内外経済ウォッチ『米国~金融緩和策の縮小が近づいている~』(2021年8月号)

桂畑 誠治

目次

FRBはテーパリングの準備開始

米国では、新型コロナウイルスワクチン接種の進展や感染拡大ペースの鈍化による事業再開を背景に経済活動が活発化した。それに伴って、経済正常化への道筋が見えてきたことから、金融政策の出口戦略が始まろうとしている。

6月に開催されたFOMCで、FRBは政策金利であるFFレート誘導目標レンジ0.00~0.25%の据え置き、月額最低1,200億ドルの資産購入の継続のほか、政策金利、資産購入に関するフォワードガイダンスの維持を全会一致で決定した。注目が集まったのは同時に公表された経済金利予測だ。23年のFFレート誘導目標レンジの予想中央値が、0.625%と前回3月予想の0.125%から25bpの利上げを2回行う水準に上方シフトしたため、FRBがタカ派に傾いたのではないかとの思惑が広がった。ただし、FOMC参加者の経済金利予測は参加者の予測値を集計しただけであり、FRBの正式な見通しではなく、当然FRBの方針でもない。

23年の利上げ観測の高まりで空騒ぎが起きたが、金融緩和策の出口戦略の開始は近づいている。6月のFOMCでは月額1,200億ドルとしている資産購入の規模を縮小する基準に向けて、経済がどの程度前進したかについて議論された。そして「一段と顕著な進展の達成はまだかなり遠いが、参加者は進展が継続すると見込んでいるため、7月のFOMCから進展評価を開始する」との考えが示された。

図表
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年末に向けて金融緩和効果は縮小へ

テーパリングの決定に重要な影響を与える労働市場は、非農業部門雇用者数が6月に前月差+85.0万人(5月 :同+58.3万人)と加速した。連邦政府の失業保険の上乗せによる就業意欲の後退のほか、コロナ禍で増加していた食品・飲料品店などの減少など雇用を抑制する要因があるなか、行動制限の緩和を背景に飲食店、芸術・エンターテイメント・余暇、宿泊などが高い伸びとなり、全体を押し上げた。一方、6月の失業率は、5.9%(5月:5.8%)と上昇した。しかし、労働市場への参入が増加したことによる上昇であり、人手不足の緩和にも繋がるため、米経済にとって前向きな動きといえる。

足元の米労働市場の回復の勢いは、失業保険の上乗せによって米政権やFRBが当初期待していたほど強くないものの、景気拡大に伴い労働需要が強いほか、失業保険の拡充による影響は7月に弱まり、8月で終わるため、労働市場の回復ペースは年末に向けて速まることが予想されている。このような中、9月のFOMCで資産購入に関するフォワードガイダンスの修正を含め、テーパリングの概要や開始が近いことを示すと見込まれる。市場は既に金融緩和の縮小を想定しているが、縮小ペースやその基準で市場との対話に失敗すれば、金融市場の混乱を招く恐れがある。

図表
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桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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