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2026.08.04
アジア経済
米中関係
中国経済
経済安全保障
経済安全保障の観点で考える中国ビジネスを巡るリスクとは
~新たな出入国管理規則によりビジネスを巡るリスクが高まる可能性も~
西濵 徹
- 要旨
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- 高市首相の台湾有事答弁や日本の防衛費増額決定を受け、中国は日本への「経済的威圧」を強めている。また、中国は、日本の防衛力強化を「軍事化」とする宣伝を国際社会で展開し、友好国にも同調の動きが広がっている。日本には、中国の経済的威圧に毅然と対応しつつ、対中依存の低減や国際社会への情報発信、米国・EUなどとの連携強化が求められる。
- こうしたなか、中国当局は7月31日、輸出管理や国家安全保障に関わる中国国民の出国を制限できる新たな出入国管理規則を公布した。規則は、物品や技術だけでなく、AI、半導体、先端製造業、バイオ医薬品などの技術を持つ人材そのものを統制する方向性を示している。中国に進出している日系企業にとっては、従業員の出張や海外プロジェクト、研究開発交流などが制約される新たなリスクとなる。
- さらに、出入国関連業者への規制や地方政府への出国禁止権限の付与、外国人に対する入国審査も強化される。当局による恣意的な運用により、研究者やジャーナリスト、外国企業の従業員が突然出入国を制限される懸念もある。巨大市場としての中国の重要性は変わらないものの、人的交流や企業活動の自由度が低下し、中国ビジネスのリスクが一段と高まるため、経済安全保障の観点から対中事業を冷静に見直す必要性が増している。
このところの中国は、高市首相による台湾有事を巡る国会答弁のほか、日本政府による防衛費の増額決定を受けて、日本に対する「経済的威圧」を強めている。さらに、中国は日本を批判する際の「ナラティブ(物語)」として、国際場裡において「日本の軍事化」という説明を繰り返し用いている。冷静に考えれば、こうした中国の批判は荒唐無稽なものであると考えられる。しかし、足元では、ロシアや北朝鮮のみならず、中国の友好国であるパキスタンやバングラデシュ、モンゴルなどが中国に同調する動きをみせている。このため、日本の外交戦略への悪影響が懸念されるとともに、一連の動きを決して座視することはできない状況にある。日本としては、中国による経済的威圧に毅然とした対応を取るとともに、中国リスクの低減を図る取り組みを強化することが肝要である。そのうえで、国際社会で日本の立場を適切に発信するなど、中国のプロパガンダへの対抗措置も不可欠で、米国やEUなど他国との連携を強化していく必要性はこれまで以上に高まっている。
このように、中国との対峙の仕方は経済安全保障の観点から極めて重要になっている。さらに、中国当局が7月31日に公布した新たな出入国管理規則は、経済安全保障の観点から中国との付き合い方を難しくすると予想される。当局によれば、中国国民が輸出管理や技術輸出入管理規則に違反する形で国家の産業や技術の安全保障を脅かすおそれがあれば、商務部をはじめとする関連部局が出国を禁止できるという。また、海外で国家の安全や利益を害する違法行為や犯罪行為を行った中国国民は、中国への帰国後に6ヵ月から3年間の出国禁止措置を受ける可能性があるとしている。このところの中国は、物品や技術の統制を通じて海外への流出阻止を図る動きを強化してきたものの、今回の決定は技術を有する人を直接統制する方向に変化していることを意味する。
新たな規則により最も影響を受けるのは、AI(人工知能)や半導体、先端製造業、バイオ医薬品といった技術集約型産業であろう。同規則は9月15日に施行されるものの、該当業種の企業は同日までに技術の安全保障と従業員の出国に関する内部規定を整備する必要があるとされ、中国に進出する日系企業にとって新たなリスクとなることが懸念される。さらに、革新的な技術に関わるエンジニアや研究開発(R&D)に関わる人材が許可なく出国し、海外で技術支援に携わること、出張や海外工場の建設、人的交流などの目的で事実上技術を海外に移転する場合も、規則に違反したと判断される可能性がある。これまでは、輸出管理規則に違反した場合には罰金や製品の没収にとどまっていたものの、今後は関係者の出国が禁止されるため、海外で開催される展示会への参加や海外でのプロジェクトへの協力、研究開発の交流が困難になる可能性がある。
また、新たな規則では、出入国に関連する有料相談のほか、書類代行サービスなどに関連する業者や個人に正式な登録を義務付けている。海外の業者や機関は中国国内でこうしたサービスを提供することはできない。さらに、中国の公務員や軍人が海外の市民権や永住権を取得しようとして仲介業者を利用した場合、業者は代行を拒否したうえで当局に通報する義務があり、違反した場合は不当利益の5倍に相当する罰金が科される。加えて、出国禁止に関する権限はこれまで中央政府のみが担っていたものの、新規則では地方政府にも付与される。国家安全保障にかかわる事案は当事者に事前通知がなされないことが多く、空港で初めて出国できないと通知される状況も想定される。中国の公安を巡っては、世界各地に非公式の出先機関や拠点を設けるとともに、在外中国人や反体制派の監視、威圧、帰国強要などを行っていると指摘されており、海外を中心に問題視されている。今後はこうした動きが活発化する可能性にも注意が必要になっている。
さらに、新たな規則では、外国人に対する入国規制も強化される。具体的には、ビザ申請で虚偽の資料提出のほか、虚偽の申告を行った外国人は入国を1~5年間禁止される可能性がある。また、反外国制裁法に基づく対抗・輸出禁止リスト(反制裁リスト)のほか、信頼できないエンティティーリストへの記載、制裁対象となった外国人に対しては出入国書類の発給拒否または入国不可とするとした。これらに該当する人はそもそも中国に入国することはないと考えられ、虚偽の資料提出や申告を行うことが問題なのは理解できる。一方で、その判断に当たっては当局の恣意性を排除することができず、研究者やジャーナリストなど中国にとって「都合の悪い人」に対する審査が厳格化される可能性は残る。さらに、一旦中国に入国した外国人が突然、空港で足止めされることも懸念される。このため、今後は草の根レベルでの国際交流に関する自由度が低下するとともに、企業も従業員の渡航計画を慎重に見直す必要性が高まることは避けられないであろう。これまでも、中国で働く外国人が突如出国を制限される事例は多数あったものの、新たな規則を通じて制度として明文化されたことで、中国ビジネスを巡るリスクはこれまで以上に高まる。中国経済を巡っては、個人消費など内需が力強さを欠くなど厳しい状況にあるものの、その人口規模の大きさなどから巨大市場であることは間違いない。とはいえ、そのビジネス環境が厳しさを増すことも予想され、経済安全保障の観点から冷静に見直す必要性は高まっている。
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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