インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

2026年後半の中国経済は「公共投資頼み」となるか

~7月の企業マインドは幅広く悪化も大規模対策なし、党内では統制強化が進む見通し~

西濵 徹

要旨
  • 中国共産党は、7月30日に開催した党中央政治局会議で景気の頭打ちを認め、インフラ関連の財政支出の進捗加速を表明した。上半期の国債発行・歳出が計画未達であり、下半期の歳出拡大余地は大きい。一方、内需拡大に向けては雇用支援強化を掲げたものの、具体策を欠くとともに、「内巻」是正も継続方針にとどまる。所得向上より供給改善に重点を置く姿勢がうかがえ、国務院が発表した消費拡大5ヵ年計画も一過性の効果にとどまる可能性が高い。
  • 米国は対中関税を12.5%に引き上げるなど外部環境が厳しさを増すなか、7月の製造業PMIは49.2と5ヵ月ぶりに50を割り込んだ。生産(49.9)、新規受注(48.5)、輸出向け新規受注(49.6)がいずれも悪化しており、内外需とも受注が急速に減速した。輸入(47.5)・購買量(49.4)も低下し、対中依存国の輸出への影響が懸念される。出荷価格(47.8)の下落は価格転嫁の難しさを示す一方、完成品在庫(48.6)は増加に転じ在庫調整の鈍化がうかがえる。
  • 非製造業PMIも49.0と3ヵ月ぶりに50を割り込み、2022年12月以来の低水準となった。建設業(47.0)は7ヵ月連続で50割れ、サービス業(49.3)も低下した。新規受注(44.4)・雇用(45.4)の悪化が目立つほか、業種間のばらつき(卸売・金融・不動産の低迷、娯楽・運輸の改善)も鮮明になっている。総合PMIは49.3となり、製造業の設備・ハイテク関連の好調とエネルギー集約型産業・消費財の不振という「K字型」の二極化が強まっている。
  • 10月開催予定の5中全会は「全面的で厳しい党内統治」が主要議題とされ、2027年党大会に向けた反腐敗運動の強化や党内引き締めが見込まれる。6月に打ち出された「習近平党建設思想」は個人崇拝色が強く、党内での統制強化が一段と進むとみられ、「ポスト習」の動きは見られない。中国は台湾有事を巡る日本の対応を受けた「経済的威圧」を強めているが、日本にはレアアース確保の多元化や国際発信、米国やEUなどとの連携強化が求められる。
目次

【党中央政治局会議、年後半の財政支出の進捗加速を示唆】

中国共産党は、7月30日に中央政治局会議を開催した。当局は、3月に開催した全人代(第14期全国人民代表大会第4回全体会議)で2026年の経済成長率目標を「4.5~5.0%」とした。1-3月の実質GDP成長率が前年比+5.0%となり、政府目標の上限に達するなど良好なスタートを切った。しかし、4-6月の実質GDP成長率は前年比+4.3%に鈍化したほか、前期比年率ベースでも+3.6%と2023年10-12月以来の低水準となるなど、足元の景気は頭打ちの様相を呈している(注1)。足元の景気を巡っては、世界的なAI(人工知能)・半導体関連投資の旺盛な動きも追い風に外需は堅調な動きをみせる一方、個人消費や不動産投資など内需は総じて弱含む対照的な動きをみせる。さらに、内需を中心とする需要の不透明さにもかかわらず、生産拡大による供給過剰による不均衡状態が続いており、過剰生産を吸収するために外需への依存を強める状況にある。

中央政治局会議では、足元の中国経済について「直面する困難と課題」を認め、景気減速を認識するとともに、その対応としてインフラ関連を中心とする財政支出の進捗を加速する方針を示した。なお、上半期の国債発行額と歳出が計画を下回る水準にとどまり、下半期には歳出拡大の余地があると考えられる。そのうえで、当局は国家プロジェクトである六張網(電力、水利、通信、コンピューティング、物流、地下配管)の「着実な推進」を表明し、2030年の完成に向けて総額26兆元を上回る投資が計画され、進捗が期待される。このため、年後半の中国景気については、公共投資の進捗が下支え役となる可能性が高まっている。

一方で、中国国内では内需が力強さを欠くなか、内需拡大に向けて「重点層への雇用支援を強化し、柔軟な働き方や新たな雇用形態の労働者の権益を保障する」としたものの、具体的な方策は示さなかった。企業が利益を犠牲にして市場シェアを争う過当競争「内巻(ネイジュアン)」が社会問題化しているが、この問題について「引き続き総合的な是正を進める」との姿勢を示した。こうした姿勢は、当局は内需拡大の必要性は認識しているものの、当局の関心が所得向上よりも、消費者向けの商品やサービスの供給改善に引き続き重点があることを示唆している。国務院は7月13日、消費拡大に特化した初の5ヵ年計画(2026~2030年)を発表し、2030年の小売売上高(社会消費支出)を2025年対比で2割増の約60兆元とする方針を掲げた。主要方針には、サービス消費の質向上や新たなサービスの創出が主眼に置かれている。このため、労働分配率の上昇による購買力の向上など、本質的な課題解決が進むとは見通しにくく、一過性のものにとどまるであろう。

【製造業は国内外で受注が悪化し、生産に下押し圧力がかかる】

このように、中国国内における構造問題が内需の足かせとなるなか、景気は外需に支えられる展開が続いている。一方、トランプ米政権は7月23日、通商法122条に基づく10%の暫定関税の失効を前に、これに代替する形で通商法301条に基づく新関税を発動した。新関税は60ヵ国・地域を対象としており、強制労働対策が不十分であることを理由に、中国に対する関税率は12.5%に引き上げられた。中国の過剰生産能力に対して米国やEU(欧州連合)が批判を強めていることを受けて、中国当局はEUの企業・団体を輸出管理リストに加えるなど圧力を強める動きをみせている。中国当局による輸出管理を巡っては、日本向けの軍民両用品(デュアルユース)輸出の管理を強化する「経済的威圧」を強めているが、その対象を広げている様子がうかがえる。中国当局は、こうした対応を国家の安全と利益を守るためとしている一方、その背後で景気を支える外需を取り巻く環境は厳しさを増している。

国家統計局が公表した7月の製造業PMI(購買担当者景況感)は49.2となり、前月(50.3)から5ヵ月ぶりに好不況の分かれ目となる50を下回る水準に転じた(図1)。足元の生産動向を示す「生産(49.9)」は前月比▲1.5pt低下して5ヵ月ぶりに50を下回るなど、企業が減産圧力を強めている様子がうかがえる。加えて、先行きの生産に影響を与える「新規受注(48.5)」も前月比▲2.7pt、「輸出向け新規受注(49.6)」も同▲0.5pt低下してともに50を下回るなど、内・外需ともに受注動向が急速に悪化しており、先行きの生産が一段と下振れする可能性がある。こうした動きを反映して、「輸入(47.5)」は前月比▲2.1pt低下して5ヵ月ぶりの低水準に、「購買量(49.4)」も同▲2.0pt低下して2ヵ月ぶりに50を下回るなど、中国経済への依存が高い国にとって対中輸出の重石となることが懸念される。

図表
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また、原油高の一服などを反映して「購買価格(53.2)」は前月比▲1.0pt低下したものの、依然として50を上回る推移が続いている。一方で、「出荷価格(47.8)」は前月比▲0.4pt低下して50を下回る対照的な動きをみせており、企業部門にとっては内需の弱さが価格転嫁を難しくする状況にある。また、企業が減産の動きを強めているにもかかわらず「完成品在庫(48.6)」は引き続き50を下回る推移が続いているものの、前月比+0.9pt上昇しており、緩やかに在庫削減ペースが鈍化している様子がうかがえる。さらに、先行きの生産に不透明感が高まっているにもかかわらず、「雇用(49.0)」は前月比+0.5pt上昇したものの、50を下回る推移が続くなど調整圧力は根強い。このため、家計部門を取り巻く環境の大幅な改善は見通しにくい状況にあると考えられる。

【非製造業は建設業、サービス業問わず全般的にマインドが悪化】

製造業に比べて堅調な動きをみせてきた非製造業PMIも、7月は49.0と前月(50.2)から▲1.2pt低下して3ヵ月ぶりに50を下回り、2022年12月以来の低水準となるなど、足元の企業マインドはコロナ禍以来の悪化となっている(図2)。業種別でも、「建設業(47.0)」が前月比▲2.0ptと大幅に低下して7ヵ月連続で50を下回るとともに、「サービス業(49.3)」も同▲1.1pt低下して3ヵ月ぶりに50を下回るなど、幅広い分野で企業マインドが悪化する動きが確認されている。夏休みシーズンが重なったことで、娯楽関連のほか、運輸関連、宿泊関連、文化関連でマインドが改善する動きがみられるものの、卸売関連、金融関連でマインドが急速に悪化するとともに、資本市場関連、不動産関連のマインドは引き続き低迷するなど、業種ごとのばらつきが鮮明になっている。

図表
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足元の企業活動が低迷しているうえ、先行きの企業活動を左右する「新規受注(44.4)」は前月比▲3.6pt低下して3ヵ月ぶりの低水準になるとともに、「輸出向け新規受注(47.0)」も同▲0.7pt低下しており、いずれも50を下回るなど低迷している。原油高の一服など商品市況が落ち着きを取り戻していることを反映して「投入価格(49.7)」は前月比±0.0ptと横ばいで推移しているほか、原材料価格の安定を追い風に「出荷価格(47.9)」は同▲0.5pt低下しており、製造業のみならず、非製造業においても価格競争が厳しいことを示唆している。さらに、企業マインドの悪化を受けて「雇用(45.4)」は前月比▲0.4pt低下するなど調整圧力を強め、4ヵ月ぶりの低水準となるなど雇用を取り巻く環境が厳しさを増している。このため、当局にとっては内需喚起を図る意味でも雇用の下支えが喫緊の課題となっていることは間違いない。

製造業と非製造業を合わせた総合PMIも、7月は49.3と前月(50.6)から▲1.3pt低下しており、5ヵ月ぶりに50を下回っている。さらに、その水準も2022年12月以来の低水準となるなど、足元の企業マインドは総じてコロナ禍以来の悪化を示唆している。国家統計局は、足元でマインドが悪化している理由に、前年の水準が高かった反動に加え、一部の製造業で伝統的な閑散期に重なったことを挙げている。しかし、製造業については、設備関連やハイテク関連が活況を呈する一方、イラン情勢の悪化によるエネルギー価格の上昇を理由に、エネルギー集約型の鉄鋼関連や化学工業関連などが厳しい状況にあるほか、消費財関連も低迷するなど二極化の様相を強めている。このところの中国経済は「K字型」の様相が強まっているとされるが、足元ではそうした傾向が一段と進んでいると考えられる。

【習近平指導部の4期目入りを目指す動きも活発化】

党中央政治局会議では、10月に党の重要会議である5中全会(第20期中央委員会第5回全体会議)を開催することを決定した。新華社によれば、5中全会の主要議題は「全面的で厳しい党内統治」とされた。中国では、2027年に次期指導部を決定する党大会(第21回全国代表大会)の開催が予定されており、習近平指導部は4期目入りを目指しているとみられる。こうしたなか、次期党大会に向けて、党内では習近平指導部が主導する「反腐敗・反汚職」運動が激化しており、5中全会では、党幹部の汚職摘発や規律の徹底などを協議して、党内の引き締めを図る狙いがあるとされる。その意味では、5中全会は習近平指導部の4期目入りに向けた舞台装置になると予想される。

加えて、習近平指導部は、6月に開催した全国党建設活動座談会において「習近平党建設思想」を打ち出した。同思想は厳正な規律や反腐敗など14項目で構成されているが、全体的に習氏に対する個人崇拝色が強い内容となっている。そのうえ、新華社は、同思想を西側諸国の政治も見習うべきと主張するなど、その異様さが一段と強まっている様子がうかがえる。党中央政治局会議では、同思想を深く学び、実践しなければならないと強調しており、党内における統制が一段と強化される可能性を示唆している。このため、党内においては「ポスト習」の動きがまったくうかがえない状況にあると捉えられる。

このところの中国は、高市首相による台湾有事を巡る国会答弁や、日本政府による防衛費の増額決定を受けて、日本に対する「経済的威圧」を強めている。足元の中国経済は着実に変調の兆しがうかがえるものの、中国側から自発的にこうした対応を変化させる可能性は極めて低いと考えられる。日本としては、中国による経済的威圧に毅然とした対応を取るとともに、中国リスクの低減を図る観点から、多元的なレアアースの確保に向けた取り組みを着実に強化することが肝要である。そのうえで、国際社会において日本の立場を適切に発信するなど、中国のプロパガンダへの対抗措置も不可欠で、米国やEUなど他国との連携を強化していく必要性はこれまで以上に高まっている。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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