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2026.10.26
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ブラジル大統領選、ルラ氏が逆転勝利も政権運営には難路
~議会での右派勢力拡大が足かせに、財政健全化と家計支援の両立が焦点~
西濵 徹
- 要旨
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- ブラジルでは、10月25日に実施された大統領選挙の決選投票において、左派で現職のルラ大統領が右派のフラビオ・ボルソナロ氏を破り、再選を決めた。第1回投票ではフラビオ氏が首位となったものの、ルラ氏は選挙戦略の立て直しや支持者の動員強化などを通じて劣勢を挽回し、民主化以降で初となる決選投票での逆転勝利を収めた。ただし、投票時間の延長を巡る混乱などを背景に、選挙後の政治的対立が長期化する懸念も残る。
- 一方、同時に実施された議会選挙では、右派PLが上下院で最大勢力となる見通しであり、ルラ氏の政策運営は困難に直面することが予想される。経済政策では、最低賃金の引き上げや低所得者支援などを通じて個人消費を下支えする方針が続くとみられるものの、政府債務が高水準にあるなか、財源確保と財政健全化の両立が課題となる。金融市場においては、フラビオ氏による財政改革への期待が後退することで、短期的に株安・レアル安が進む可能性がある一方、その後の動向については経済チームの人事や具体的な財政措置、議会との合意形成に左右されると考えられる。
- 外交面では、中国やBRICS諸国との連携を重視する姿勢が続く一方、米国との通商・投資面での実務的な調整が不可欠となる。中南米で右派政権が広がるなか、ルラ氏の再選は域内の左派勢力にとって重要な意味を持つものの、次期政権の安定性は、議会との協調関係の構築や財政運営への信認確保を実現できるかに左右されることになろう。
- 目次
【現職のルラ氏が決選投票で第1回投票での劣勢を挽回し、通算4期目の政権発足へ】
ブラジルでは、10月25日に実施された大統領選挙の決選投票において、左派PT(労働者党)から出馬した現職のルラ大統領が、右派PL(自由党)のフラビオ・ボルソナロ上院議員を破り、再選を決めた。ブラジル高等選挙裁判所(TSE)は開票率97.69%の段階でルラ氏の当選を発表するとともに、最終的なルラ氏の得票率は51.79%、フラビオ氏は48.21%となった。これにより、ルラ氏は2027年1月5日から通算4期目の政権を担うことになった。
10月4日に実施された第1回投票では、フラビオ氏が47.03%、ルラ氏が45.16%を獲得し、事前予想を覆してフラビオ氏が首位で決選投票に進んだ(注1)。投票前日に公表された世論調査においても、フラビオ氏が51%、ルラ氏が49%となっていた。ただし、同調査の誤差は上下2ポイントとされており、選挙直前まで両者の争いは拮抗していた。今回の結果は、ルラ氏が第1回投票での劣勢を挽回したことを示しており、民主化以降の大統領選において第1回投票で2位となった候補が決選投票で逆転勝利するのは初めてとなった。
ルラ陣営は、第1回投票後に選挙戦略を立て直し、インターネットを通じた発信や支持者の動員を強化してきた。有権者の間では、ボルソナロ一家の政権復帰を警戒する動きも広がりをみせるなど、こうした取り組みが支持の積み増しにつながった可能性がある。事実、棄権率は第1回投票の21.08%から、決選投票においては19.21%に低下している。とはいえ、決選投票においてルラ氏が逆転劇を演じることになった要因を判断するには、最終的な地域別得票や投票率の変化を見極める必要がある。
投票当日には公共交通機関の運行を巡る問題や大雨の影響などを受けて、投票時間の延長が決定された。最高裁判所(STF)は投票時間を現地時間の25日19時まで延長する決定を下したものの、TSEは17時時点で投票を終了していなかった投票所に限って延長を認め、集計・結果公表は19時以降に再開された。こうした対応を巡って混乱も生じており、選挙手続きに対する異議申立てにつながる可能性も指摘されている。選挙結果を巡る政治的な対立が長期化すれば、政策協議の遅れのほか、金融市場の不安定化につながる可能性も考えられる。
【議会選では右派が勢力を拡大しており、ルラ氏にとって再選後の政策運営は困難に直面】
ルラ氏の再選が確定した場合でも、政権運営を取り巻く環境には厳しさが残る。大統領選の第1回投票と同時に実施された10月4日の議会選挙では、フラビオ氏の所属するPLが下院で121議席を獲得し、PTの70議席を上回った。上院においてもPLは19議席を獲得し、非改選分と合わせて29議席となる見通しで、PLは上下院双方で最大勢力となることが見込まれる。
このため、ルラ氏が大統領職を維持しても、社会政策や財政措置を実現するには、中道政党を含む議会勢力との調整が欠かせない。政策ごとに協力を取り付ける余地はあるものの、その過程において予算配分などを巡る要求が強まれば、財政健全化との両立のハードルは高まる。次期政権の政策実行力を評価するうえでは、大統領選の勝敗に加え、議会との協力関係をどこまで構築できるかが焦点となる。
【家計支援の継続が見込まれる一方、財源確保と債務安定化が課題となる】
経済政策では、ルラ氏が掲げる最低賃金の実質的な引き上げのほか、生活必需品に対する減税、低所得者に対する税還付、零細事業者向け支援などを踏まえると、再選後も家計の購買力を支える政策が重視されると予想される。こうした政策は、近年の同国経済成長のけん引役となってきた個人消費の下支えにつながることが期待される。その一方、実施方法によっては、歳出増や歳入減による財政への悪影響が懸念されることから、安定的な財源を確保することが必要になる。
2023年にルラ氏が大統領に就任して以降、社会支出の拡充などを背景に財政運営への懸念がくすぶっている。利払い負担の増大や行政訴訟による判決債務(プレカトリオス)の増大などによる歳出増を受けて公的債務残高の対GDP比は上昇しており、2026年8月末時点では82.9%となっている(図1)。債務残高が増加するなかでルラ氏が公約に掲げる家計支援を拡充するには、歳出の優先順位を見直し、中期的な財政運営への信認を維持することが不可欠となる。財政に対する懸念を理由に長期金利が上昇基調を強めれば、政府の利払い負担が増大し、政策に充てられる財源は一段と制約されることも予想される。

現地報道によれば、ルラ政権の経済チームは、歳出抑制を強める憲法改正案のほか、政策融資の見直しを検討していると報じられている。しかし、正式な提案の内容については、ルラ氏自身の判断のほか、次期政権の経済チームの構成に左右される。今後は、公約の実現に必要な財源と債務安定化への道筋とともに、それを議会との合意につなげられるかが注目される。
【金融市場では選挙前の期待の修正が起こる一方、その後は具体的な政策が評価を左右するか】
選挙前の金融市場においては、フラビオ氏による財政改革への期待がブラジル資産を支える動きが確認された。第1回投票が行われた直後には、主要株価指数のボベスパ指数とともに、通貨レアルの対ドル相場も大幅に上昇するなど、株高・レアル高が進んだ(注2)。一方で、フラビオ氏の公約は、大規模な歳出削減を掲げる一方、社会給付の維持なども盛り込まれていたため、具体策の実現性に市場の期待が先行する面もあったと考えられる。選挙戦終盤にかけては、ルラ氏がフラビオ氏を追い上げるとの見方が広がるなか、株価・レアルともに上値が抑えられる動きもみられた(注3)(図2)。

こうしたことから、ルラ氏の再選に伴って財政改革への期待が修正され、一旦はレアルや株式への売り圧力が強まることが予想される。その後の市場の評価については、財務相をはじめとする経済チームの人事のほか、歳出・歳入措置の内容、議会との合意形成に左右されることが考えられる。さらに、実効性のある財政措置が示されれば、当初の懸念が後退する余地もある。
金融政策への影響も注目される。中銀は9月の定例会合において政策金利(Selic)を13.75%に引き下げたものの(注4)、財政運営に対する懸念が通貨安や期待インフレ率の上昇を引き起こすことになれば、追加利下げの余地を狭めることは避けられない。一方で、財政運営に対する信認が改善して通貨や長期金利が安定すれば、物価安定と景気下支えの両立を図りやすくなる。選挙後の財政運営は、金融環境を通じても景気の先行きを左右すると考えられる。
【外交面では多国間協調を重視する姿勢が続く一方、対米関係の実務的な調整が不可欠になろう】
外交面では、ルラ氏が再選されたことにより、中国やBRICS諸国との連携、多国間協調を重視する方針が継続するとみられる。一方、中国と米国は、ブラジルにとってそれぞれ第1位、第2位の貿易相手であることから、両国との経済関係を維持する必要性は極めて高い。米国との間では、9月に関税や貿易枠組みを協議する作業部会が設置されており、重要鉱物を巡る協力も交渉上の論点となっている。
このため、ルラ氏が再選された後も、国家主権や対外政策の自律性を重視しつつ、米国とは通商・投資面で実務的な調整を進める必要がある。中南米ではここ数年、アルゼンチン、エクアドル、ボリビア、チリ、コスタリカ、ペルーで右派政権が誕生した。こうしたなか、トランプ米政権がいわゆる「ドンロー主義(トランプ流モンロー主義)」の下で、中南米への関与を強めていることも、地域の政治情勢を考えるうえで無視できない。一方で、メキシコなど中南米に残る左派勢力にとっては、ブラジルという重要な足場が維持される意味は小さくない。とはいえ、前述の通り国内議会では右派が存在感を高めており、政策運営のハードルは高まっている。ルラ氏の再選を政治情勢の全面的な安定につなげるには、選挙後の融和、議会との協調、財政運営への信認確保を具体的な成果に結び付けることが求められることになろう。
注1 10月5日付レポート「ブラジル大統領選は決選投票へ、フラビオ氏が首位」
注2 10月6日付レポート「金融市場はブラジルの右派回帰を好感、株価・レアルともに上昇」
注3 10月20日付レポート「ブラジル大統領選は決選投票を前に一段と接戦の様相をみせる」
注4 9月17日付レポート「ブラジル中銀は5会合連続の利下げも、緩和継続には慎重姿勢」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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