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2026.10.20
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ブラジル大統領選は決選投票を前に一段と接戦の様相をみせる
~初の直接討論会は非難の応酬に終始、市場は選挙後の政策運営を巡る不透明感を警戒~
西濵 徹
- 要旨
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- ブラジルでは、10月25日に実施される大統領選挙の決選投票を前に、10月18日に初めてテレビ討論会が実施された。討論会では、ルラ大統領とフラビオ・ボルソナロ氏の間で汚職疑惑を巡る非難の応酬が目立ち、具体的な政策論争は限定的となった。直近の世論調査においては、両候補の支持率が接近しており、今後はテレビ討論会の影響に加え、支持層の投票参加の動向が勝敗を左右するとみられる。経済政策の面では、社会保障や公共投資を重視するルラ氏と、歳出削減や民間主導の成長を志向するフラビオ氏の違いが鮮明となる一方、財政健全化と景気下支えの両立は共通の課題となっている。金融市場においては、両候補の支持率が接近するなど選挙情勢を巡る不透明感が意識されており、選挙後の財政運営や議会との関係、対外政策の方向性がブラジル経済や金融市場を左右する重要な要因となろう。
- 目次
【初の直接討論会では汚職疑惑を巡る応酬が目立ち、具体的な政策論争は限定的】
ブラジルでは、10月25日に実施予定の大統領選挙の決選投票を前に、選挙戦が最終局面を迎えている。10月4日に実施された第1回投票では、ボルソナロ前大統領の長男で右派PL(自由党)から出馬したフラビオ・ボルソナロ上院議員が得票率47.03%、左派PT(労働者党)から出馬した現職のルラ大統領が同45.16%となり、いずれも過半数に届かなかった。このため、両候補による決選投票が実施されることとなった(注1)。こうしたなか、10月18日には両者による初めてのテレビ討論会が開催された。
討論会では、経済政策や汚職問題などが議題となったものの、双方による非難の応酬が目立ち、具体的な政策を巡る議論は限定的なものとなった。ルラ大統領は、過去3期にわたる政権運営を通じた社会保障政策や低所得者層への支援策などの実績を強調した。一方で、フラビオ氏は現政権の経済運営や汚職問題を批判し、政権交代の必要性を訴えた。特に、両候補に関連する汚職疑惑を巡る応酬は激しく、ルラ氏が双方の資産・金融取引に関する情報開示を求める場面もみられた。こうした展開は、ブラジル社会における政治的な分断の根深さを改めて浮き彫りにしたといえる。
【直近の世論調査では両候補の支持率が接近、テレビ討論会の影響を見極める必要がある】
一方、決選投票に向けた世論調査では、両候補の支持率が接近する動きがみられる。10月19日に公表された調査では、有効票ベースの支持率はフラビオ氏が51.1%、ルラ大統領が48.9%となった。10月9日に公表された前回調査では、それぞれ52.8%、47.2%であったため、両候補の差は5.6ptから2.2ptに縮小した。さらに、同日に公表された別の調査では、フラビオ氏が50.3%、ルラ大統領が49.7%と、統計上の誤差を考慮すれば両候補が拮抗する結果となっている。
ただし、これらの調査はテレビ討論会の前に実施されたものであり、討論会の内容が有権者の投票行動に与えた影響を直接示すものではないことに注意する必要がある。今後公表される調査において、支持率の変化が確認されるかが注目される。第1回投票では、棄権率が21.02%に達しており、政治不信の広がりが有権者の投票参加に及ぼす影響も無視できない。なお、世論調査によれば、9割以上の有権者が投票先をすでに決めており、投票先を変更するつもりはないと回答しているとされる。このため、決選投票に向けては、明確な支持を示していない有権者の動向に加え、各候補が支持層の投票参加をどこまで促すことができるかが重要になる。
【両候補の経済政策を巡る方向性には明確な違い、財政健全化と景気下支えの両立が課題に】
経済政策を巡っては、両候補の方向性に明確な違いがみられる。ルラ氏は、社会保障政策の拡充や公共投資を通じた所得再分配と景気下支えを重視しており、現行の財政運営の枠組みを維持する姿勢を示している。一方、フラビオ氏は、公的部門の縮小や歳出削減、税負担の軽減を通じた民間主導の経済成長を志向している。10月18日のテレビ討論会においても、ルラ氏は過去の政権運営における経済成長や所得再分配の実績を強調したのに対して、フラビオ氏は生活費の上昇や家計債務の増大、政府債務の拡大を問題視する発言を行っている。
両候補ともに政府債務の増大に対処する必要性を認識している一方、財政健全化の実現に向けた具体的な手法には違いがある。ルラ氏は経済成長による税収拡大と歳出管理を重視する一方、フラビオ氏は新たな財政ルールの導入や行政経費の削減を打ち出している。とはいえ、いずれの政策についても、実現に際しては議会との調整が必要となるうえ、歳出削減や税制改革などが経済活動に及ぼす影響を見極める必要がある。このため、選挙後の経済政策を評価するうえでは、政策の方向性だけでなく、財源の裏付けや議会における実現可能性が重要となる。
【金融市場では選挙情勢に加え、財政運営や対外政策を巡る不透明感が意識される展開】
金融市場においては、選挙結果によって財政政策や国営企業の経営方針、対外政策などが変化する可能性が意識されている。第1回投票の直後には、フラビオ氏が首位となったことを受けて、通貨レアル、主要株価指数(ボベスパ指数)ともに大きく上昇するなど、右派政権の誕生を好感する動きをみせた(注2)。しかし、その後は両候補の支持率が拮抗している様子が確認されていることを受けて、ともに上値の重い展開となっている(図1)。また、長期金利には上昇圧力がかかる動きが確認されており、財政運営やインフレ動向を巡る懸念が引き続き意識される展開となっている。ただし、金融市場の動きには国際金融市場や原油価格の変動なども影響しており、選挙情勢のみを要因と捉えることは適切ではない。

さらに、対外政策を巡っては、両候補の間で姿勢の違いが明確であり、その行方が注目される。ルラ政権は、中国をはじめとする新興国との関係やBRICSの枠組みを重視してきた。一方で、フラビオ氏は米トランプ政権との関係強化を志向する姿勢を強めている。このため、選挙後の政権運営は、米中対立が続く国際環境において、ブラジルの貿易・投資関係にも影響を及ぼす可能性が考えられる。とはいえ、中国はブラジルにとって重要な貿易相手国であること、ボルソナロ前政権下でも中国との貿易が拡大してきたことを勘案すれば、外交姿勢の変化が直ちに経済関係の大幅な見直しにつながるとは限らないであろう。
今後は、決選投票までに公表される世論調査の動向に加え、両候補が財政健全化に向けてどの程度具体的な政策を示すかが注目される。また、10月25日の投票結果が確定した後も、新政権の政策運営や議会との関係を巡る不透明感が残る可能性がある。ブラジル経済は、財政の持続可能性を確保しつつ、物価の安定と経済成長を両立させるという課題に直面しており、選挙後の政策運営が金融市場の動向を左右する重要な要因となることが予想される。
注1 10月5日付レポート「ブラジル大統領選は決選投票へ、フラビオ氏が首位」
注2 10月6日付レポート「金融市場はブラジルの右派回帰を好感、株価・レアルともに上昇」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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