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- 四半期見通し『欧州~地政学リスクが促す戦略的自律~』(2026年10月号)
財政拡張が支える景気拡大
ユーロ圏経済は、ドイツの構造不況、米国による関税引き上げ、イラン情勢の緊迫化などの逆風下でも、スペイン、ギリシャ、ポルトガルなど南欧諸国の好調に支えられ、緩やかな拡大を続けている。4~6月期の実質国内総生産(GDP)は前期比年率+1.8%と、1~3月期のゼロ成長から回復が加速した。7~9月期入り後も企業の業況判断が一段と上向くなど、景気拡大が続いている。
堅調な景気拡大を支えているのは、①米国との貿易交渉の結果、懲罰的な高関税や報復の応酬が回避されたこと、②歴史的な物価高の沈静化と賃上げ加速によって、家計の実質購買力が回復基調にあること、③欧州連合(EU)の復興基金を通じた加盟国に対する財政資金の提供が続いてきたこと、④長年、緊縮的な財政運営を続けてきたドイツが財政運営を転換したことが指摘できる。
先行きもドイツの財政転換や欧州各国による防衛費の拡大が景気を下支えする一方、南欧諸国の高成長を支えてきた復興基金の終了、欧州中央銀行(ECB)による金融引き締めや各国の財政悪化懸念を背景とする金利上昇、ライン川やドナウ川を襲う歴史的な渇水と物流への悪影響などが新たな下押し要因となる。ただ、財政拡張の効果が徐々に顕在化することや、年末に新規の財政支援が打ち切られた後も、当面は復興基金の効果が残存することから、景気が腰折れする可能性は低い。

地政学リスクと戦略的自律
イラン情勢の緊張が長期化するなか、今後はエネルギー価格の上昇が他の物価に波及するリスクへの警戒が必要となる。空爆開始後に原油価格が高騰した後も、欧州の天然ガス価格の上昇は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻時と比べて限定的だ。だが、欧州ではガス貯蔵率が歴史的な低水準にとどまるなか、冬場の需要期が近づいており、ガス価格にも徐々に上昇圧力が及んでいる。イラン情勢の不安定化とエネルギー価格の高止まりが続けば、インフレ圧力が再燃し、ECBはより積極的な金融引き締めを迫られる恐れがあるだろう。
中長期的な経済政策軸の変化にも注目が集まる。欧州諸国はこれまで、エネルギーや経済分野でロシアや中国への依存を減らしてきた。関税引き上げやグリーランド領有を巡るトランプ政権との相次ぐ摩擦を受け、欧州は米国への過度な安全保障依存をリスクとして意識し始めている。地政学的な緊張の継続と対米不信の高まりは、欧州の戦略的な自律を一段と後押ししている。防衛力の強化に加え、エネルギー、重要鉱物、半導体などの戦略物資でも、調達先の多角化や域内生産を進める動きが広がることが予想される。こうした取り組みは企業の生産コストを押し上げる一方、防衛、エネルギー、デジタルなどの分野で域内投資が拡大することで、新たな需要が生まれ、産業基盤や成長力の強化につながる可能性も秘めている。

田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

