デジタル国家ウクライナ デジタル国家ウクライナ

内外経済ウォッチ『欧州~短命政権の主役はイタリアから英国に交代~』(2026年8月号)

田中 理

目次

英国は過去10年で7人目の首相が誕生へ

2024年の総選挙で労働党を14年振りの政権交代に導いた英国のスターマー首相が辞任の意向を固めた。経済成長、インフラ整備、生活や雇用の安定、公的医療の再建、クリーンエネルギーの推進、安全な社会の実現、不法移民対策の強化、教育・就業機会の提供、地域格差の縮小などを掲げてきたが、保守党政権から引き継いだ厳しい財政状況、ブレグジットの後遺症、米国の関税引き上げ、イラン情勢の不安定化、物価上昇に対する国民の不満などの逆風もあり、政権の支持率が低迷した。地方選挙や下院補欠選挙での敗北も続き、党内からも辞任を求める声が浮上していた。

英国では近年、首相交代が相次いでいる。過去10年で7人目の首相が近く誕生することになる。後継首相の最有力候補は、労働党所属の下院議員であるバーナム前マンチェスター市長だ。首相就任を目指し、6月の下院補欠選挙で国政復帰を果たした。地方分権の推進、地域経済の活性化、公共サービスの充実、公営住宅の建設、水道やエネルギー事業の公的関与拡大、減税などの政策を掲げている。バーナム氏が首相の座に就けば、財政拡張色が強まるとの警戒も根強い。各種の世論調査では、英国を離脱に煽動したファラージ氏が率いる右派ポピュリスト政党・リフォームUKがリードする。新首相の下で英国が失った輝きと国民からの信頼を回復できるかに注目が集まる。

図表
図表

「パクス・メローニ」が続くイタリア

少数政党が乱立し、歴史的に短命政権が多いことで知られるイタリアだが、2022年に就任したメローニ首相の下で長期政権が続いている。連立を主導するのは、メローニ氏が党首を務める右派政党・イタリアの同胞で、ムッソリーニ支持者が結党した政党の流れを汲む。首相就任時にはその政治信条や過去の発言を不安視する声もあったが、就任後は欧州連合(EU)の幹部や欧州各国首脳と良好な関係を築き、財政運営やウクライナ支援などでEUとの衝突を避け、現実的な政権運営を行ってきた。メローニ政権の在任期間は5月に第二次世界大戦後の歴代政権で二番手に浮上し、9月には第二次ベルルスコーニ政権の1412日を超えて歴代最長を更新する見込みだ。

盤石にみえるメローニ政権だが、不安材料も浮上している。3月に行われた司法制度改革の国民投票は反対多数で否決され、政権にとって初の政治的な痛手となった。来年に総選挙を控え、左派系野党が共闘に傾いているほか、新たな極右政党が支持を伸ばしている。左派が統一会派の結成に成功し、連立を組む右派会派と新興極右の間で保守票が分断すれば、首相続投が危ぶまれる。与党は政権基盤の安定を目指し、選挙制度の改正に着手している。選挙制度改正の行方、野党が左派会派を結成できるか、新興極右を右派会派に取り込むかが、次の総選挙での勝敗の鍵を握りそうだ。

図表
図表

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ