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英中銀、11月利上げに傾く

~QTは国債市場の安定を優先~

田中 理

要旨
  • 英イングランド銀行は9月の金融政策委員会で政策金利を3.75%に据え置いた。投票結果は前回と同じ6対3だったが、中東情勢の長期化とエネルギー価格の上昇を受け、インフレへの警戒を一段と強めた。据え置きを支持した6名のうち、ベイリー総裁を含む4名も利上げに前向きな姿勢を強めており、11月会合で利上げに踏み切る可能性が高まっている。
  • 一方、長期金利の上昇や国債市場の安定性に配慮し、QTのペースを大幅に減速するとともに、市場での国債売却を当面停止し、来年4月までに政府の債務管理に統合する新たな売却方針を検討する。

利上げ見送りもインフレ警戒を強める

英イングランド銀行(BOE)は9月の金融政策委員会(MPC)で、前回7月の会合と同様に6対3の賛成多数で政策金利を3.75%に据え置いた。前回会合以降、中東情勢の緊張が一段と高まっており、原油や天然ガス価格は7月の金融政策レポート(旧物価レポート)の想定を大きく上回っている。17日に発表された8月の消費者物価は、エネルギー価格の上昇加速を受け、前年比+3.1%と5ヶ月振りに3%を上回った。BOEによれば、足元のエネルギー価格を機械的に反映しただけでも、消費者物価は来年1~3月期に4%をやや上回る可能性があり、これは7月時点の見通しを大きく上回る。

声明文では、「物価見通しに対するリスクは上振れ方向に傾いており、7月の金融政策レポートの時点よりも更にその傾向が強まっている」と、インフレへの警戒姿勢を強めている。それにもかかわらず今回利上げを見送った背景には、エネルギー高による企業の販売価格や賃金への二次的波及がまだほとんど確認されていないこと、労働市場に依然としてスラック(緩み)が残っていること、金融環境が既に相当引き締まっていることがある。

ただ、前回会合以降に発表された景気指標は、4~6月期の実質国内総生産(GDP)が前期比+0.4%とBOEの予想(同+0.3%)を上回り、7月の月次GDPも前月比+0.4%と堅調な景気拡大が続いている。雇用指標にも安定化の兆しが広がっており、BOEも労働市場のスラックが拡大を続けるとの従来の見方を改め、安定化しつつあると判断している。景気や労働市場の弱さを理由に利上げを見送る根拠は徐々に薄れつつある。

据え置き派もタカ派姿勢を強める

ベイリー総裁を含む6人のメンバーは、前回7月の会合と同様に据え置きに投票したが、議事要旨に記された個別意見をみると、タカ派への傾斜が進んでいる。ベイリー総裁は、エネルギーや食料価格の上振れリスクを強調したうえで、中東紛争の長期化によって二次的波及リスクが高まれば、金融政策を引き締める必要が生じる可能性が高いとの立場を示した。ロンバルデリ副総裁も、インフレリスクが前回よりも更に上方にシフトしたことを認め、紛争が長引くほど利上げの根拠が強まると指摘している。ラムスデン副総裁も、国内のインフレ圧力はなお比較的穏やかであるとしながらも、労働市場のスラックが底打ちしつつある兆候や景気が予想以上に底堅いことから、物価の上振れ圧力が続けば利上げが必要になると論じている。ブリーデン副総裁も、エネルギーショックの規模と持続期間が拡大するなか、二次的波及の可能性が高まったとし、リスクが顕在化すれば政策金利の引き上げで対応することが一段と適切になるとの認識を示した。ハト派姿勢を継続するディングラ委員とテイラー委員の2名を除く据え置き派の4名は、利上げ支持に傾いている。

前回同様に25bpの利上げを主張した3名も、利上げへの確信を強めている。グリーン委員は、景気や雇用指標の底堅さから労働市場のスラックが既にピークを打った可能性があると指摘し、二次的波及の決定的な証拠を待てば、政策が後手に回ると警告を発している。マン委員は、2027年初めにかけて消費者物価が一段と加速し、そのタイミングが春の賃金交渉と重なることを警戒しており、利上げが必要と主張している。ピル委員(チーフ・エコノミスト)は、エネルギーショックが7月時点の想定よりも長期化し、景気が予想以上に底堅いことから、利上げによって物価安定へのコミットメントを明確に示すべきと主張している。

投票結果は7月と同じ6対3だったが、据え置きを主張した委員の多くが利上げに傾いており、MPC全体の政策姿勢は明確にタカ派方向にシフトした。中東情勢の緊張とエネルギー価格の高止まりが続けば、次回11月のMPCで利上げに踏み切る可能性が高まる。11月には新たな金融政策レポートも公表されるため、エネルギー高の持続性や二次的波及の兆候を点検したうえで、利上げの是非を判断することになるだろう。

国債市場に配慮しQTを大幅減速

なお、BOEは今回のMPCで、量的引き締め(QT)の方針を大きく変更した。過去1年(2025年10月~2026年9月)は、満期償還と市場売却を通じて保有国債を年間で700億ポンド削減し、長期金利の上昇圧力を抑えるため、市場売却分については長期債を少なめにする「短期40%・中期40%・長期20%」の構成としてきた。今回は毎年9月に向こう1年間のQTの削減方針を決める方式を改め、2034年までの複数年の計画を公表した。新たな計画では、資産買い入れファシリティ(APF)を通じて保有する国債4880億ポンドのうち、最も年限の長い1200億ポンドをQTの対象から除外し、残りの3680億ポンドの保有国債については、2034年までに満期を迎える2220億ポンドを原則として満期まで保有し、残りの1460億ポンドを年200億ポンドのペースで売却する。これにより、満期償還分を含めた保有国債の削減ペースは、2034年までの年平均で460億ポンドと、過去1年間の700億ポンドから大幅に減速する。

国債の売却方法も大きく変更する。BOEはこれまで市場参加者を対象とするオークションを通じて保有国債を直接売却してきたが、こうした市場売却を当面停止する。そのうえで、2035~49年に満期を迎える1460億ポンドについて、BOEが政府に市場価格で売却し、財務省の指示を受けた債務管理庁(DMO)が買い取る新たな方式を検討する。2027年4月までに最終判断し、導入する場合には、DMOの年間資金調達計画に組み込む形で実施を開始する。それまではBOEによる市場向けの国債売却オークションを停止する。QTの削減ペースを落とすだけでなく、市場への直接売却を停止し、超長期債1200億ポンドをQTの対象から切り離すことで、国債市場の需給や市場機能への負荷を抑える狙いがある。このように、今回の変更では、長期・超長期国債を中心とする金利の上昇圧力と国債市場の安定確保に配慮した。政策金利ではインフレ再燃への警戒を強める一方、QTでは市場安定に配慮するという、異なる方向の政策対応を打ち出した点も今回のMPCの特徴と言えよう。

以 上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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