トランプ関税ウォッチング トランプ関税ウォッチング

2026年9月FOMCプレビュー

~利上げと据え置きそれぞれのメリット・デメリット~

前田 和馬

要旨
  • 9月FOMC(9/15~16開催)に関して、9月7日時点のFF金利先物市場では約6割の確率で0.25%ptの利上げ、4割の確率で金利据え置きが織り込まれている。9月FOMCにおける政策判断は、9/11公表の8月CPIでインフレの減速傾向が保たれるかに大きく依存する。
  • ウォーシュ議長は8月28日のジャクソンホール講演において、「インフレが明確かつ十分な速度で2%へ向かわなければ、やるべき仕事がある」と述べるなど、9月FOMCにおける利上げの可能性を示唆した。一方、ウォラー理事やニューヨーク連銀・ウィリアムズ総裁は利上げに慎重な姿勢を示すなど、現時点において主要メンバー間の見解は統一されていない。
  • 8月CPIが市場予想通りに着地しFRBが利上げを決定する場合、ウォーシュ議長は「インフレ抑制に向けた強い姿勢」や「金融政策の政治からの独立性」を示すことができよう。しかし、11月に中間選挙を控えるなか、トランプ大統領は利上げ判断を非難する可能性が高い。
  • 一方、ウォーシュ発言後に利上げ観測が高まったにもかかわらず政策金利を据え置けば、金融市場ではFRBのコミュニケーション不信を巡る懸念が強まるだろう。とはいえ、こうした言動不一致はFRB高官発言の重要性を低下させ、ウォーシュ議長の望む「金融市場が自ら景気動向を評価する(経済指標を注視する)」状態を形成するのに役立つ可能性もある。
  • 今後の政策金利パスを見極めるうえでは、同時に公表されるドットチャートが注目される。9月に利上げに踏み切る場合には今後の利上げペース、金利が据え置かれる場合には2026~27年における利上げの可能性が意識されるだろう。なお、ウォーシュ議長は6月FOMCと同様に自身の予測を提出しない可能性が高い。

予想が割れる9月FOMC

9月FOMC(9/15~16開催)における政策金利判断は、金融市場の予想が大きく割れている。過去2か月における9月FOMCの政策予想をみると(資料1)、7月分の雇用統計(8/7公表)や消費者物価指数(8/12)が軟調だったことで据え置き予想が優勢だった一方、ウォーシュ議長のジャクソンホール会議講演(8/28)が予想に反してタカ派だったことで0.25%の利上げ予想が強まった。その後、ウォラー理事など他のFRB高官がタカ派の見方に追随しなかったため、利上げ織り込みが幾分剥落したものの、8月雇用統計(9/4)が市場予想を上回ったことで再び利上げ予想が優勢となった。この結果、本稿執筆時点におけるFF金利先物市場(Fed Watch)において、約6割の確率で0.25%ptの利上げ、4割の確率で金利据え置きが織り込まれている。なお、利上げとなれば2023年7月以来、据え置きとなれば6会合連続となる。

図表
図表

8月地区連銀経済報告(9月2日公表:8月24日までの情報に基づく)では前回報告の評価が概ね据え置かれた。すなわち「12地区中10地区で経済活動は小幅から緩やかに成長した」とまとめられ、消費では高級品や観光、製造業では防衛やデータセンター関連の堅調さがそれぞれ指摘された。一方、インフレのペースは「前回報告から8地区で横ばい、3地区で減少、1地区で増加」と述べられた。また、雇用は「ごく僅かに増加」と前回表現の「総じて増加」から下方修正された。ただ、これは8月雇用統計公表前の評価であることに留意が必要だ。8月の非農業部門雇用者数は前月差+16.2万人と市場予想(+5.5万人)を大幅に上回ったほか、過去2か月分も上方修正された。この結果、3か月移動平均では+7.1万人となるなど、高齢化やデータセンター需要を背景に、医療・介護や卸・小売、建設業などで回復の動きが続いている。

9月FOMCまでには9/10に8月生産者物価指数(PPI)、9/11に8月消費者物価指数(CPI)、9/16に8月小売売上高が公表される。最大の注目は8月CPIであり、市場予想は総合指数が前月比+0.4%(7月実績:+0.1%)とガソリン価格を中心に加速する一方、食料とエネルギーを除くコア指数は+0.2%(同+0.2%)と横ばい圏の推移が見込まれている。コアCPIが市場予想を上回り8月コアPCE(9/30公表)においてもインフレ加速が見込まれる場合、9月FOMCにおける利上げ織り込みが進むだろう。一方、過去2か月と同様にインフレの減速傾向が確認されれば、据え置き予想がやや強まる可能性がある。

ウォーシュ議長のタカ派シフト

7月FOMCは5会合連続で政策金利が据え置かれ、声明文における景気・物価判断は前回から変更がなかった。すなわち、経済活動は「中東紛争による不確実性の高まりにも関わらず、経済活動は堅調なペースで拡大」、労働市場は「雇用増は労働力人口の拡大と歩調を合わせており、失業率はほぼ変化していない」、物価は「インフレ率は+2%目標と比べて高止まりしている。この背景には供給ショックがエネルギーを含む一部のセクターの物価を押し上げていることがある」と、それぞれまとめられた。本稿執筆時点において、こうした評価を大幅に変えうる材料は特段見当たらない。

一方、ウォーシュ議長はジャクソンホール講演(8/28)において、8月分の物価指標の結果が良好でなければ9月FOMCで利上げに踏み切る可能性を示唆した。具体的には、自身の発言がフォワードガイダンスではないと前置きしたうえで、「今夏のPCEとCPIは予想よりも良好だった一方、基調的なインフレが大きく改善したとは思えない」や「基調的なインフレが目標に向かって明確かつ十分なスピードで進展しないならば、やるべきことがある」と述べた。ウォーシュ議長が利上げを提案する場合、7月FOMCでも利上げを主張した3名の地区連銀総裁のほか(クリーブランド連銀のハマック総裁、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁、ダラス連銀のローガン総裁)、バー理事やクック理事などの多くの執行部メンバーがこれに同調する可能性が高い。

一方、利上げに慎重な向きも残る。9/2にニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁はインフレの緩やかな鈍化傾向がみられるとし、現状の政策金利が適切な水準にあると指摘した。また、9/3にはウォラー理事が、一部品目の推計手法変更がコアPCEインフレ率の下方修正に繋がる可能性を指摘したうえで、「インフレ率が目標に向けて進展していることを確認できれば、政策金利の据え置きを支持する」と主張した。仮に9月FOMCにて利上げが決定される場合においても、ウォラー理事やボウマン理事は据え置きを主張し反対票を投じる可能性がある。

それぞれの判断に対するメリデメ

9月FOMCの政策判断は今後公表される8月分の物価指標に大きく依存する。一方、仮に物価動向が概ね市場予想と一致する場合、9月の政策判断は次のような意味合いを持つだろう。

まず、利上げへと踏み切る場合、FRBは物価安定を重視する姿勢を改めて示すことができる。特に足下でインフレ減速の兆しがみられるなか、基調的なインフレトレンドの低下が十分でないとして利上げに踏み切ることは、FRBがインフレ抑制を重視する姿勢を鮮明にする。また、ウォーシュ議長は利下げを求めるトランプ政権への配慮から利上げに否定的との見方が就任以前からあるものの、9月FOMCでの利上げはこうした見方を払しょくし、金融政策判断の政治的独立性を示すだろう。もっとも、11月の中間選挙を控えるなかでの利上げはトランプ政権の批判を招く可能性が高い。実際、9/4にトランプ大統領は「米国の金利はどの国よりも低くあるべき」、バンス副大統領は「インフレ指標は利下げを正当化する内容」とそれぞれ主張している。

一方、政策金利を据え置く場合、ウォーシュ議長のジャクソンホール講演を受けて利上げ観測が高まっただけに、金融市場ではFRBのコミュニケーション手法に対する不信感を強めるだろう。ウォーシュ議長は「インフレの明確かつ十分な進展」の基準を明言したわけではないが、一般論として考えると、8月分の物価指標がインフレ鈍化を明確に示す内容でなければ、据え置き判断との整合性は取りにくい。また、金利据え置きは「ウォーシュ議長がトランプ政権に配慮し利上げに踏み切れない」との見方を強めることになる。とはいえ、据え置きの場合には金融市場がFRB高官発言への注目度を低下させるとみられ、これはウォーシュ議長が望む「金融市場がFRB高官の発言を過度に気にするのではなく、自ら景気・物価動向を判断する」状態に近づける効果を持つ。

ドットチャートの示す政策パス

9月FOMC後には四半期経済見通し(SEP)が公表される。前回6月時点の政策金利見通し(ドットチャートの中央値)は、2026年が3.75%(0.5回の利上げ)、27年は3.625%(0.5回の利下げ;現在の金利水準)、28年は3.375%(1回の利下げ)となり、前回3月FOMC(2026~27年にそれぞれ1回ずつの利下げを予想)から上方修正された。仮に9月FOMCで利上げへと踏み切る場合、今後の焦点は追加的な利上げの有無やその回数に移行する。例えば、7月FOMCで利上げを主張したダラス連銀のローガン総裁は「短期的に控えめな利上げ」に言及する一方、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は複数回の利上げの可能性を指摘している。このため、新たなドットチャートでは、26~27年における追加の利上げ回数、28年に利下げサイクルへ戻るのか否か、さらに旺盛なAI投資を背景に中立金利(longer run)の上昇が示唆されるのか、などが注目される。一方、9月FOMCが据え置き判断となる場合、26~27年において利上げを予想するタカ派と据え置きを見込むハト派の分布が焦点となるだろう。

図表
図表

FRB高官発言

図表
図表

図表
図表

以 上

前田 和馬


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ