- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- ドイツ極右主導の州政府誕生に近づく
- 要旨
-
- 6日に行われたドイツのザクセン=アンハルト州議会選挙で、極右政党AfDが過去最高の得票率で圧勝した。単独過半数には届かなかったが、AfD抜きの多数派形成には他の5党全ての協力が必要となる。AfDとの対話を排除しない新興左派政党BSWの対応次第では、AfD出身の州首相やAfD主導の州政府が初めて誕生する可能性がある。極右排除の「防火壁」は重大な局面を迎えている。
9月6日に投開票が行われたドイツのザクセン=アンハルト州議会選挙は、事前の世論調査通り、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が圧勝した。AfDは定数83のうち39議席を獲得し、単独過半数に3議席届かなかったものの、得票率は43.8%に達し、第二党となった連邦政府を率いる保守政党「キリスト教民主同盟(CDU)」の2倍以上の票を獲得した(表)。過去の州議会選挙でAfDが最も高い得票率を記録したのは、2024年のテューリンゲン州議会選挙の32.8%だったが、今回はそれを大幅に上回った。

少数政党の乱立による議会の機能不全を防ぐため、ドイツの州議会選挙では5%の比例票に届かなかった政党には議席が配分されない。事前の世論調査では、二大政党の一角を占める中道左派政党「社会民主党(SPD)」、環境政党「緑の党」、リベラル政党「自由民主党(FDP)」、新興左派政党「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」の4党が5%前後で推移していた。このうちFDPを除く3党が5%の議席獲得ラインを突破したことで、AfDによる単独過半数の議席獲得を辛うじて阻止する形となった。
8月24日付けレポート「揺らぐドイツ極右排除の「防火壁」」で指摘した通り、主要政党は反イスラムや反移民を掲げ、時に排外主義的な政策主張を繰り返すAfDとの政権協力から距離を置いてきた。これまで連邦及び州レベルで、AfDが政権を率いたり、連立政権に参加したり、閣外協力をしたことはない。2019年のテューリンゲン州議会選挙後には、FDPの州首相候補がCDUとAfDの支持を受けて選出されたが、ドイツ政界を巻き込む猛反発を受け、早期退任に追い込まれた。一方、市町村や郡レベルでは、AFD抜きの行政・議会運営が難しいケースが増えており、AfD出身の市長も複数誕生している。今回のザクセン=アンハルト州議会選挙では、州議会レベルでのAfD排除の「防火壁」が突破されるかどうかに注目が集まった。
AfDによる単独過半数の獲得は辛うじて阻止されたが、AfDを排除する形で州政府を発足できるかは不透明だ。AfD抜きで議会の過半数を確保するためには、CDU、SPD、緑の党、左翼党(Linke)、BSWの5党全てが協力する必要がある。中道右派・中道左派の伝統的な二大政党、環境政党、旧東ドイツの支配政党の流れを汲む左翼党、そこから分裂したBSWが、様々な政策上の相違を乗り越えて協力するのは容易ではない。
左翼党出身の有力政治家ザーラ・ワーゲンクネヒト氏が結党したBSWは、議席を獲得した政党の中で唯一、AfDを一律に排除せず、今後の州議会運営に向けて同党とも話し合う姿勢を示している。減税や規制緩和を重視するAfDと、所得分配・産業政策・社会保障を重視するBSWは、経済・社会政策分野での相違が目立つ。一方、移民規制の強化、対ロシア制裁やウクライナへの軍事支援での消極姿勢、現政権のエネルギー政策への反発、欧州連合(EU)の政策や権限拡大に対する批判などでは共通点もある。BSWの対応次第では、ドイツで初めてAfD出身の州首相が誕生することや、AfDが州政府を主導する可能性も排除できない。
同州の州首相の選出手続きでは、1回目の投票で州議会の絶対多数(議員総数の過半数)の支持を集める候補がいなければ、7日以内に2回目の投票を行い、そこでも絶対多数を得る候補がいなければ、さらに14日以内に議会の投票で解散・再選挙の是非を判断する。議会解散・再選挙が過半数で可決されない場合、直ちに3回目の州首相の選出投票を行い、今度は議員総数の過半数ではなく、投票総数の過半数を得た候補が州首相に選出される。つまり、BSWがAfD主導の州政府に正式に参加しない場合も、3回目の投票を棄権することで、AfD出身の州首相が誕生する可能性がある。
今回の選挙結果は、ドイツの国政にも大きな影響を及ぼす可能性がある。CDUの得票率は前回選挙の37.1%から17.2%に半減し、AfDに保守票の多くを奪われた。州政府への不満だけでなく、景気低迷が続くなかで目立った経済再生の成果を上げられていないメルツ政権への失望が広がっていることも、AfD躍進の一因となった。今後の州議会選挙でもCDUがAfDに大敗する展開が続けば、メルツ首相の求心力が低下するとともに、AfDとの協力を拒む「防火壁」の是非を巡るCDU内の議論が再燃する可能性がある。
より深刻なのは、AfDの支持拡大によって、もはや「防火壁」を維持すること自体が難しくなっていることだ。AfDの支持が2~3割程度にとどまっている間は、既存政党同士の連立で同党を政権から排除することが可能だった。だが、今回のようにAfDが4割を超える支持を集めると、同党を排除して議会の過半数を確保するには、政策的な隔たりが大きい多党間の協力が必要になる。こうした異例の連携は、AfDに「既存政党が結託して民意を無視している」との批判材料を与え、かえって同党への支持を高める可能性もある。AfDの支持拡大が防火壁の維持を難しくし、防火壁を維持するための既存政党の連携がさらにAfDを利するという悪循環に陥る恐れがある。
田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

