日銀金融政策決定会合(2026年9月)

~3カ月で追加利上げ、焦点は今後の利上げペースへ~

新家 義貴

要旨
  • 日銀は政策金利を1.00%から1.25%へ引き上げた。6月会合以来3カ月ぶりの利上げであり、植田総裁就任後では最も短い間隔での追加利上げとなった。
  • 景気・物価の中心的な見通しやリスク要因に大きな変化はない一方、国内企業物価の高い伸びや価格転嫁の広がりなどから、これまで警戒してきた物価上振れリスクはより現実味を増している。日銀はこれを踏まえ、従来よりも早めに金融緩和の度合いを調整したとみられる。
  • 1.25%への利上げ後も金融環境はなお緩和的とされている。政策金利は名目中立金利レンジの下限付近に位置しており、追加利上げ余地はなお残る。
  • 植田総裁会見では、今回の3カ月間隔の利上げを一時的な前倒しと位置づけるのか、それとも今後も毎会合を「ライブ」とし、10月を含めて次回以降の会合で追加利上げを排除しない姿勢を維持するのかが最大の焦点となる。加えて、1.25%でも金融環境をどの程度緩和的とみるか、利上げの累積効果を見極めるために時間を置く必要があると考えているかにも注目したい。
  • 植田総裁会見前の現時点では、次回は12月に1.50%、その後は2027年3月に1.75%、6月に2.00%への利上げを予想する。原油高とその二次波及による物価上振れリスクが当面解消されにくいことや、対外環境も日銀の正常化を後押しする方向にあることが背景である。

(植田総裁会見前に執筆)

1. 中心シナリオは不変、物価上振れリスクへの警戒を強化

日本銀行は9月17、18日の金融政策決定会合で、政策金利を1.00%から1.25%へ引き上げることを決定した。6月会合以来3カ月ぶりの利上げとなり、植田総裁就任後では最も短い間隔での追加利上げとなった。今回の利上げ自体は事前に市場で完全に織り込まれており、決定そのものにサプライズはない。もっとも、これまで半年程度の間隔を空けながら慎重に利上げを進めてきた日銀が、今回はその間隔を3カ月に短縮したという点で、政策運営上の意味は大きい。

今回の決定は賛成7、反対2となり、浅田委員と佐藤委員は今回の利上げに反対した。浅田委員は、わが国の景気が必ずしも強い状況にあるとはいえないことなどから、今回のタイミングでの利上げは時期尚早と判断した。佐藤委員も、経済・物価情勢がこれまでと比べて大きく加速している状況ではないとして、現時点での利上げに慎重な立場を示した。

今回の声明文をみると、景気・物価の中心的な見通しやリスク要因そのものに、前回から大きな変化はない。景気については、中東情勢の影響を受けつつも「緩やかに回復している」との判断を維持し、先行きについても、原油高などの影響で一時的に成長率が低下するものの、その後はAI関連需要や政府施策などを背景に緩やかな成長を続けるとの見方を示している。日銀自身も、経済・物価情勢は「中心的な見通しに概ね沿って推移している」と評価している。

物価面でも、基調的な物価上昇率が2%の「物価安定の目標」を超えて上振れていくリスクや、それがその後の経済に悪影響を及ぼさないよう、基調物価を2%程度で安定させていく必要性は、前回からすでに示されていた。したがって、今回新たな上振れリスクが加わったというよりは、これまで警戒してきたリスクが、足元のデータによってより現実味を増してきたとみるのが自然である。

実際、今回の声明文では、国内企業物価が前年比で高い伸びを続けていることに加え、企業間取引における価格上昇圧力が消費者段階にも波及し始めていること、中長期の予想物価上昇率が引き続き上昇していることが指摘された。基調的な物価上昇率が2%に近づくなかで、原油高や既往のコスト上昇、価格転嫁の広がりなどが重なれば、物価上振れが一時的なものにとどまらず、より持続的なものになるリスクが高まる。

こうした点を踏まえると、今回の3カ月という短い間隔での利上げは、景気・物価の中心シナリオが大きく変わったことへの対応というより、これまで想定してきた上振れリスクへの警戒度合いが高まるなか、日銀がより早い段階で金融緩和の度合いを調整する必要があると判断した結果とみられる。

今回の声明文でも、今後について「経済・物価・金融情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」との方針は維持された。また、1.25%への引き上げ後も「緩和的な金融環境は維持される」と明記されている。政策金利は名目中立金利の推計レンジの下限付近に入ったにすぎず、1.25%への利上げ後も金融環境になお緩和余地が残っているとの認識にあるとみられる。このため、今回の利上げは金融引き締めへの転換ではなく、緩和状態を維持しながら、物価上振れリスクに対応して金融緩和の度合いを従来よりも早めに縮小したものと評価できる。

2. 植田総裁会見の注目点 ~タカ派姿勢をどこまで示せるか~

15時30分からの植田総裁会見では以下のポイントに注目している。

今後の利上げペース

今回は6月から3カ月での追加利上げとなったが、今回だけ利上げ間隔を3カ月に短縮したのか、それとも今後も従来よりも短い間隔で利上げを進めるのかが焦点となる。日銀が今後も毎会合を「ライブ」とし、10月を含めて次回以降の会合で追加利上げを排除しない姿勢を維持するのかを確認したい。とりわけ、10月会合での追加利上げを明確に排除するのかどうかは、今後の利上げペースを見極めるうえで重要な手掛かりとなる。

金融環境をどの程度「緩和的」と評価するか

今回の声明文では、1.25%への利上げ後も「緩和的な金融環境は維持される」と明記された。政策金利は、日銀の自然利子率推計から機械的に算出される名目中立金利のレンジ(1.1~2.5%)に入ったものの、その下限付近にとどまる。実質金利もなお低く、企業の資金需要や金融機関の貸出姿勢にも明確な引き締まりはみられない。

植田総裁が、今回の利上げ後も現在の金融環境になお相応の緩和度合いが残っているとの認識を示せば、追加利上げ余地は大きく、政策金利の最終的な到達点が1.5%や1.75%を上回る可能性も意識されよう。一方、中立金利レンジに入ったことや既往の利上げの累積効果を重視する発言が増えれば、最終的な金利水準はそれほど高くならないとの見方につながる可能性がある。

原油高と円高を踏まえた上で、物価上振れリスクをどう評価するか

足元では原油価格の上昇が一段と強まる一方、円相場は円高方向に動いており、輸入物価には相反する力が働いている。会見では、円高による押し下げを踏まえてもなお、原油高によるコスト上昇やその二次波及を強く警戒しているのか、また従来よりも物価上振れリスクは高まっているのかといった点を確認したい。また、原油高を単なるエネルギー価格上昇や景気下押し要因とみるのではなく、企業による価格転嫁を通じて基調的な物価にも影響し得るとみているかも重要である。

原油高の景気への悪影響をどの程度重くみているか

原油高は物価を押し上げる一方、企業収益や家計の実質所得を圧迫する。ただ、雇用・所得環境や企業収益がなお底堅いなかで、日銀が景気への下押しを現時点では吸収可能とみているのであれば、政策判断では物価上振れへの対応をより重視しやすい。景気下押しへの警戒をどの程度示すかは、今後の利上げペースを考えるうえでの手掛かりとなる。

利上げの累積効果を確認するため、今後は時間を置く必要があるとみているか

政策金利が中立金利の推計レンジに入ったことで、今後は既往の利上げが企業の借入や設備投資、住宅ローン、個人消費などに及ぼす影響をこれまで以上に見極める必要がある。植田総裁が累積的な影響を確認するために一定の時間が必要との姿勢を示せば、次回利上げまでの間隔を広げる方向のメッセージとなる。一方、これまでの利上げによる経済への影響は限定的で、金融環境はなお十分に緩和的との評価を示せば、今後も比較的短い間隔で追加利上げを続ける余地があることを示唆することになる。

為替と海外金融政策をどう位置づけるか

先日の米FOMCがタカ派的と受け止められたことで、日銀が慎重なメッセージを出せば円安圧力が再び強まる可能性がある。一方、日銀は為替そのものを政策目標としているわけではないため、為替水準そのものを理由に金融政策を説明することは避けるとみられる。円相場を輸入物価や物価上振れリスクを通じた判断材料としてどう説明するか、また米国を含む海外中銀の引き締めが日本の金融環境に与える影響をどうみているかを確認したい。

2027年春闘の位置づけ

現時点では物価上振れリスクが政策判断の中心にあるが、賃金上昇の持続性は基調的な物価動向を判断するうえで引き続き重要である。秋以降、2027年春闘の初動に関する情報が段階的に増えてくる。日銀がこうした情報を今後の利上げ判断にどの程度織り込む考えなのかも確認したい。

3. 12月利上げを予想(植田総裁会見前)

植田総裁の記者会見前の現時点では、次回は12月会合で政策金利を1.50%へ引き上げると予想している。今回、日銀は前回利上げから3カ月という短い間隔で追加利上げに踏み切った。基調的な物価上昇率が2%に近づくなか、これまで警戒してきた物価上振れリスクがより現実味を増しており、日銀は上振れリスクが明確に顕在化するのを待つのではなく、従来よりも早めに政策対応を行う姿勢を強めているとみられる。

先行きも、物価上振れリスクは容易には解消されないだろう。円高は輸入物価の押し下げ要因となる一方、円高による物価押し下げよりも、足元の原油高とその二次波及による上振れリスクの方が大きいとみられる。原油高はエネルギー価格を直接押し上げるだけでなく、物流費、包装資材、化学製品、食料品などを通じて川下価格へ波及する可能性がある。筆者は年末~年初にかけてCPIコアは+3%を上回ると予想しており、物価上振れへの警戒感は一段と強まるだろう。

また、1.25%への利上げ後も金融環境はなお緩和的とみられる。政策金利は名目中立金利レンジの下限付近に入るが、実質金利はなおマイナスであり、現時点で企業の資金需要や貸出環境に明確な引き締まりはみられない。このため、1.25%到達をもって利上げ余地が大きく狭まるとは考えにくい。

もっとも、10月会合での連続利上げは現時点ではメインシナリオとしていない。9月利上げから1カ月しかなく、新たに確認できる情報が限られるためである。その点、12月会合までには、秋以降の物価動向、原油価格、為替相場、企業の価格設定行動、賃金動向などをより幅広く確認できる。2027年春闘に向けた初期情報も徐々に増えてくることから、追加利上げを判断するタイミングとしては12月が最も自然だとみている。

その後については、2027年3月に1.75%、6月に2.00%へ引き上げるとの予想を維持する。原油高の影響はエネルギー価格にとどまらず、物流費や包装資材、食料品、日用品などへ時間差を伴って波及するとみられるほか、企業の価格転嫁姿勢も積極化している。資源高がラグをもって電気・ガス代の上昇に繋がることもあり、物価上振れリスクは年明け以降も当面解消されにくいとみている。

対外環境も日銀の追加利上げを後押しする方向にある。米国で追加利上げ観測が強まるなか、日銀の利上げ期待が後退すれば、円安圧力が再び強まりかねない。加えて、米国側も円安抑制に向けた日本の金融政策正常化を支持する姿勢を示しており、日銀が国内の経済・物価情勢に応じて利上げを進めるうえで、対外面からの制約は以前より小さいと考えられる。

こうしたことから、日銀は基調的な物価上昇率を2%程度で安定させるため、今後も段階的な利上げを継続すると予想する。

新家 義貴


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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