内外経済ウォッチ『米国~供給制約とインフレが成長の足枷に~』(2021年7月号)

桂畑 誠治

目次

堅調な景気のもと供給制約が一段と強まっている

米国では、新型コロナウイルスワクチンの接種増加や感染拡大ペースの鈍化による規制緩和を受けた事業の再開によって経済活動がより活発化している。需要が強まると同時に、労働力不足、半導体不足、コンテナ不足などによってサプライチェーンの問題などが起きている。

5月のISM景気指数は、製造業が61.2、非製造業が64.0とともに高い水準を維持しており、足元で米経済が堅調さを保っていることを示している。しかし、同統計の構成項目である入荷遅延DIが製造業で過去最高、非製造業でもコロナ危機後の高い水準に近づいており、供給制約が強まっていることが示されている。製造業の多くで、自社やサプライヤーの需要増への対応が困難な状況が続いている。重要な基礎材料の広範囲に及ぶ不足、輸送能力・労働力・部品の不足、必要な人材の補充が困難であること等が、製造業の成長を妨げ続けている。また、非製造業では、一部の生産能力の制約、資材不足、天候に関連した遅延、物流、人的資源の不足などの問題を抱えている。

高いインフレ上昇は需要を抑制

労働市場では、5月の非農業部門雇用者数が前月差+55.9万人と、新型コロナウイルス感染拡大のペース鈍化などに伴う行動制限の緩和を背景に飲食店、芸術・エンターテイメント・余暇、宿泊などで増加したが、伸びは抑えられた。連邦政府の失業保険支給額の上乗せによる就業意欲の後退などが背景にあり、賃金には上昇圧力がかかっている。

インフレ率では、4月のPCEコアデフレーターが前年同月比で+3.1%と92年7月以来、28年9カ月ぶりの高い伸びとなった。半導体不足による自動車の供給制約で中古車価格の異常な上昇が継続したほか、ワクチン接種の増加を受けた規制の緩和によってホテルなどの宿泊や航空運賃が前月比で過去最大の上昇率を記録した。加えて、コロナ危機によって前年にインフレ率が大幅に低下したベース効果で前年比の伸び率が大きくなった。

インフレ率は、21年末にかけて前年の低下の影響を受けるため、高い伸びが続くとみられるが、世界経済の回復などによる供給制約の強まりが続けば、上昇率が一段と高まる恐れがある。さらに、OPECプラスによる原油の生産調整や需要の拡大によってエネルギー価格が上昇を続ければ、家計の購買力を弱め、個人消費が抑制される可能性がある。

現在、米経済は供給制約などの逆風の下でも堅調さを維持しているが、供給制約のさらなる強まりのほか、インフレ率が上昇を続ければ、米国の経済成長率は大幅に下振れる恐れがある。

資料1
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資料2
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桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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