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- AfD躍進で揺らぐドイツの中道政治
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ドイツで20日に行われたメクレンブルク=フォアポンメルン州議会選挙では、極右政党AfDが4割近い支持を集めて第一党となる一方、メルツ首相率いるCDUは議席獲得に必要な5%を下回り、戦後初めて州議会選挙で議席を獲得できなかった。
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同日実施されたベルリン市議会選挙でもCDUとSPDが支持を失い、左翼党が初めて第一党となるなど、既成中道政党の退潮が鮮明となった。
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AfDが第一党となっても他党が協力を拒否するため政権獲得は難しいが、その排除には複数政党による連立が必要となり、政策決定を難しくする可能性がある。
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相次ぐ州議会選挙での敗北はメルツ首相の求心力を低下させ、経済・社会保障改革への政治的制約を一段と強める。構造改革の必要性が高まる一方、その実行に必要な政治的資源が低下するというジレンマが、メルツ政権にとって今後の大きな課題となる。
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■AfD躍進、CDUは歴史的敗北
20日に投開票が行われたドイツのメクレンブルク=フォアポンメルン州議会選挙では、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が38.2%の得票率で第一党の座を獲得した。AfDは6日のザクセン=アンハルト州に続き、旧東ドイツ地域の州議会選挙で4割前後の支持を集めて勝利した(詳細は9月7日付けレポート「ドイツ極右主導の州政府誕生に近づく」や9月14日付けレポート「ドイツ極右排除に迫る転機」を参照されたい)。さらに衝撃的だったのは、連邦政府を率いる中道右派の保守政党「キリスト教民主同盟(CDU)」の得票率が4.9%と議席獲得に必要な5%に僅かに届かず、第二次世界大戦後のドイツ史上で初めて州議会選挙で議席を獲得できなかったことだ。選挙結果を受け、CDUの州組織の幹部が相次いで辞任した。
CDUの票が伸び悩んだ背景には、AfDに保守票や現状不満票を奪われたことに加えて、AfD出身の州首相誕生を阻止しようと考えたCDU支持層の一部が、現在、同州政府を率いる中道左派政党「社会民主党(SPD)」に投票したことがある。事前の世論調査ではAfDのリードが伝えられ、AfD出身の候補とSPD出身の現職シュヴェージヒ氏のどちらを州首相に選ぶかが争点となった。選挙戦終盤でSPDが追い上げたのも、AfDに勝てる可能性があるSPDに投票する有権者が増えたことが影響した可能性がある。実際、前回2021年の州議会選挙でCDUに投票した有権者のうち、今回の州議会選挙では約2.8万人がAfDに、約2.5万人がSPDに流れた。
もっとも、メクレンブルク=フォアポンメルン州で、AfD出身の州首相が誕生するのは難しい。第一党となったAfDの獲得議席は、定数71のうち32議席で、単独での過半数(36議席)には届かない。主要政党はAfDとの協力に否定的で、ザクセン=アンハルト州でAfDとの予備協議を開始した新興左派政党「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」は、メクレンブルク=フォアポンメルン州では議席獲得に必要な5%に届かなかった。AfD側も他党から連立相手を確保できないため、野党にとどまる選択を受け入れる姿勢を示している。
現在の州政府は、SPDと旧東ドイツの支配政党の流れを汲む左派政党「左翼党(Linke)」が連立を組むが、今回の州議会選挙後は2党では過半数に届かない。環境政党「緑の党(Grünen)」も含めた3党で政権を発足する可能性がある。3党の合計議席は39と、過半数の36を上回る。選挙後、シュヴェージヒ州首相は左翼党、緑の党との政権協議に入る方針を示唆している。現時点ではシュヴェージヒ氏が続投し、SPD・左翼党・緑の党による3党連立政権が発足する可能性が高まっている。
仮に3党連立が成立しない場合には、SPDと左翼党が非多数派政権を模索する余地がある。新議会の招集後、州首相の選出投票が行われ、そこでは議会の過半数の賛成が必要となる。不成立の場合、再投票を行うが、4週間以内に首相を選出できない場合、州議会の解散是非を問う採決を行う。議会が解散されない場合、改めて州首相の選出投票を行い、そこでは最多票の獲得者が州首相となる。したがって、最終投票にずれ込んだ場合には、他党議員の棄権などで、SPDが主導する非多数政権が誕生する余地がある。
■相次ぐ敗北でメルツ首相に逆風
同日に行われたベルリン市(州に相当)の議会選挙では、左翼党が25.7%と得票率を倍増して初の第一党となった。これまで市政を率いてきたCDUは18.8%で第二党に転落し、連立を組むSPDも12.1%と歴史的な低得票率に沈み、両党の合計議席は過半数を大きく下回った。AfDはCDUに迫る16.3%の得票率を獲得し、前回の第5党から第3党に躍進した。考えられる連立の組み合わせとしては、①左翼党、緑の党、SPDの左派3党による連立か、②CDUとSPDの現政権に緑の党が加わる連立が考えられる。左翼党のエラルプ候補が市長(州首相に相当)に就任すれば、ベルリン市としては初の左翼党出身の市長誕生となる。
何れの選挙結果も、連邦政府を率いるメルツ首相にとっては大きな打撃となる。メルツ首相は選挙結果を「惨事」と認めたが、連邦首相並びにCDU党首の座にとどまり、今後も改革を実行すると明言した。党内からは、昨年5月の首相就任後の支持率低下と相次ぐ州議会選挙の敗北を受け、「メルツ首相では次の選挙を戦えない」との声も一部で浮上している。厳しい州議会選挙となることを見越してか、選挙前にCDU出身の8名の州首相が連名でメルツ首相を支持する方針を表明していた。現時点でCDUの執行部がメルツ氏の退陣に動いている訳ではないものの、今後の選挙を同氏の下で戦えるのかを巡って党内の懸念が高まっている。
有権者の間には、経済の立て直しや産業再生の遅れ、メルツ政権の年金・税・医療改革に対する反発、有権者の声がメルツ首相に届いていないとの不満などがある。メルツ首相の低支持率には、政策の内容や成果の遅れだけでなく、コミュニケーション面の問題も影響しているとの指摘がある。公的年金が将来的には老後の「基礎的な保障」にとどまるとの趣旨の発言や、年金支給開始年齢の引き上げ、労働時間規制の柔軟化など、国民により長く働くことを求める改革姿勢が、生活への不安を抱える有権者に負担増を迫るものと受け止められている。メルツ首相はその後、公的年金を削減する考えはないと釈明した。メルツ首相は改革を推進することで有権者の理解を得ようと考えているが、痛みを伴う改革への政治的支持を取り付けることが益々難しくなりつつある。選挙結果を受け、連立相手であるSPDが年金や社会保障改革などの政策転換を求める可能性もある。
■改革阻む「防火壁」のジレンマ
今回の州議会選挙は、旧東ドイツ地域を中心としたAfDの支持拡大と、CDUやSPDなど既成の中道政党の退潮を改めて印象付ける結果となった。AfDは移民政策の厳格化に加えて、ウクライナへの支援縮小やロシアとの関係正常化、ロシア産化石燃料の輸入再開などを訴えている。AfDが第一党となっても、他党がAfDとの協力を拒否する「防火壁」を維持する限り、直ちにAfDが州政府を率いることにはつながらない。一方、AfDを政権から排除するためには、政策的な距離のある複数政党による連立が必要となり、安定した政権運営や大胆な政策決定が難しくなる可能性がある。
連邦レベルでも同様の問題がメルツ政権に重くのしかかる。ドイツ経済の低迷が長期化するなか、企業競争力の回復や投資促進、社会保障制度の持続可能性確保など構造改革の必要性が高まっている。しかし、州議会選挙での相次ぐ敗北によってメルツ首相の求心力が低下すれば、国民に負担を求める改革への支持を取り付けることは一段と難しくなる。連立相手のSPDとの政策調整も難航する可能性があり、構造改革の必要性が高まる一方、それを実行するための政治的資源が低下するというジレンマに直面している。今後はメルツ首相がCDU内の支持を維持しながら連立政権をまとめ、経済・社会保障改革をどこまで実行に移せるかが、ドイツ政治だけでなく経済の先行きを左右する重要な焦点となろう。
田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

