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2026.06.17
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アルゼンチンで格上げ相次ぐ、金融市場はミレイ改革を評価
~「破たん国家」の再建は前進も社会的摩擦も増大、改革の継続性が注目される~
西濵 徹
- 要旨
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アルゼンチンでは、ミレイ大統領の下で財政健全化や規制緩和などの「ショック療法」的改革が進められてきた。政権発足前は300%近くまで加速したインフレは政権発足後に鈍化に転じ、2025年後半以降は30%程度で推移している。トランプ米政権との関係改善などによる輸出拡大も追い風となり、2025年の経済成長率は3年ぶりのプラス成長となるなど、回復基調を強めている。一方、世界的な原油高はシェールオイル・ガス産出国である同国の貿易黒字を拡大させる要因となる一方で、国内のインフレ率を押し上げる要因にもなっており、5月のインフレ率は前年同月比+33.2%へと加速した。米国とイランによる和平協議進展に伴う原油価格の調整は、インフレ圧力の後退を通じてミレイ改革を後押しすると見込まれる。
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こうした経済の改善を受けて、主要格付機関3社のうち2社が格上げを決定した。フィッチ・レーティングスは5月、S&Pグローバルも6月に格上げを決定し、いずれも財政、対外収支の改善や債務返済能力への信頼感の高まりを理由に挙げた。ただし、低水準な外貨準備や政府債務の高さなどは依然として制約要因として残されている。昨年の中間選挙でミレイ政権の与党連合が勝利して政治的基盤が強化されており、構造改革は一段と前進している。改革直後に急上昇した貧困率も2025年後半にかけて低下し、経済危機直前の2018年前半以来の低水準となるなど、国民生活の改善も見られる。一方、社会保障サービスの縮小に伴う中低所得者層へのしわ寄せから、デモが頻発するなど社会的摩擦も顕在化している。ミレイ氏は次期大統領選への出馬を表明しており、改革の継続性が今後の注目点となる。
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【ミレイ改革による「破たん国家」の立て直しは着実に前進】
アルゼンチンでは、2023年末に就任したミレイ大統領の下で「破たん国家」の立て直しが進められている。同国は、長年にわたる左派政権による外資排斥的な政策や放漫な財政運営などを背景に、過去に9回ものデフォルト(債務不履行)を経験している。ミレイ氏は、就任直後から省庁再編や国営企業の民営化などによる、公的部門のスリム化を通じて財政健全化に取り組んだ。さらに、幅広い分野を対象とする規制緩和を通じて、市場メカニズムを重視する政策運営を進めた。ミレイ氏は、これらの大胆な改革を大統領令や議会法案を通じて短期間で推し進めるなど、「ショック療法」的な政策運営を進めてきた。
同国ではミレイ政権発足前までインフレが慢性化し、一時は300%近くまで加速した。しかし、ミレイ政権の発足後は鈍化に転じ、2025年後半以降は30%程度で推移している。また、ミレイ氏とトランプ米大統領との個人的な関係の良好さを追い風に米国との関係改善が進むとともに、米国向け輸出の拡大につながっている。さらに、米中摩擦が激化する背後で、中国は穀物の輸入先の多様化を図っており、この動きも追い風に中国向け輸出も大幅に拡大している。
インフレ鈍化による内需を取り巻く環境の改善に加え、外需も堅調に推移するなか、2025年の経済成長率は+4.4%と3年ぶりのプラス成長となった。さらに、2025年末時点における実質GDPの水準は2018年の経済危機前の水準を上回るなど、政権発足から丸2年を経て同国経済は名実ともに回復基調を強めている。(図1)。

同国は世界最大級のシェールオイルとガスの埋蔵量を誇るバカ・ムエルタ油田を有しており、原油や石油製品、天然ガスの貿易収支はGDP比+0.7%程度の黒字と試算される。したがって、中東情勢の緊迫化を受けた原油価格の上昇は、マクロ面で同国経済の押し上げにつながることが期待される。その一方、市場メカニズムを重視するミレイ政権の下では、原油高によるエネルギー価格の上昇の影響が顕在化しており、直近5月のインフレ率は前年同月比+33.2%と2025年末から緩やかに加速している(図2)。米国とイランによる和平協議の前進を受けて、原油価格は調整の動きを強めている。インフレ圧力の後退はインフレ率の鈍化を促すと見込まれるなど、ミレイ改革を後押しすることが期待される。

【主要格付機関2社が相次いで格上げを決定】
こうしたなか、6月10日に主要格付機関のS&Pグローバルは、同国に付与している外貨建て長期信用格付けをCCCプラスからBマイナスに1ノッチ引き上げたことを明らかにした。同社は格上げの理由について、ミレイ改革による財政健全化の進展に加え、外貨の資金繰りの改善も進むなど経済の脆弱性が後退していることを挙げている。さらに、IMF(国際通貨基金)や世界銀行など多国間支援機関による融資のほか、資本市場への段階的な復帰が進むなど、外貨資金調達へのアクセスが改善していることは、外貨準備の積み増しや債務返済を後押しするとの見通しを示した。一方で、外貨準備高は依然として国際金融市場の動揺への耐性が極めて低いと試算されるなど低水準にとどまるほか(図3)、過去に政策変更が相次いできたこと、他国と比較して政府債務の水準が高いことは格付けの制約要因になっていると指摘した。

主要格付機関であるフィッチ・レーティングスは、S&Pグローバルに先立つ形で5月に格上げ(CCCマイナス→Bマイナス)を決定している。同社は格上げの理由について、ミレイ改革の下で財政運営や対外収支の改善が進むとともに、インフレが鈍化しているほか、IMFプログラムなどを通じて構造改革が進展しており、債務返済能力への信頼感が高まったことを挙げている。そのうえで、外貨準備の脆弱性やインフレ、マクロ経済の不安定性などのリスクは残るものの、短期的に債務不履行に陥るリスクは低減したと判断している。足元の格付けは依然として「投資適格級(BBB以上)」にはほど遠い水準にあるものの、主要3社のうち2社が格上げを決定していることは、同国に対する国際的な評価が着実に改善していることを示唆している。
2社が格上げを決定した背景には、2025年10月に実施された中間選挙において、ミレイ政権を支える与党連合・自由の前進が勝利したことも影響している(注1)。これにより、ミレイ政権の政治的基盤が強化された結果、労働時間を延長する制度のほか、鉱業規制の緩和といった構造改革を一段と前進させることが可能になった。同国の貧困率はミレイ政権による大胆な改革の影響で発足直後に大幅に上昇したものの、2025年後半にかけて低下しており、経済危機に陥る直前の2018年前半以来の低水準となるなど、国民生活を取り巻く環境も改善している。他方、急進的な構造改革の背後で社会保障サービスは縮小しており、特に中低所得者層にそのしわ寄せが現れるといった副作用も顕在化している。その結果、年明け以降も国公立大学の予算削減を巡って学生などを中心とするデモが発生したほか、急進的な労働改革に労働組合が反発を強めるなど、デモが頻発する動きもみられる。ミレイ氏の任期は残すところ1年半を切っているが、2027年10月に実施される次期大統領選に出馬する意向を示している。ミレイ改革が継続するのか、それとも道半ばでとん挫を余儀なくされるのか、今後の行方が注目される。
注1 2025年10月27日付レポート「アルゼンチン中間選挙、政権与党の勝利で自由市場改革継続へ」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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