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タイ、洪水被害が景気の新たな重石に

~経済活動への影響が広がるなか、債務増大と金利高止まりが財政対応を制約~

西濵 徹

要旨
  • タイでは9月中旬以降、豪雨による洪水被害が全国77県のうち44県に拡大している。2011年の大洪水を受けて工業団地の浸水対策が進んだため、現時点で当時ほど深刻な被害は確認されていないものの、一部工場の浸水や道路冠水による物流障害が発生し、自動車工場の操業停止やタイ国際航空の貨物受付停止、欠航など経済活動への影響が広がっている。被害額は110億~350億バーツ(最大GDP比0.2%)に達するとの見方もあり、原油高や公共投資の遅れを背景に景気が減速するタイ経済にさらなる下押し圧力がかかる懸念がある。

  • 政府は洪水被災者支援に20億バーツを充てるほか、2027年度の新規借入枠を1.26兆バーツとする公的債務管理計画を承認した。ただし、公的債務残高は2027年末にGDP比69%と法定上限の70%に迫る見通しであり、追加的な財政対応の余地は狭まりつつある。加えて、原油高や食料供給不安を背景とするインフレ懸念、世界的な金利上昇圧力を受けてタイの長期金利も高止まりしている。洪水対策など歳出圧力が高まるなか、財政余力の低下と債務負担の増大が、先行きのタイ経済の足かせとなる可能性がある。

タイでは、9月中旬以降に豪雨による洪水被害が広がり、同国中部や首都バンコク周辺など、全77県のうち44県が被災する事態に発展している。同国では、2011年に断続的な豪雨をきっかけに河川が氾濫し、中南部を中心とする工業団地が浸水被害に直面して操業停止に追い込まれた。その後、主要な工業団地においては防潮堤などの浸水対策が進められた。このため、現時点では2011年のような深刻な浸水は確認されていない。

しかし、一部の工場が浸水被害に見舞われたほか、周辺道路の冠水により物流に悪影響が出るなど、幅広い経済活動に支障が生じている。現地報道では、部品納入に支障が生じていることを理由に、複数の自動車工場が操業停止に追い込まれている。タイ国際航空も、多くの従業員が出勤できないことを理由に、当面の到着・出発貨物の受付を停止することを発表している。さらに、手荷物の取り扱い業務の一部に深刻な影響が出たほか、機材繰りを理由に一部で欠航が生じている。

洪水被害が一段と長期化する懸念があるものの、現時点において、洪水による被害額は少なくとも110億バーツ、最大で350億バーツ(GDP比0.2%)に及ぶとの見方が出ている。足元のタイ経済は、イラン情勢の悪化を受けた原油高によるエネルギーインフレが個人消費の足かせとなるとともに、公共投資の進捗の遅れも重なり、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率▲0.74%と3四半期ぶりのマイナス成長となるなど、景気に急ブレーキがかかっている(注1)。こうしたなか、当面のタイ経済を取り巻く環境は厳しさを増すことが避けられなくなっている。

政府は5月、イラン情勢の悪化による原油高を受けたエネルギー構造改革を目的に、4,000億バーツを上限とする緊急借入枠を設けることを承認した。さらに、今回の洪水被害を受けて、先月末には補正予算計画の一環として、被災者支援を目的に20億バーツを充てる方針を明らかにした。加えて、2027年度の公的債務管理計画を承認し、新規借入枠を1.26兆バーツとすることを決定した。同計画では、2026年末の公的債務残高はGDP比68%、2027年末には69%と一段と法定上限(70%)に近付く。足元では公的債務残高の拡大ペースが加速しており(図1)、洪水対策の余地が狭まっていることに注意が必要である。

図表
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このところの金融市場では、イラン情勢の長期化によるエネルギーインフレの長期化が意識されるとともに、エルニーニョ現象の発生による世界的な食料供給懸念も重なり、全世界的なインフレが警戒されている。こうしたなか、FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げ観測も影響して、世界的に金利に上昇圧力がかかっている。タイ市場では、中銀による利下げ実施にもかかわらず、インフレ顕在化を理由に長期金利は高止まりしており(図2)、債務負担の増大が懸念される。タイでは、公的債務の9割近くを長期債が占めており、短期的な金利変動の影響を受けにくい構造にある。とはいえ、コロナ禍を経て財政状況は悪化している。イラン情勢の悪化、洪水対策など歳出圧力が高まりやすい状況であるにもかかわらず、財政面での対応余地が狭まっていることは、先行きの同国経済にとって足かせとなる可能性がある点に注意が必要である。

図表
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以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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