実質賃金は改善続くも、秋以降の物価上振れに注意(26年6月毎月勤労統計)

~所定内給与は伸び拡大、夏のボーナスも良好な滑り出し~

新家 義貴

要旨
  • 2026年6月の毎月勤労統計は、現金給与総額が前年比+3.4%、実質賃金が同+1.6%と良好な結果。共通事業所ベースでも現金給与総額は同+4.4%、実質賃金は同+2.5%と高い伸び。所得環境の改善が続いている。

  • 共通事業所ベースの所定内給与は前年比+3.0%と、5月の同+2.7%から伸びが拡大。5月にみられたカレンダー要因による下押しが縮小したことに加え、春闘賃上げの反映が進んだことで、着実に増加している。

  • 特別給与は本系列で前年比+3.5%、共通事業所ベースで同+6.4%と大幅増。6月と7月を均して判断する必要があるが、少なくとも夏のボーナスの6月時点の滑り出しは良好。底堅い企業業績が背景にある。

  • 当面は、名目賃金の安定的な伸びと政府の電気・ガス料金支援による物価抑制を背景に、実質賃金はプラス圏を維持するとみられる。ただし、秋以降は食品値上げの広がりや電気・ガス代の上昇が重なり、物価が上振れる可能性がある。秋以降に実質賃金が抑制されるリスクに注意が必要。

1. 名目賃金、実質賃金とも増加で良好な内容

2026年6月の毎月勤労統計は、名目賃金、実質賃金ともに強く、賃金上昇の基調も良好な結果だった。所定内給与が前月から伸びを高めたことに加え、ボーナスの伸びも賃金増に寄与している。

厚生労働省から公表された2026年6月の毎月勤労統計によると、現金給与総額は前年比+3.4%となった。前月の同+3.3%から伸びがやや拡大し、引き続き3%台の高い伸びを維持している。名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金も前年比+1.6%となり、5月と同じ伸びを保った。実質賃金は2026年入り後、6カ月連続でプラスとなっており、所得環境の改善が続いている。

なお、報道等で言及されることの多いこの本系列は、調査対象事業所の部分入れ替えやベンチマーク更新等の影響を受けやすく、月次の賃金動向の基調を判断するうえでは必ずしも適さない。そうした観点からは、1年前と当月の双方で回答している調査対象のみに限定して集計した「共通事業所」ベースの前年比を併せて確認することが望ましい。

この共通事業所ベースでみると、6月の現金給与総額は前年比+4.4%と、5月の同+3.1%から伸びが大きく高まった。一般労働者は同+4.5%、パートタイム労働者も同+3.3%となっており、幅広い層で賃金が増加している。共通事業所ベースの実質賃金は+2.5%(5月:同+1.4%)と高い伸びであり、家計の実質購買力は改善していると評価できる。

共通事業所ベースの現金給与総額が大きく伸びた背景には、所定内給与の増加に加え、夏のボーナスの増加がある。所定内給与は前年比+3.0%(5月:同+2.7%)と伸びが高まり、特別給与も同+6.4%と大幅に増加するなど、基本給とボーナスの双方が賃金を押し上げた。2026年春闘の高い賃上げが基本給に反映されるなか、夏のボーナスの増加も重なり、名目賃金・実質賃金ともに改善が進んだ形だ。

図表
図表

2. 所定内給与は着実に増加

所定内給与(共通事業所ベース、以下同じ)は前年比+3.0%となり、5月の同+2.7%から伸びが拡大した。内訳では、一般労働者が前年比+2.9%、パートタイム労働者が同+3.3%と、ともに高い伸びであり、賃金の基調は良好である。一般労働者については春闘賃上げの反映、パートタイム労働者については、最低賃金引き上げの効果に加え、人手不足を背景とした時給上昇が影響しているとみられる。

5月は前年に比べて休日が多く、労働時間の減少が所定内給与を下押しした可能性があったが、6月は出勤日数が前年と同じで、カレンダー要因による下押しは解消された。6月の所定内給与の伸び拡大は、賃金の基調を比較的素直に表したものといってよいだろう。

所定内給与増加の背景にあるのが、2026年春闘で実現した高い賃上げである。連合の春闘最終集計では、定昇相当込みの賃上げ率が5.01%となった。歴史的な賃上げとなった25年春闘からはやや鈍化したものの、それでも5%台の高い賃上げが実現した模様である。また、組合員数300人未満の組合では4.69%と、昨年の4.65%から小幅ながら伸びが拡大した。上昇率は大企業に及ばないものの、中小企業でも人材確保の観点から高い賃上げが実施されている。

所定内給与は、今後も高めの伸びを維持する可能性が高い。春闘賃上げの反映が8月にかけてさらに進むことに加え、人材の確保・つなぎ止めのための賃上げも続ける必要がある。当面、共通事業所ベースの所定内給与は、前年比+2%台後半から+3%程度の高い伸びで推移すると予想される。

図表
図表

3. 夏のボーナスの滑り出しは良好

6月は夏のボーナスの支給が本格化する時期に当たる。特別給与は、本系列で前年比+3.5%、共通事業所ベースでは同+6.4%となった。特に共通事業所ベースの伸びが高く、夏のボーナス増が6月の賃金上振れの原動力となっている。

なお、特別給与は支給時期の違いによって月ごとの振れが大きいため、6月分だけで全体を評価することは避けるべきだ。ボーナスを7月に支給する企業も多く、支給月のずれによって6月と7月の特別給与の前年比は大きく変動する。このため、夏のボーナスの動向については、6月と7月を均して判断する必要がある。

来月公表される7月分では支給時期のずれによる反動が出る可能性があるため、最終的な伸び率については幅を持ってみる必要があるが、少なくとも6月時点の滑り出しは良好だったといえる。現時点では、2026年夏のボーナスは好調に推移した可能性が高いと判断している。

ボーナス増加の背景には、底堅い企業収益がある。企業収益の水準は高く、非製造業を中心に価格転嫁も進んでいることから、企業の支払い余力は維持されている。また、深刻な人手不足の下では、企業にとって賞与を含む処遇改善が人材の確保や定着のために重要になっている。物価上昇による家計負担への配慮もあり、企業がボーナスを抑制しにくい環境が続いている。春闘では月例給与だけでなく、一時金でも増額回答が目立っており、こうした動きが夏のボーナスに反映されたとみられる。

なお、中東情勢の悪化や原油価格上昇による影響は、今夏のボーナスには現時点で大きく表れていない。大企業では春闘交渉の段階で夏季賞与の支給内容を決めているケースが多く、足元の経済環境の変化が直ちに支給額へ反映されにくい。相対的に直近の業績を反映しやすい中小企業の一部では影響が出る可能性は否定できないが、6月の結果を見る限り、ボーナス全体に目立った下押しが生じている様子は窺えない。

夏のボーナスが前年を上回れば、所定内給与の増加と相まって家計の所得を押し上げる。夏場の個人消費を下支えする材料になるだろう。

4. 実質賃金は当面プラス圏維持を見込むが、秋以降は下振れリスク

以上を踏まえると、6月の毎月勤労統計は総じて良好な結果だったと評価できる。名目賃金、実質賃金とも増加し、所定内給与にも春闘賃上げの反映が着実に進んでいる。夏のボーナスについても、6月時点の滑り出しは良好である。

今後も実質賃金のプラス基調が続くかどうかは、名目賃金の底堅さに加え、物価がどの程度で推移するかに左右される。6月は名目賃金が高い伸びとなったことに加え、物価上昇率が+2%を下回ったことが実質賃金の押し上げ要因となったが、今後物価が再び上振れれば、実質賃金の改善ペースが鈍る可能性がある。

特に注意が必要となるのは秋以降だ。食料品や日用品の値上げに加え、電気・ガス代の上昇も重なることで、消費者物価上昇率は秋から冬にかけて前年比+3%に迫る可能性がある。所定内給与が前年比+2%台後半から+3%程度の伸びを維持したとしても、物価上昇率が同程度まで高まれば、実質賃金には大きな下押し圧力がかかり、再びマイナスに転じる可能性も否定できないだろう。

その物価について、7月の東京都区部消費者物価では、食料品価格の鈍化に歯止めがかかったほか、日用品にも値上げの動きがみられた。これまでの資源価格上昇や調達難、包装資材費、物流費、人件費などのコスト上昇が、時間差を伴って消費者物価に波及し始めた可能性がある。

電気・ガス代の上昇も懸念材料だ。政府による支援によって夏場の物価は抑制されるが、既往の燃料価格上昇の影響が遅れて波及することで、電気・ガス代の上昇が本格化するのは秋から冬にかけてとみられる(電気代はいつ上がるのか ~電気代が秋から冬にかけて大きく上昇する理由。支援延長・拡充が論点に~ | 新家 義貴 | 第一ライフ資産運用経済研究所)。支援効果が剥落する時期に燃料費上昇による値上がりが重なれば、秋以降の電気・ガス代が大きく上昇する可能性がある。

このように、実質賃金改善の持続性は物価次第である。6月の毎月勤労統計は、所得環境の改善が続いていることを示す前向きな内容だったが、その改善は名目賃金の上昇だけでなく、足元までの物価上昇率の落ち着きにも支えられている。賃金の伸びが高いまま推移するか、そして物価上昇率がそれを下回る状態を維持できるかが、今後の個人消費を左右する重要なポイントになるだろう。

新家 義貴


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ