インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

台湾経済はAI・半導体の「波」に乗る一方でインフレ懸念に直面

~半導体需要が景気を押し上げも、「M字型経済」の進行で中銀はタカ派傾斜を強める懸念~

西濵 徹

要旨
  • イラン情勢悪化による原油価格上昇は、原油備蓄が豊富な台湾では耐性が比較的高いものの、LNGはカタール産が約3割を占めるため、ホルムズ海峡を巡る情勢の影響を受けやすい。2025年5月に「原発ゼロ」を達成した台湾では、エネルギー供給不安から原発再稼働の検討や石炭火力の補完稼働を迫られている。エネルギー高と台湾ドル安による輸入物価上昇で、インフレ率は1年半ぶりの伸びとなり、中銀はタカ派姿勢を強めている。背景には、「M字型経済」と称する格差拡大があり、生活必需品のインフレが低所得層を直撃する懸念がある。

  • AI・半導体関連需要を追い風に、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+9.91%に加速するなど、旺盛な動きが確認されている。輸出受注額も過去最高を更新し、設備投資・雇用・個人消費も底堅い。当局は2026年成長率見通しを上方修正したが、年前半の経済成長率はそれを上回った。先行きも外需主導の拡大が見込まれる一方、原油高止まりやスーパーエルニーニョによる食料インフレ圧力が「M字型経済」を助長するリスクに注意が必要である。

  • 株式市場は半導体関連株に左右される展開が続き、主要株価指数は6月末に最高値更新した後は、半導体株の調整で上値の重い展開が続いている。台湾ドルはAI・半導体投資期待に下支えされつつも、エネルギー高に加え、米ドル高の動きも上値を抑える推移をみせている。今後、景気とインフレの加速が確認されれば、中銀が金融引き締めに転じる可能性があり、金融市場への影響が注視される。

目次

【インフレ加速や経済の「M字型」化を受け、中銀はタカ派姿勢を強めている】

イラン情勢の悪化を受けた原油やLNG(液化天然ガス)などエネルギー資源価格の上昇は、一次エネルギーに占める原油比率が35%、天然ガス比率が20%に上る台湾経済に悪影響を与えることが懸念された。台湾は原油のほぼすべてを輸入に依存しているが、米中摩擦が激化する背後で原油輸入の約6割を米国からの輸入が占めている。さらに、原油備蓄量も約146日分とアジア新興国のなかでは比較的高く、原油の供給懸念に対する耐性が比較的高いと考えられる。

一方で、当局は近年、脱石炭の取り組みに加え、脱原発を進めるべくLNGの輸入を拡大させてきた。こうしたなか、LNG輸入の4割をオーストラリア産が占める一方、カタール産も3割程度を占めており、イラン情勢の悪化によるホルムズ海峡の航行懸念の影響は避けられない状況にある。台湾では、2025年5月にすべての原発の稼働を停止する「原発ゼロ」を達成したものの、イラン情勢の悪化によるエネルギーの供給懸念を受けて、原発の再稼働が検討されるなど難しい判断を迫られている。また、電力供給の安定化を図るべく、足元では石炭火力を補完的に稼働させる動きもみられる。背景には、世界的なAI(人工知能)・半導体関連投資が活発化しており、主力の輸出財である半導体の生産・供給に必要となる膨大なエネルギーの安定供給が必要となっていることがある。

なお、台湾の原油や石油製品、天然ガスの貿易収支はGDP比▲1.0%程度の赤字と試算される。この水準はアジア新興国のなかでも小幅にとどまるため、イラン情勢の悪化による原油高はマクロ経済の足かせとなる懸念はあるものの、その影響の度合いは比較的小さいと捉えられる。しかし、エネルギー価格の上昇に加え、金融市場で米ドル高が進んでいることを反映した台湾ドル安による輸入物価の押し上げも重なり、足元のインフレ率は1年半ぶりの伸びとなるなど加速している(図1)。中銀は6月の定例会合において、9会合連続で政策金利を据え置いたものの、一部の理事会メンバーが利上げを主張したほか、数名がインフレを警戒していることが明らかにされるなど、タカ派姿勢を強めている(注1)。背景には、台湾経済が、AIや半導体などハイテク産業に関連する富裕層と、物価高や不動産高騰に取り残される低所得者層が拡大する所得の二極化(M字型経済)が進んでいることがある。さらに、エネルギーなど生活必需品をけん引役にしたインフレ加速の動きは、低所得者層に色濃く悪影響を与えることが懸念される状況にある。

図表1
図表1

【AI・半導体需要を追い風に、4-6月の景気も堅調な推移が続いている】

足元のインフレ加速の動きは、個人消費をはじめとする内需の足かせとなることが懸念される。一方で、世界的なAI・半導体関連投資の旺盛さを追い風に、6月の輸出受注額は過去最高を更新するなど外需の堅調さを示唆する動きがみられる。こうしたなか、4-6月の実質GDP成長率(速報値)は前年同期比+12.92%と前期(同+14.55%)から鈍化するも、3四半期連続の二けた成長を維持するなど旺盛な動きが続いている。前期比年率ベースの成長率は+9.91%と前期(同+6.94%)から加速しており、足元の景気は堅調な推移をみせている(図2)。過去1年以上にわたって輸出が高い伸びで推移してきた反動が出ているものの、引き続き世界的なAI・半導体投資の旺盛さが輸出をけん引する展開が続いている。

図表2
図表2

AI関連を中心とする外需の堅調さは高性能コンピューティングやクラウドインフラ製品関連といった関連分野での設備投資を押し上げるなど、好循環がみられる。さらに、外需の堅調さを追い風に、AI・半導体に関連する製造業のほか、サービス業などを中心に雇用環境は底堅い動きをみせており、個人消費も堅調に推移している。その結果、輸入は輸出を上回るペースで拡大しており、純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度は前期比年率ベースで2四半期連続のマイナスと試算されることを踏まえると、景気実態は数字が示す以上に良好と捉えられる。世界的なAIブームを受けて、当局(主計総処)は5月に2026年通年の経済成長率見通しを+9.64%と従来見通し(+7.71%)から引き上げたものの、年前半の経済成長率は+13.72%とこれを大幅に上回るなど、あらためて堅調さが確認された格好である。

先行きについては、前述したように6月の輸出受注額が過去最高を更新するなど、当面の外需の堅調さを示唆する動きが確認されており、外需をけん引役にした景気拡大が続く可能性は高い(図3)。一方で、足元ではイラン情勢が不透明な状況が続くなか、米国とイランの停戦合意を受けて一服した原油価格は高止まりしており、エネルギー価格の上昇圧力がインフレを招く懸念は残る。さらに、足元ではスーパーエルニーニョが発生しており、アジアでは高温や少雨・干ばつによる農業生産などへの悪影響が懸念されるなど、食料品を輸入に依存するなかで食料インフレ圧力が強まる可能性もある。このため、外需と内需の勢いに違いが出ることにより、中銀が懸念する「M字型経済」の様相を一段と強める可能性に注意する必要がある。

図表3
図表3

【金融市場もAI・半導体に左右される展開、先行きは中銀の政策運営にも要注意】

2025年以降の金融市場では、世界的なAI・半導体需要の旺盛さを追い風にした関連投資の拡大期待が時価総額上位の半導体関連株を中心とする株価上昇をけん引する展開が続いてきた。イラン情勢の悪化による金融市場の動揺により、一旦はそうした動きに陰りが出たものの、その後は事態収束の期待が高まったことで勢いを取り戻し、主要株価指数(加権指数)は6月末に最高値を更新した。その後は、世界的に半導体関連株が調整の動きを強めていることを受けて、主要株価指数も上値の重い動きをみせており(図4)、先行きも半導体関連株の動きに左右される展開が続くと見込まれる。

図表4
図表4

一方で、2025年の台湾ドル相場については、トランプ関税の動きに大きく揺さぶられたものの、その後はAI・半導体関連投資の旺盛さに対する期待が下支え役となる展開が続いてきた。イラン情勢の悪化やそれに伴うエネルギー価格の上昇は対外収支を悪化させるとの懸念に加え、米ドル高の動きも台湾ドル相場の上値を抑える展開が続いている。先行きについては、世界的なAI・半導体需要への期待が金融市場の活況を支える可能性はあるものの、エネルギーや食料品といった生活必需品を中心とするインフレに加え、堅調な景気がインフレ圧力を加速させる動きが確認されれば、中銀が金融引き締めに舵を切る可能性はあり、金融市場を取り巻く環境にも影響を与えることに注意が必要である。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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