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注目のキーワード『EBM(根拠に基づく医療)』/編集後記(2021年6月号)

重原 正明

EBMとはEvidence-Based Medicineの略で、「根拠に基づく医療」と訳されます。臨床試験などの科学的根拠に基づいて行われる医療行為(もちろん患者の意向等は尊重する)のことです。

医療行為への統計学の応用は、19世紀中ごろのクリミア戦争におけるナイチンゲール氏の活動などに遡れますが、EBMという用語については1991年にカナダのマクマスター大学のG.H.Guyatt氏が用いたのが最初とされます。1990年代以降、医療分野においてはEBMが行われ、新薬やワクチンの有効性の判定、手術の適否判断、口腔衛生と健康状態との関係など、多方面で医療の質の向上に貢献しています。例えば、近年高齢者に対したんぱく質摂取が奨励されるように変わったのも、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会報告書」にあるように、EBMの成果と言えましょう。

EBMを可能にしたものとして、臨床研究データ等のエビデンスの蓄積と、そのデータベース化があります。例えば米国のデータベースMEDLINEでは医学生物学系の論文2,700万件以上が検索できます。このようなデータベースの出現により、一定分野の研究論文を横断的に見て、治療行為の効用の有無等につき総合的に評価する、ということが広く行われるようになりました。

医療と異なり、介護分野のEBM(日本では「科学的介護」と呼ばれています)はエビデンスの蓄積が少ないことからまだ普及していません。これは介護分野では、新薬開発のようなエビデンス集めの動機となる事象が乏しいことなどによると思われます。しかし、介護人材の不足に効率化と自立支援で対応するため、また日常生活動作の維持向上とエビデンス収集が介護保険の点数で評価されるようになったため、近年介護分野でもEBM導入の動きが出始めています。

国が試行してきた2つの介護エビデンス収集のためのデータベース(CHASE,VISIT)が成果を挙げていることから、この4月より2つが統合(LIFE)され本格稼働を開始しました。介護の世界にもEBM、「科学的介護」が浸透して、介護の現場が改善されることを期待したいと思います。また、介護エビデンスの収集には、ICTやデータサイエンスといった新しい技術の適用が有効と考えられ、その方面の進展も興味深いところです。        

(総合調査部 政策調査グループ 研究理事 重原 正明)

編集後記

このところ2020年の出生数が大幅に減少したというニュースが相次いだ。日本では速報ベースで872.7千人、対前年▲2.9%、10年連続減少。米国は暫定値で360.5万人、対前年▲4.0%、6年連続減少。中国は1003万人、対前年▲14.9%、4年連続減少だ。いずれも減少は数年続いており2020年がコロナ禍で特別ということではなく構造的な現象だ。

人口動態は一国の経済成長に係る指標というだけではなく社会、文化、安全保障まで含めた国の在り方に係る重要な指標である。中国は2020年実施の国勢調査結果について通常であれば4月に主要データを公表の予定であったが、「2020年の人口は増加した」と発表しただけで詳細な説明はない。この問題に相当ナーバスになっていることがうかがわれる。人口No1は14億人超の中国というこれまでの常識も、インドが13.6億人(国連データ、2019年)と聞けば意外に早くNo1の座が変わることがわかる。

人口動態に関して日本は間違いなく世界のトップランナーだ。少子化というだけでなく総人口の減少、超高齢社会という問題がある。確かに元気な人が増えて平均寿命が延びることは豊かで安全で安心できる世の中であることの一つの証、疑いない。が、一方で急速に国の土台が細くなっている。ここ数年がどんな社会を目指すのか考え動く最後のタイミングのような気がする。

トップランナーゆえに2020年の日本の中位年齢は48歳(国連データ)、米国は38歳、中国も38歳、インドは28歳。日本が一番“大人”だ。経済的に一番勢いが出ると言われる40歳は過ぎてしまったが、大人の知恵は持っているはず。今動かなければ流れに流されるだけで意図した場所にはたどり着けないと思う。(H.S)

重原 正明


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