インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

原油市場を揺らす「二つの海峡」の緊張

~ホルムズ海峡に加えバブ・エル・マンデブ海峡でも供給不安、迂回輸送にも支障~

西濵 徹

要旨
  • イラン情勢を巡る不透明感が再び強まり、原油価格は上昇基調を強めている。米国とイランは6月、60日間の停止期間中に追加協議を行うことで合意したものの、ホルムズ海峡の管理などを巡る双方の主張の隔たりは大きく、その後も攻撃の応酬が続いた。さらに、イランの支援を受けるイエメンのフーシ派がバブ・エル・マンデブ海峡の封鎖を警告したため、サウジアラビアとの緊張も高まった。

  • 一方、UAEやサウジアラビアがホルムズ海峡を迂回するパイプライン経由の原油輸出を拡大したほか、イランとオマーンがホルムズ海峡の新航路について協議を進めたことで、一時は供給懸念が和らいだ。しかし、米国とイランの協議は進展せず、イランが制裁解除や賠償、ホルムズ海峡での主権行使容認など6項目の条件を提示したことで交渉は平行線をたどり、8月16日に協議期間は終了した。

  • その後、フーシ派が9月11日にサウジのEast-West石油パイプラインを攻撃し、同パイプラインが稼働停止に追い込まれたほか、サウジ国内への攻撃も相次いだ。これを受け、イランとオマーンによるホルムズ海峡の新航路協議も延期され、事態打開への期待は後退した。ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡の双方で船舶の通航が減少し、迂回輸送も困難になるなか、世界の原油需給はひっ迫している。パイプラインの復旧にも時間を要するとみられ、原油価格は当面高止まりし、一段と上昇するリスクも高まっている。

イラン情勢を巡る不透明感が高まり、原油価格は再び上昇基調を強めている。米国とイランは6月、停戦合意に向けた14項目の「覚書」に署名し、60日間の停止期間中に追加協議を行うことで合意した。米国とイスラエルによるイランへの軍事行動をきっかけに、原油価格は大幅に上昇したものの、停戦合意を受けて一転して調整の動きを強めた。しかし、米国とイランの主張には数多くの相違点があり、協議の行方は見通せない状況が続いた。なかでも、ホルムズ海峡の管理を巡る認識の相違は、その後も米国とイラン双方による攻撃の応酬を招くことにつながった。

米国とイランが攻撃の応酬をみせるなか、イランはイエメンの親イラン勢力(フーシ派)を通じて、紅海とアデン湾をつなぐ海上輸送の要衝であるバブ・エル・マンデブ海峡の封鎖を警告した。その後、フーシ派はサウジアラビアに海上封鎖を宣言し、サウジが主導する有志連合は船舶への脅威に武力対応する方針を示したことで戦火が拡大する懸念が高まった。一方で、早期の事態鎮静化を目指す湾岸諸国の要請に応じ、トランプ米大統領は7月末にイランへの攻撃を一時停止し、外交交渉を継続する考えをみせた。なお、米国が攻撃を一時停止した背後には、米軍の防空迎撃ミサイルの備蓄が減少しており、追加攻撃のハードルが高まったことが影響したとの見方もある。とはいえ、イランも報復攻撃を一旦控える方針を示し、表面上は沈静化に向かうことが期待された。

しかし、その後も両国の協議が進展する兆しはみられず、イランは米国に対して6項目の新条件を提示した。具体的には、①戦争に伴う損害の完全な補償(賠償金の支払い)、②イランに対する経済制裁の全面解除、③凍結されたイラン資産の無条件解放、④米軍によるイラン周辺地域や港湾封鎖の撤収・解除、⑤イランに対する侵略・攻撃・暗殺の完全停止、⑥ホルムズ海峡におけるイランの主権行使の容認、とされる。これに米国も対抗する構えをみせたことで協議は平行線をたどり、8月16日に60日間の協議期間は終了した。

原油高が一服した背景には、前述した米国とイランによる停戦合意に加え、次のような要因もあった。イラン情勢が悪化する前には、世界の原油需要の2割がホルムズ海峡を通過していた。しかし、イランによる事実上の封鎖や米国による逆封鎖により安全な航行が困難になった。このため、UAE(アラブ首長国連邦)はペルシャ湾岸のハブシャーン油田とフジャイラ港をつなぐADCOP(アブダビ原油パイプライン)を通じ、サウジも大規模石油コンビナートがあるアブカイクと紅海のヤンブー港をつなぐEast-West石油パイプラインを通じ、ホルムズ海峡を回避する形で原油輸出を拡大させた。これらを通じた原油輸出量はホルムズ海峡経由に比べて小規模にとどまるものの、最悪の事態は回避されるとの期待につながった。米国とイランはホルムズ海峡を巡って対立しているものの、イランとオマーンは8月末にホルムズ海峡の新航路に関する協議が基本合意に至り、その後も詰めの協議が行われたことも事態打開につながるとの見方を後押しした。

こうした期待は足元で大きく変化している。フーシ派は紅海周辺における支配力を強め、9月11日にEast-West石油パイプラインへのドローン攻撃を実施し、サウジは稼働停止を余儀なくされた。フーシ派は、バブ・エル・マンデブ海峡を支配下に置いていると表明、13日にはサウジ南部の軍事基地をドローンやミサイルで攻撃した。これを受けて、イランとオマーンは9月14日に前述したホルムズ海峡の新航路に関する会合を予定していたものの、直前になって開催が延期されたことをオマーンが明らかにした。背景には、フーシ派が軍事行動を活発化させ、サウジをはじめとするアラブ諸国の間で、フーシ派の背後にあるイランへの反発を強めたことが影響したとみられる。この結果、原油価格は上昇を強め、足元では4ヵ月ぶりの水準となっている(図1)。

図表
図表

ホルムズ海峡、バブ・エル・マンデブ海峡ともに、事態の悪化を受けて通行する船舶の数が減少しているうえ、迂回路を経由した輸出も困難になっており、世界的な原油需給はひっ迫が避けられなくなっている。さらに、East-West石油パイプラインの復旧には数週間以上かかるとみられ、当面の原油価格は高止まりするとともに、一段と上昇するリスクも高まっている。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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