- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- コロンビア大統領選、強硬右派の勝利で親米路線に回帰
- World Trends
-
2026.06.22
新興国経済
原油
産油国経済
為替
トランプ政権
コロンビア大統領選、強硬右派の勝利で親米路線に回帰
~政権手腕は未知数、原油・ガス産業強化策の持続性にも不透明感~
西濵 徹
- 要旨
-
- コロンビアでは6月21日、大統領選の決選投票を実施した。決選投票には、無所属で極右政党支援を受けた弁護士のデラエスプリエジャ氏と、ペトロ現政権を支える左派連合のセペダ氏の戦いとなった。当初はセペダ氏が優勢だったが、第1回投票の直前に左翼ゲリラによる抗争が激化し、治安対策が争点となった。セペダ氏はゲリラとの和平継続、デラエスプリエジャ氏は軍事的掃討と対米関係の改善を掲げるなど、両極の戦いとなった。
- 決選投票の得票率は、デラエスプリエジャ氏が49.66%と、セペダ氏(48.70%)に僅差で勝利した。デラエスプリエジャ氏は勝利宣言で「米国との緊密な同盟構築」を強調し、現政権からの大転換を宣言した。中国の影響力拡大を念頭に「民主主義国とは関係強化、自由を尊重しない国とは断つ」と表明。選挙公約は爆撃によるゲリラ掃討、コカ栽培地への除草剤散布、刑務所建設、教育・医療・住宅改善を掲げるとともに、財政悪化を背景に国家機構を最大4割縮小して減税し、原油・天然ガス産業を強化する方針を示した。この動きは、中南米で広がる右派回帰と同調しており、「ピンクの潮流」が巻き戻る局面を示している。
- デラエスプリエジャ氏は政治経験がなく「アウトサイダー」として変革を標榜し、「虎」に自らを喩えるパフォーマンス重視の側面が強い。票差が1ポイント未満の接戦で国民は二分された状況にあり、議会では与党が少数派のため公約実現は容易でない。加えて、産油量は年74~78万バレルで安定しているが、可採年数は10年未満と限定的であり、同氏が主張する関連産業強化策の持続性には不透明感が残る。また、強硬政策がゲリラ伸長を招く可能性も考えられることから、具体的な政策運営の行方を見定める必要性が高い。
【決選投票は右派と左派の両極による戦いに】
南米コロンビアでは、6月21日に大統領選挙の決選投票が行われた。5月に実施された第1回投票には計13人が立候補したが、無所属で極右政党(国民救済運動)の支援を受けた弁護士のアベラルド・デラエスプリエジャ氏が首位になった。しかし、同氏の得票率は43.75%と過半数に届かず、次点候補との決選投票にもつれ込んだ。次点は、ペトロ現政権を支える与党左派連合(パクト・ヒストリコ)から出馬したイバン・セペダ氏となったため、決選投票は強硬右派と左派の両極による戦いとなった(注1)。
選挙戦を巡っては、当初の世論調査ではセペダ氏の優勢が伝えられるとともに、仮に決選投票に持ち込まれても同氏が勝利するとの結果が相次いで示された。しかし、選挙の直前に南部グアビアレ州で左翼ゲリラ同士の抗争が激化し、多数の戦闘員が死亡する事態に発展した。このため、大統領選終盤にかけては治安対策やゲリラとの和平交渉が主要な争点となった。セペダ氏は政府と左翼ゲリラの和平交渉に仲介役として携わった経験があり、ペトロ現政権の方針を継承する考えを示した。また、「ドンロー主義」を標榜し、麻薬対策を名目に中南米への介入を強めるトランプ米大統領に批判的な立場を示した。一方、デラエスプリエジャ氏は、爆撃による左翼ゲリラの掃討を公約に掲げるとともに、コカインの原料となるコカの栽培地への除草剤散布など、現政権の対話重視路線から強硬路線への転換を主張した。これは、同氏がトランプ氏への支持を公言し、ペトロ政権下で悪化した対米関係の改善を目指しているためとみられる。
こうした事情は、第1回投票においてデラエスプリエジャ氏が予想外の躍進を果たす要因になったと考えられる。さらに、その後の世論調査においては、いずれもデラエスプリエジャ氏がセペダ氏を上回る結果となった。2022年の前回大統領選では、同国初の左派政権が誕生したものの、一転して右派に回帰するとの見方が強まった。中南米ではここ数年、アルゼンチン、コスタリカ、ボリビア、エクアドル、チリで相次いで右派政権が誕生しており、今月7日に実施されたペルー大統領選でも保守派のケイコ・フジモリ氏が優位に立っているとされる。金融市場においては、左派政権の継続を警戒して通貨ペソ相場が弱含む動きがみられた。しかし、第1回投票のあとは一転して持ち直し、足元では5年半ぶりの高値を付けるなど堅調な動きがみられる(図1)。

【親米路線に転換の一方、政策手腕については未知数】
選挙管理当局が発表した両者の得票率は、暫定開票率99.99%時点でデラエスプリエジャ氏が49.66%、セペダ氏が48.70%となり、僅差でデラエスプリエジャ氏が勝利した模様である。これを受けて、デラエスプリエジャ氏はSNSを通じて勝利宣言を行っている。勝利宣言では、「米国と緊密な同盟関係を構築する必要がある」と強調するなど、ペトロ現政権からの大転換を図る考えを示した。その後の支持者集会でも「ここに君の大統領がいる。この勝利はコロンビア全体のものだ」と勝利宣言を行った。そのうえで、「民主主義を尊重する国とは関係を強化するが、自由や法を尊重しない国とは関係を持たない」と述べるなど、近年中南米での影響力を拡大させる中国を念頭に置いた発言を行っている。これは、トランプ米大統領が同氏を支持する意向を示したことも影響していると考えられる。
前述したように、同氏は選挙公約として、爆撃による左翼ゲリラの掃討を公約に掲げるとともに、コカインの原料となるコカの栽培地への除草剤の散布など、現政権の対話重視路線から強硬路線への転換を図る考えを示した。さらに、大規模刑務所の建設のほか、教育・医療・住宅の改善を通じた貧困削減を公約に掲げた。その一方、左派のペトロ政権の下で公的債務残高が急拡大するなど、財政状況が急速に悪化していることを受けて、国家機構の規模を最大4割縮小して減税を行うとともに、輸出の3割を占める原油や石油製品、天然ガス関連産業を強化する方針を掲げている。こうした政治姿勢は、このところ中南米で広がりをみせる右派回帰の動きと類似しており、左派政権がドミノ的に誕生した「ピンクの潮流」が巻き戻っているものと捉えられる。
ただし、デラエスプリエジャ氏はこれまで政治経験がまったくなく、その手腕については未知数のところが多い。大統領選においては、政治経験のなさを逆手に取る形で「アウトサイダー」として変革をもたらすと主張したほか、派手なパフォーマンスや過激な言動を通じ、自らを力強いイメージを持つ虎になぞらえる選挙運動を展開した。とはいえ、決選投票における票差は1ポイント未満という接戦になるなど、国民を二分した選挙結果を踏まえれば、政策運営には高いハードルが待ち構えている。さらに、共和国議会では上下院ともに次期政権を支える与党は少数派にとどまるため、公約の実現は容易ではない。
コロンビアの産油量はここ数年日量74~78万バレル程度で推移するなど安定している。日本は中東に代わる原油の調達先として様々な国、地域との交渉を積極化させており、同国もそうした国のひとつとみられる。しかし、同国の原油・天然ガスの可採年数はいずれも10年未満とされており、デラエスプリエジャ氏が掲げる関連産業強化策の持続性については不透明感が残る。強硬な政策運営がかえって左派ゲリラの伸長を招く可能性もあり、デラエスプリエジャ氏による具体的な政策運営を見定める必要がある。
注1 6月1日付レポート「コロンビア大統領選、決選投票は極右と左派の一騎打ちに」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
ロシア中銀、9会合連続緩和も利下げ幅縮小、総裁は久々に公の場に ~利下げ局面の終了が近いことを示唆、次期総裁人事を巡る動きが活発化する可能性も~
新興国経済
西濵 徹
-
インド・5月インフレ率は前年比+3.93%に加速(Asia Weekly) ~生活必需品のみならず、財・サービスで幅広くインフレ圧力が強まる動き~
アジア経済
西濵 徹
-
韓国ウォン相場が示すアジアで広がる通貨防衛策の賞味期限 ~事実上の資本取引制限措置の「副作用」に注意を払う必要性は小さくない~
アジア経済
西濵 徹
-
台湾中銀、金利据え置き継続も、一部の理事は利上げを主張 ~株価はAI・半導体関連を中心に活況も、金融政策は「M字型経済」の対応に苦慮している~
アジア経済
西濵 徹
-
インドネシア中銀、ルピア安定へ追加利上げを決定 ~1ヵ月で累計100bpの利上げ、短期的な安定には期待も、資本規制の「副作用」に懸念~
アジア経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
ロシア中銀、9会合連続緩和も利下げ幅縮小、総裁は久々に公の場に ~利下げ局面の終了が近いことを示唆、次期総裁人事を巡る動きが活発化する可能性も~
新興国経済
西濵 徹
-
アルゼンチンで格上げ相次ぐ、金融市場はミレイ改革を評価 ~「破たん国家」の再建は前進も社会的摩擦も増大、改革の継続性が注目される~
新興国経済
西濵 徹
-
米国とイランが戦闘終結で合意へ、世界経済はどうなる? ~今後の協議の成否と復旧コストが金融市場の次の焦点に~
新興国経済
西濵 徹
-
トランプ氏「週末にも合意署名」と表明、今度は本当か? ~繰り返される「TACO」が金融市場の健全性を脅かしている可能性~
新興国経済
西濵 徹
-
ロシア中銀・ナビウリナ総裁を巡って「憶測」が広がる ~過去2週間近く消息不明、中銀の政策運営はどうなる~
新興国経済
西濵 徹

