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2026.09.11
日本経済
金融政策・日銀
物価
物価指標(日本)
企業物価は高止まり、川下への価格転嫁続く(26年8月企業物価指数)
~原油高再燃で、物価上昇圧力が長期化する可能性~
新家 義貴
- 要旨
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- 8月の国内企業物価指数は前月比▲0.2%となったが、前年比では+7.6%と3ヵ月連続で+7%台の高い伸びが続いた。企業段階の物価上昇圧力はなお非常に強い。
- 川上・川中では石油・石炭製品や合成樹脂に下落がみられる一方、プラスチック製品など川下製品では価格上昇が続いている。原材料価格の上昇が一服しているにもかかわらず、既往のコスト高の価格転嫁はなお進行中。
- こうした川下への価格転嫁は今後もしばらく続く可能性が高い。さらに、足元の原油高が続けば、新たな川上からのコスト上昇圧力も加わり、企業物価は高止まりしやすい。
- 包装資材や物流費などのコスト増が時間差を伴って最終販売価格へ波及することで、年度後半にかけて食料品や日用品を中心に消費者物価の上昇圧力が一段と強まる可能性が高い。引き続き、物価上振れリスクへの警戒が必要。
1. 企業物価は高止まり、前年比+7%台が続く
日本銀行から公表された2026年8月の国内企業物価指数は、前月比▲0.2%、前年比+7.6%となった。前月比では4月以降続いてきた上昇がいったん途切れ、春先にみられた急速な価格上昇には一服感がみられた。ただし、8月の下落には、電気・ガス料金支援の再開による電力・都市ガス価格の低下が寄与した面も大きく、企業物価全体として上昇圧力が大きく後退したわけではない。また、前年比では7月の+7.7%から僅かな鈍化にとどまり、3ヵ月連続で+7%台の非常に高い伸びが続いている。企業段階での物価上昇圧力はなお強いとみるべきだろう。
なお、企業物価指数は毎年8月分速報公表時に定期遡及訂正を行っており、前年1月以降について、速報後に入手した価格情報や遅れて報告された価格、後から確定した取引価格などがまとめて反映される。今回の改訂でも過去の値が大きく修正されており、7月の国内企業物価は速報時の前月比+0.1%、前年比+7.2%から、前月比+0.4%、前年比+7.7%へと大幅に上方修正されている。化学製品やプラスチック製品、農林水産物など幅広い品目で上方修正がみられ、速報時点でみられていた以上に、既往のコスト高の価格転嫁が強かった可能性が示唆される。
前月比の内訳をみると、電力が前月比▲1.4%、都市ガスが同▲7.0%と政府の支援策の影響により大きく低下したほか、農林水産物が同▲2.3%、石油・石炭製品が同▲1.7%と下落した。一方、非鉄金属は同+1.9%、プラスチック製品は同+1.0%、飲食料品は同+0.3%と上昇している。8月は総合では前月比マイナスとなったものの、企業段階の物価上昇圧力が幅広く後退したわけではない。今回注目されるのは、石油化学関連の川上・川中価格が低下する一方で、その先に位置するプラスチック製品などでは値上げが続いていることである。追加的な原料価格の上振れは一服したものの、既往のコスト上昇の価格転嫁はなお続いており、その影響が川下へ広がっていることが見てとれる。
2. 既往のコスト高は川下へ波及
石油化学関連では、春先に生じた急激な価格上昇には一服感がみられる。石油・石炭製品は前月比▲1.7%と、7月の同▲2.7%に続いて2ヵ月連続で下落した。品目別では、7月に大きく下落したナフサやエチレン、プロピレンは8月におおむね横ばい圏となる一方、キシレンは前月比▲2.6%と引き続き下落した。4月に中東情勢の悪化を受けて急騰した石油化学関連の川上価格は、7月に反落した後、8月も総じて落ち着いた動きとなっている。
より明確な変化がみられたのは川中段階である。8月は合成樹脂が前月比▲1.7%、熱可塑性樹脂が同▲2.9%となった。なかでも、ポリエチレンが同▲4.6%、ポリプロピレンが同▲2.3%、ポリスチレンが同▲2.3%と、主要な合成樹脂がそろって下落している。4月の川上価格急騰を受けて5~6月には合成樹脂への価格波及が進んだが、7月に下落に転じ、8月にはその動きがさらに明確になった。川上だけでなく、川中でも追加的なコスト上昇圧力はかなり弱まっている。
これに対して、川下価格の動きは対照的である。プラスチック製品は8月も前月比+1.0%と上昇し、7月の同+2.4%から上昇幅は縮小したものの、なお高い伸びが続いた。しかも、前年比では+11.2%と7月の+10.1%から一段と伸びを高めている。川中の合成樹脂が明確に下落する一方、その先のプラスチック製品では前年比上昇率がむしろ加速しており、川上・川中と川下の価格動向の乖離が8月には一段と鮮明になった。
中身をみても、価格上昇は消費財に比較的近い段階に広がっている。8月はプラスチックフィルム・シートが前月比+0.9%、プラスチック製中空成形容器が同+2.1%、プラスチック製容器が同+1.5%、プラスチック製日用品が同+1.1%となった。フィルム・シートや容器は加工食品、飲料、日用品など幅広い商品の包装に用いられるほか、プラスチック製日用品はそれ自体が最終消費財に近い。原材料段階では価格上昇が一服する一方、包装材や容器など最終需要に近い段階では、その価格低下の影響はまだ十分に表れていない。
これは、企業間の価格転嫁に時間差があることを改めて示している。原材料価格が低下したからといって、川下企業の仕入れコストが直ちに低下するわけではない。高値で調達した原材料の在庫が残っているほか、取引価格の改定も一定の間隔で行われるためである。その結果、足元の仕入れ価格だけでなく、数ヵ月前までの高い調達コストが現在の販売価格に反映されている企業も多い。8月の「合成樹脂下落・プラスチック製品上昇」という組み合わせは、こうした価格転嫁のタイムラグを端的に示すものといえる。
3. 川下への価格転嫁と原油高で、物価上昇圧力は長期化する可能性
先行きについては、こうした川下への価格転嫁が今後もしばらく続く可能性が高い。企業ごとに仕入れ時期や価格交渉、契約改定のタイミングが異なることに加え、企業が直面するコスト水準そのものもなお高いためである。原材料価格の低下が川下価格の押し下げにつながるまでには、なお時間を要するだろう。
加えて、足元では原油価格が再び大きく上昇しており、先行き、川上価格には再び上昇圧力がかかる可能性がある。この動きが続けば、輸入物価や石油・化学関連価格を通じて企業物価を押し上げる要因となる。為替が円高方向で推移していることは、こうした輸入コストの上昇を一定程度和らげる要因になるが、現状程度の原油価格と為替レートを前提にすれば、円高による輸入物価の押し下げよりも、原油高による押し上げの方が大きいとみられる。既往のコスト高の川下転嫁がなお続くなか、足元の原油高による新たなコスト上昇が加わることで、企業物価は当面高止まる可能性が高いだろう。
消費者物価への影響にも注意が必要だ。先にみたように、プラスチックフィルムや容器など消費財に近い段階で価格上昇が続いており、こうした包装資材や物流費などのコスト増が時間差を伴って最終販売価格へ転嫁されるだろう。とりわけ食料品、日用品については年度後半にかけて消費者物価指数への上昇圧力が強まる可能性が高い。
筆者は消費者物価について、既往のコスト高の価格転嫁が進むことで、食料品、日用品、電気・ガス代への上昇圧力が強まり、26年末から27年初にかけて前年比で+3%を上回ると予想しているが、本日の企業物価指数は、こうしたシナリオと整合的な結果だったと考えている。当面、物価の上振れリスクに警戒が必要な局面が続きそうだ。
新家 義貴
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 新家 義貴
しんけ よしき
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経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測
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