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財政制約に直面する英バーナム政権

~インフレ・金利上昇で狭まる政策余地~

田中 理

要旨
  • 英国のバーナム政権は、発足時の想定以上に厳しい財政制約に直面している。2026/27年度4~8月の政府借入額は773億ポンドと、3月時点の予算責任局(OBR)の想定を81億ポンド上回った。歳入は予想を上回ったものの、社会保障給付や国債利払いなど既存政策に伴う歳出がそれ以上に膨らんだ。

  • 足元の歳出上振れは、バーナム政権発足後の政策転換が主因ではない。既に発表した電力VAT撤廃や企業税軽減、バス運賃上限などについては、既存事業の中止や歳出の優先順位変更などで代替財源を確保する方針を示している。

  • 一方、インフレや金利上昇による財政悪化で、3月時点で約240億ポンドあった財政上のバッファーは100億ポンド程度まで縮小したとみられる。10月28日の秋季予算では、公共住宅、医療・介護、国防など政権公約の財源確保と財政バッファーの再構築を同時に進める必要がある。

  • バーナム首相は所得税、VAT、法人税、社会保険料の主要4税の税率を引き上げない方針を示している。資産・不動産関連税や富裕層課税、税制優遇措置の見直しなどで必要な財源を確保し、政策公約と財政規律を両立できるかが、政権初の秋季予算の焦点となる。

7月に発足した英国のバーナム政権は(詳細は7月21日付けレポート「英首相交代、「北の帝王」が降臨」を参照されたい)、政権発足時に想定した以上に厳しい財政制約に直面している。2026/27会計年度に入って5ヶ月が経過したが、4~8月の政府の借入額は773億ポンドに達し、3月時点の予算責任局(OBR)の想定対比で81億ポンド上回っている。歳入が予想よりも増加した一方、それを上回る歳出の増加が借入額を押し上げた。歳出の上振れは、新政権発足後の政策転換によるものではなく、既存政策に伴う歳出が想定以上に膨らんだことが主因だ。

新政権が既に発表した政策は、原則として代替財源を示している。例えば、10月1日に開始する家庭向け電力の付加価値税(VAT)の撤廃は、前政権が進めたデジタル身分証明書の発行計画を中止することで財源を確保する。パブ、クラブ、ライブ音楽施設向けの事業税の軽減措置も、他の事業者向けの軽減措置の見直しで賄う。バス運賃の上限設定についても、政府内の歳出の優先順位を見直すことで捻出するとしている。一方、公共住宅の供給拡大、医療・介護制度改革、国防費の拡大、地方への権限移譲などの財源については、10月28日に予定する政権発足後で初となる秋季予算に盛り込む方針だ。

足元の歳出上振れを主導しているのは、社会保障給付や国債の利払いなどの増加だ。英国では、多くの社会保障給付が物価に連動して毎年増額される。例えば、失業手当、低所得者への就労支援、疾病や障害で働けない人への所得補償、子育て支援、低所得者への家賃補助などを統合したユニバーサル・クレジットの給付額は、前年9月の消費者物価(CPI)の上昇率を基準に翌年4月に改定される。国民年金の給付額は、賃金上昇率、CPI上昇率、2.5%のうち、最大のものに合わせて翌年4月に引き上げられる(3つの指標に基づいて決定されるためトリプルロックと呼ばれる)。また、金利上昇は新発国債や借り換え国債の調達金利の上昇を通じて、政府の利払い負担を押し上げる。さらに、英国では物価連動国債が発行されており、小売物価指数(RPI)に連動して元本が増加する。この元本の増加分は政府の利払い費として計上されるため、物価上昇も利払い負担を押し上げる。

ヒーリー財務相は、スターマー前政権から引き継いだ財政ルールを維持するとともに、不確実性に備えた財政上のバッファーを確保する方針を示している。3月時点で約240億ポンドあったバッファーは、物価上昇や金利上昇などに伴う財政見通しの悪化により、100億ポンド程度まで縮小したとされている。秋季予算で市場の信認を維持するには、公共住宅の供給拡大、医療・介護制度改革、国防費の拡大、地方への権限移譲など新政権の政策に必要な財源とともに、十分な財政バッファーを積み増すことが求められる。足元で残る100億ポンド程度のバッファーだけでは、新たな政策の財源確保と不測の事態に備えた余裕を両立することは難しく、追加的な財政改善策が必要となる可能性が高い。バーナム首相は同時に、所得税、VAT、法人税、社会保険料の主要4税の税率を引き上げない方針を示唆している。資産・不動産関連税の引き上げ、富裕層への課税強化、各種税制優遇措置の縮小などで、新規施策の財源を捻出しつつ、十分な財政バッファーを確保できるかに注目が集まる。

バーナム政権にとって誤算だったのは、政権発足後に新たな歳出を積み増したことではなく、インフレや金利上昇によって既存政策に必要な歳出が想定以上に膨らみ、政権が独自政策に振り向けられる財政余地が早くも狭まっていることだ。しかも、足元のインフレ再加速が今後の社会保障給付や利払い負担をさらに押し上げれば、財政余力は一段と縮小する恐れがある。主要4税の税率を引き上げずに、政権公約の財源確保と財政バッファーの再構築を両立できるのか。10月28日の秋季予算は、生活費支援や公共サービスの拡充を掲げるバーナム政権が、財政規律との両立に向けてどのような現実的な道筋を示すかを占う最初の試金石となる。

以 上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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