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金融市場はブラジルの右派回帰を好感、株価・レアルともに上昇

~議会選も右派躍進、財政再建への期待の一方で実現性に課題、左派の巻き返しも要注視~

西濵 徹

要旨
  • ブラジル大統領選の第1回投票では、事前予想に反して右派PLのフラビオ・ボルソナロ氏が47.03%を獲得し、現職のルラ大統領(45.16%)を上回って首位となり、両者による決選投票に持ち越された。中南米で右派政権が相次いで誕生するなか、この結果はブラジルでも右派勢力が伸長していることを示している。

  • 金融市場は、歳出抑制や財政規律の強化を掲げるフラビオ氏の優勢を好感している。ルラ政権下では、社会保障拡充や現金給付増額、判決債務の増大などを背景に財政悪化への懸念が強まり、高金利の一因となってきたためである。また、同時に行われた連邦議会選挙でもフラビオ氏を支持するPLが上下両院で議席を大きく伸ばし、中道・右派勢力を合わせれば下院で過半数を形成できる可能性が高まった。このため、フラビオ氏が大統領に当選した場合、政策を進めやすい政治環境が整うとの期待も市場の好反応につながっている。

  • ただし、フラビオ氏には行政府を率いた経験がなく、財政再建の実現性にも不透明感が残る。ブラジルでは裁量的支出が限られ、歳出削減には社会保障や年金、公務員給与などへの切り込みが必要となるため、有権者の反発を招く可能性がある。一方、ルラ氏は決選投票に向け、中道派のアルミキン副大統領を財務相に起用する案を検討するなど、中道路線への転換を模索しているとされる。今後は、決選投票の行方に加え、ルラ氏の政策修正を金融市場がどのように評価するかが焦点となる。

ブラジルでは10月4日、大統領選挙の第1回投票が実施された(注1)。今回の選挙は、左派PT(労働者党)から出馬した現職のルラ大統領と、ボルソナロ前大統領の長男で右派PL(自由党)から出馬したフラビオ・ボルソナロ氏の事実上の一騎打ちであった。事前の多くの世論調査においてはルラ氏の優勢が伝えられてきた。しかし、即日開票の結果、フラビオ氏の得票率は47.03%とルラ氏(45.16%)を上回り、両者による決選投票に持ち越されることとなった。中南米ではここ数年、アルゼンチン、エクアドル、ボリビア、チリ、コスタリカ、ペルーで右派政権が誕生する流れがみられる。こうしたなか、第1回投票においてフラビオ氏が首位となったことは、ブラジルにおける右派勢力の伸長を示す動きと捉えられる。

早くも、金融市場はこの結果を好感している模様である(図1)。この背景には、左派のルラ政権の下では、社会保障の拡充や所得再分配政策が重視される一方、財政支出の拡大による財政悪化が懸念されてきたことがある。さらに、ルラ政権の下では、過去の労働訴訟、年金受給額の計算ミス、違法な増税に対する還付請求など多数の行政訴訟を抱えており、それに伴う判決債務(プレカトリオス)の増大が財政政策の足かせとなってきた。加えて、ルラ政権は大統領選直前の9月、低所得者層向けの現金給付策(ボルサ・ファミリア)の給付額を約15%引き上げ、10月から実施することを決定したことから、財政状況のさらなる悪化を懸念する見方も出ていた。足元のブラジル経済は、インフレ圧力や財政運営への懸念を背景とする高金利が内需の重石となっていた。こうしたなか、フラビオ氏は、歳出抑制や財政規律強化を通じて公的債務の抑制に取り組む方針を掲げている。フラビオ氏が第1回投票を首位で通過したことを受けて、金融市場では同氏が掲げる財政規律強化への期待を織り込む動きが強まったとみられる。

図表
図表

金融市場がこうした動きをみせる背景には、同時に実施された連邦議会選挙で右派勢力が優勢となっていることも挙げられる。今回の連邦議会選挙では、下院(代議院)の全513議席と、上院(元老院)の81議席のうち3分の2が改選された。フラビオ氏を支持するPLは、上院で19議席を獲得しており、非改選議席を合わせた議席数は29となった。これは、軍事政権から民主化に移行した直後の1988年に制定された現行憲法下において、単一政党として過去最高の議席数だ。さらに、PLは下院でも121議席を獲得しており、改選前(98議席)から大幅に議席を積み増すことに成功した。これにより、中道政党や右派政党を合わせると、下院では半数を上回る勢力を構成することも可能となる。このため、決選投票でフラビオ氏が勝利すれば、その政策は新たな連邦議会の下で安定した支持を得られる見通しが高まっている。

とはいえ、フラビオ氏はリオデジャネイロ州議を4期、上院議員を1期務めるなど政治経験は長いものの、行政府を率いた経験はなく、具体的な政策運営や、議会との関係構築なども未知数である。また、フラビオ氏が掲げる歳出抑制策の実現のハードルは高い。背景には、政府が比較的自由に削減可能な裁量的支出はGDP比2%未満であるうえ、連邦予算の大半は社会保障給付や年金、公務員給与が占めていることがある。仮に公約通りの財政再建を進めるためには、これらの削減に踏み切る必要があり、有権者からの反発が強まる可能性がある。

一方のルラ氏は、決選投票に向けて事態の打開を図る姿勢をみせている。一部報道によれば、ルラ氏は再選された場合、アルミキン副大統領を財務相に起用する案を検討しているとされる。同氏は中道派のベテラン政治家であり、2006年の大統領選ではルラ氏に挑戦して敗れたものの、その後にサンパウロ州知事を2期務めた。今年4月まではルラ政権で開発・商工相を兼務し、米国との交渉窓口を務めたほか、財界との太いパイプを有し、政権内における「穏健派」とされる。ルラ政権が左傾化を強めるなか、同氏の存在感の低下が指摘されてきたものの、第1回投票での予想外の結果を受けて、ルラ氏もアルミキン氏の重用を通じて中道路線を強く打ち出すことを検討している模様である。今後の金融市場においては、こうしたルラ氏の政策姿勢の変化を市場がどのように評価するかにも注意が必要であろう。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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