インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ウクライナの攻勢によるガソリン不足がロシア中銀の利下げにブレーキ

~インフレ圧力の再燃を警戒、先行きの金融緩和に慎重姿勢~

西濵 徹

要旨
  • ロシア銀行は9月11日の会合で、政策金利を14.00%に据え置いた。2025年6月以降、10会合連続で累計700bpの利下げを実施してきたが、ウクライナによる製油所や輸送インフラへの攻撃で石油製品の生産が減少し、国内でガソリン不足が深刻化したことでインフレ圧力が再び強まっている。8月のインフレ率は前年比+6.34%、コアインフレ率も同+5.37%とともに加速し、中銀目標の4%を上回った。政府は備蓄放出や輸出規制などで供給確保を図っているものの、戦争の長期化や周辺国との緊張も重なり、経済を取り巻く不透明感は強い。

  • イラン情勢の悪化による原油高は本来、産油国ロシアに追い風となるものの、石油生産の低迷や国内の燃料不足によって景気押し上げ効果は限定的となっている。原油・天然ガス価格の上昇は交易条件の改善に寄与する半面、国内エネルギー価格を押し上げるなど、インフレを一段と加速させる可能性が高まっている。

  • 中銀は声明で、基調的なインフレ圧力の高まりや需給の不均衡、賃金上昇が生産性向上を上回る状況、地政学リスクなどを警戒し、インフレ促進リスクがディスインフレリスクを上回っていると指摘した。ナビウリナ総裁も「利下げは協議しなかった」「利下げ余地は乏しい」と述べ、タカ派姿勢を強めている。総選挙を前に産業界から利下げ圧力が強まるなかでも、中銀は物価安定を優先する構えを示した。

  • 先行きは、ルーブル安による輸入物価上昇に加え、ガソリン不足やエルニーニョによる食料価格上昇も懸念される。エネルギーと食料という生活必需品を中心にインフレ圧力が続けば、中銀の金融政策運営は一段と難しくなるとみられる。

目次

【ガソリン不足によるインフレ顕在化を受けて、中銀は11会合ぶりの金利据え置きを決定】

ロシア銀行(中銀)は、9月11日に開催した定例理事会において、政策金利(キーレート)を14.00%に据え置くことを決定した。ロシアでは、2025年初めからインフレ率が鈍化したため、中銀は2025年6月に約3年ぶりの利下げに舵を切り、その後も10会合連続で累計700bpの利下げを実施するなど金融緩和を進めた。しかし、足元のロシア経済を取り巻く環境変化を受けて、中銀は11会合ぶりに金利を据え置くなど、政策変更を迫られている。

背景には、ウクライナが製油所をはじめとするエネルギー・輸送インフラへのドローン攻撃を強化していることを受け、ロシア国内で石油生産量が急減していることがある(注1)。政府は、備蓄分のガソリン放出のほか、規制撤廃による低品質燃料の販売許可、軽油の輸出禁止などにより国内供給を優先させている。にもかかわらず、ロシア国内では石油製品の需給がひっ迫して全土でガソリン不足が深刻化している。足元ではガソリンをはじめとするエネルギー価格の上昇を受けて、直近8月のインフレ率は前年比+6.34%、コアインフレ率も同+5.37%とともに加速して中銀目標(4%)を上回る伸びで推移している(図1)。

図表
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ウクライナ戦争はロシア、ウクライナ双方が攻勢を強めており、先のみえない展開が続いている。EU(欧州連合)諸国がウクライナへの軍事支援を強めるなか、ドイツやブルガリア、イタリア、エストニア、スロバキア、ポーランドといったNATO(北大西洋条約機構)加盟国ではロシアの関与が疑われる破壊工作が急増している。これを受けて、ドイツ政府は西部ボンのロシア総領事館の閉鎖を発表し、ロシア政府もサンクトペテルブルクのドイツ総領事館を事実上の閉鎖に追い込む報復措置に動くなど、事態は一段と混迷の様相を強めつつある。

イラン情勢の悪化を受けた原油高は、産油国であるロシア経済の追い風になることが期待された。しかし、実際には石油生産量の低迷が足かせとなり景気は低迷している(図2)。足元ではイラン情勢に再び不透明感が高まり、原油や天然ガス価格は上昇基調を強めている。これらの価格上昇は交易条件の改善を促す一方、ガソリン不足を理由とするインフレ圧力を一段と増幅させることも予想され、経済運営の舵取りは難しさを増している。

図表
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【総選挙を前に中銀はタカ派傾斜、先行きのインフレ促進リスクを警戒する考えをみせる】

中銀が会合後に公表した声明文では、同国経済について「緩やかな成長がうかがえる」とする一方、物価動向について「ここ数ヵ月上昇圧力が大幅に高まっている」、「特定のセクターでの生産能力の一時的な縮小により、基調インフレ率が年率で5~6%程度に加速したと推定される」との考えを示した。また、労働市場について「ひっ迫感は徐々に緩和している」、「労働力不足は引き続き後退している」としつつ、「賃金の伸びと労働生産性の伸びの差は依然として大きい」との見方を示した。金融市場環境については「中程度に引き締まっている」と評価する一方、「インフレ動向を勘案すれば、全体的な引き締め度合いは実質的に低下している」、「融資条件は依然として引き締まっている」との見方を示した。

中期的な物価見通しについては「インフレ促進リスクが高まり、ディスインフレリスクを上回っている」として、その理由に「内需拡大や特定の産業における生産能力の縮小が長期化していることに伴う需給の不均衡」を挙げた。そして、「インフレ期待の高まりは価格転嫁の動きを強める可能性がある」ほか、「賃金上昇が生産性向上を上回る状態の長期化、世界経済の見通し悪化、地政学リスクによる物価上昇リスクが懸念される」とした。先行きの政策運営については「基礎的財政収支の赤字幅が段階的に縮小して2029年にゼロになることをベースラインシナリオに据えている」としつつ、「仮に赤字幅が拡大すればより引き締め的なスタンスが必要になる可能性がある」として、金融緩和の一段の慎重化に含みを持たせた。

会合後に記者会見に臨んだ中銀のナビウリナ総裁は、「企業部門向け貸付と財政動向を注視している」として、これらの動きが金融政策を左右するとの見方を示した。今回の会合について「利下げは協議しなかった」、「利下げ余地は乏しくなっている」との見解を示すとともに、「インフレ目標の引き上げは検討しない」として、タカ派姿勢を強めている様子がうかがえる。また、物価動向について「輸送インフラに対する攻撃が物価に与える影響は限定的」と述べたものの、前述のように、声明文では『特定のセクター』と説明していることを勘案すれば、影響が長引く可能性には注意が必要である。ロシアでは、9月18~20日の日程で連邦議会下院(国家院)総選挙が予定されており、産業界を中心に中銀に利下げを求める動きを強めていたものの、中銀は物価を巡るリスクをあらためて警戒したと考えられる。

金融市場では、5月から国内市場での外国為替取引や金の売買を再開して以降、ルーブル相場は上値の重い展開となっている(図3)。足元ではイラン情勢の不透明感が高まっていることを受けて原油価格は上昇基調を強めているものの、ウクライナ戦争の行方も見通せないなかでルーブル相場は上値の重い展開が続いており、輸入物価を通じてインフレ圧力を増幅させている可能性もある。エルニーニョ現象の発生を受けて、過去には同国南部で干ばつが発生して穀物品質の低下や森林火災が増加して食料インフレが進んだことを勘案すれば、先行きはエネルギーと食料という生活必需品がインフレを促すことも予想される。そうした事情も中銀の政策運営を難しくするであろう。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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