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ブラジル大統領選は決選投票へ、フラビオ氏が首位

~フラビオ・ボルソナロ氏が予想以上の得票、市場は財政・外交政策の行方に注目~

西濵 徹

要旨
  • ブラジルでは10月4日に大統領選挙の第1回投票が実施され、右派PLのフラビオ・ボルソナロ上院議員が47.06%で首位、現職のルラ大統領が45.13%で2位となった。いずれも過半数に届かなかったため、両氏は10月25日の決選投票に進む。事前の世論調査ではルラ氏がわずかに先行していたが、フラビオ氏は保守層を取り込み、治安対策などを訴えて予想以上に支持を伸ばした。一方、ルラ氏は社会保障政策を通じて一定の支持を維持しているものの、政権評価は割れており、再選に向けた明確な追い風とはなっていない。他候補の得票率はいずれも2%台にとどまり、決選投票では中道・右派層をどちらが取り込むかが焦点となる。
  • 今後は、財政政策や治安対策が主要な争点となる見通しである。ルラ氏が追加的な家計支援策を打ち出せば財政悪化への懸念が強まる可能性がある一方、フラビオ氏は歳出抑制や財政規律強化を掲げており、市場がこれを好感する可能性がある。ただし、フラビオ氏は行政府を率いた経験がなく、政策運営には不透明感も残る。また、政権交代となれば、米国との関係を重視する方向へ外交姿勢が変化する可能性もある。決選投票は接戦が予想され、その結果はブラジルの財政・金融政策、金融市場、外交政策の方向性を左右する重要な節目となる。
目次

【ブラジル大統領選挙は決選投票へ、フラビオ・ボルソナロ氏が予想以上の得票】

ブラジルでは10月4日、大統領選挙の第1回投票が実施された。今回の選挙では、左派PT(労働者党)から出馬した現職のルラ大統領が再選を目指す一方、ボルソナロ前大統領の長男で右派PL(自由党)から出馬したフラビオ・ボルソナロ上院議員が政権奪還を目指して立候補し、両氏を軸とする争いとなった。開票率99.90%段階では、フラビオ氏の得票率が47.06%と首位に立つ一方、ルラ氏は45.13%で2位となっている。いずれの候補も当選に必要な有効票の過半数には届かず、両氏は10月25日に予定される決選投票に進むことになる。

今回の結果で注目されるのは、フラビオ氏が事前の世論調査を上回る得票を確保したことである。投票前日に公表された世論調査では、有効票ベースでルラ氏が45%、フラビオ氏が42%となり、両氏は統計上の誤差の範囲内ながら数字のうえではルラ氏が先行していた。9月下旬の調査においても、ルラ氏が先行する結果が多くみられたことを勘案すれば、第1回投票ではフラビオ氏が選挙戦の最終盤にかけて支持を上積みした格好となる。

背景のひとつには、ボルソナロ前大統領を支持してきた保守層をフラビオ氏が取り込んだことがある。今回の大統領選挙では、経済や治安などが主要な争点となるなか、フラビオ氏は犯罪対策の強化などを前面に押し出した。一方、ルラ政権は、低所得者層向けの現金給付策(ボルサ・ファミリア)をはじめとする社会保障政策を通じて一定の支持を維持している。さらに、10月からは給付額が約15%引き上げられるなど、大統領選を意識した動きもみられた。しかし、政権に対する評価は割れている。投票直前の世論調査では、ルラ政権を「悪い・非常に悪い」と評価する割合が41%、「良い・非常に良い」とする割合が35%となり、政権への評価が再選への追い風になっていない様子が示されていた。

大統領選には計12人が立候補したものの、フラビオ、ルラ両氏以外の候補への支持は限定的となった。投票前には、中道・アバンテから出馬した精神科医で作家のアウグスト・クリー氏、極右・ミッション党から出馬したレナン・サントス氏、中道右派・社会民主党から出馬した元ゴイアス州知事のロナウド・カイアド氏が一定の支持を集めていた。しかし、これらの候補者の得票率はいずれも2%台にとどまり、2候補との差は大きく開いた。このため、決選投票では、これらの候補に投票した有権者、とりわけ中道・右派層をどちらが取り込むことができるかが焦点となる。投票直前の世論調査における決選投票の想定では、ルラ氏47%、フラビオ氏46%とほぼ拮抗しており、選挙戦は第1回投票以上に接戦となる可能性がある。

【決選投票に向けて、金融市場では経済政策の行方に注目が集まると予想される】

決選投票に向けては、経済政策も重要な争点となる。ルラ政権は、社会保障の拡充や所得再分配政策を重視する一方、金融市場には財政支出の拡大に伴う財政悪化への懸念がくすぶっていた。そのため、ルラ氏が再選に向けて追加的な家計支援策などを打ち出す場合には、財政運営に対する市場の懸念が一段と高まる可能性がある。一方のフラビオ氏は、歳出抑制や財政規律強化を通じて公的債務の抑制に取り組む方針を掲げている。大統領選と同時に実施された議会選挙においても、中道右派や右派勢力が勢力を拡大しており、仮にフラビオ氏が勝利すれば、金融市場がこうした姿勢を好感する可能性はある(図1)。とはいえ、フラビオ氏はリオデジャネイロ州議を4期、上院議員を1期務めるなど政治経験は長いものの、行政府を率いた経験はなく、具体的な政策運営や議会との関係構築などを巡って不透明な部分は少なくない。足元のブラジル経済は、インフレ圧力を背景とする高金利が内需の重石となっているうえ、財政運営への懸念が高金利の一因となってきた。こうした状況を勘案すれば、選挙後の財政運営に対する市場の評価は、金融環境や中銀の政策運営にも影響を与えると予想される。決選投票に向けて、両候補がいかなる財政政策の方向性を示すかに市場の関心が集まるであろう。

図表
図表

さらに、選挙結果はブラジルの外交政策にも影響を与えるとみられる。ルラ政権はこれまで、BRICSをはじめとする新興国との関係強化を図るとともに、米中双方と一定の距離を取りつつ独自外交を展開してきた。一方、フラビオ氏はボルソナロ前政権の政治的な流れを引き継ぎ、トランプ米政権との関係を重視する姿勢を示している。このため、政権交代となれば、対米関係や対中関係を含む外交姿勢にも変化が生じる可能性がある。

10月25日の決選投票に向けては、第1回投票で首位となったフラビオ氏が勢いを維持できるか、それともルラ氏が巻き返すかが焦点となる。第1回投票の結果は、事前の世論調査に比べてフラビオ氏への支持の強さを示すものとなったものの、決選投票を想定した直近の世論調査では両氏の支持率は拮抗している。このため、今後3週間の選挙戦では、他候補の支持層の取り込みに加え、財政政策や治安対策などを巡る両候補の主張が有権者の判断を左右するとみられる。大統領選挙の行方は、ブラジルの政治のみならず、財政・金融政策や金融市場、さらには外交政策の方向性を占ううえでも重要になろう。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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