡充などは、共和党の反対で実現が不可能となり、バイデン政権は23年以降レイムダック化しよう。また、債務上限の引き上げや予算での対立に伴う政府機関の閉鎖などが頻繁に起き、経済成長を抑制すると予想される。

バイデン政権のレイムダック化によって政策が停滞すれば、24年の大統領選挙で不利に働く。トランプ前大統領が24年の大統領選の共和党候補者になる可能性は否定できず、仮に大統領職に返り咲けば、再び政治・経済・外交で混乱を招こう。現在でも遅れが指摘されている環境対策を逆行させたり、同盟国を含めた貿易戦争を再開したりする恐れがある。

桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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