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2026.07.21
新興国経済
原油
産油国経済
トランプ政権
イラン情勢
再びエスカレートするイラン情勢
~戦火は着実に拡大、原油価格が世界経済や金融市場に与えるリスクに要注意~
西濵 徹
- 要旨
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- 米国・イランは6月17日に停戦に向けた覚書に署名し、事態収束が期待された。ホルムズ海峡の事実上の封鎖で急騰した原油価格も、船舶航行の回復や迂回パイプライン活用、調達先多様化・中東外産油国の増産により、悪化前の水準近くまで落ち着いた。
- しかし覚書を巡る米イラン間の認識の相違(海峡開放を巡る対立)や、イラン側が海峡封鎖の意思・能力を誇示したため、交渉カードとしての封鎖示唆リスクが懸念された。その後、オマーン・IMOによる海上回廊設置にイランが威嚇攻撃を行い、米国も報復するなど対立が再燃。トランプ米大統領はホルムズ海峡通航への課金構想を打ち出したが、反発を受け撤回、代わりに湾岸諸国との投資協定締結を志向した。
- その後も攻撃の応酬は継続し、イランはAIS信号を切って機雷敷設海域を航行する船舶を攻撃したほか、フーシ派を通じてバブ・エル・マンデブ海峡の封鎖も警告。フーシ派はサウジへの海上封鎖を宣言し、有志連合も武力対応を表明するなど戦火が拡大している。さらにイランによるヨルダンの米軍基地攻撃で米兵が死亡するなど、米イラン間の衝突は一段とエスカレートする可能性が高まっている。
- これを受け原油価格は再び上昇に転じている。IEA加盟国が過去最大規模の協調備蓄放出を行ったことで世界の原油在庫は歴史的低水準にあり、今後の供給不安に対する緩衝余地は乏しい。市場は「TACO(トランプ氏の尻込み)」を織り込んでいる可能性があるものの、事態の一段のエスカレーションには引き続き警戒が必要な状況にある。
イラン情勢は再びエスカレートする様相を強めている。米国とイランは6月17日、停戦合意に向けた14項目の「覚書」に署名し、事態収束に向かうと期待された。遡れば、イランによるホルムズ海峡の事実上の封鎖で同海峡は航行困難となり、多数の船舶がペルシャ湾内に足止めされた。ホルムズ海峡は、世界の原油取引量の約2割が通過し、事実上の封鎖による供給懸念の高まりを受けて原油価格は急上昇した。一方で、停戦合意を受けて、ホルムズ海峡を航行する船舶数はイラン情勢の悪化前には及ばないものの、着実に増加した。これに加え、サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)などは、ホルムズ海峡を迂回するパイプライン経由で原油輸出を活発化した。また、原油価格の上昇を受けて、輸入国は調達先の多様化を図り、中東以外の産油国は原油生産を拡大させた。その結果、原油価格はイラン情勢の悪化前の水準に迫るなど、落ち着きを取り戻した。
しかし、米国とイランが署名した覚書を巡っては、両国の認識の違いが懸念された。なかでも、ホルムズ海峡について、米国は通行料なしでの完全開放を主張したが、イランは同国とオマーンによる共同管理を主張し、ホルムズ海峡への影響力を維持したいとの思惑を有している。さらに、イラン情勢の悪化を受けて、イランはホルムズ海峡を長期間にわたり封鎖し続ける意思と能力があることを示すことに成功した。このため、イランは米国のほか、米国に同調する国への影響力の行使を目的に、いつでもホルムズ海峡の封鎖を示唆し、交渉カードとして活用する可能性があると考えられた。
オマーンとIMO(国際海事機関)が連携し、ホルムズ海峡の通行確保を目的として、一時的な海上回廊の設置を決定すると、イランは同回廊を航行する船舶に対して威嚇攻撃を行った。これに対して、米国は報復攻撃に動いたものの、直後に両国は協議継続に動いたことで落ち着きを取り戻した。しかし、その後もイランはホルムズ海峡を航行する船舶にイラン側(北航路)の通行を要求し、オマーン側(南航路)を航行した船舶に威嚇攻撃を行った。これを受けて、米国はイランへの新たな報復攻撃を実施し、イランも湾岸諸国の米軍施設への攻撃を拡大させるなど対立が再燃した。さらに、イランの最高指導者であるモジタバ師は、故ハメネイ師の葬儀を終え、米国とイスラエルへの報復を主張した。トランプ米大統領は7月13日、米軍によるイランの港湾に対する封鎖措置の再開を宣言し、ホルムズ海峡を利用する国に通過貨物の20%に相当する金額を安全確保の対価として要求すると主張した(注1)。ただし、米国はそれまで国際航路への課金は認められないとの立場を示してきたため、反発が強まった。このため、トランプ氏は直後にこの方針を撤回し、代わりに湾岸諸国との投資協定の締結を目指す意向を示した。
その後も、米国はイランに対する攻撃を継続した。イランも中東の米軍基地への攻撃に加え、ホルムズ海峡をAIS(船舶自動識別装置)の信号発信を停止したうえで、機雷が敷設された航路を航行しようとした船舶を攻撃した。米国とイランによる攻撃の応酬が続くなか、イランはイエメンの親イラン勢力(フーシ派)を通じて紅海とアデン湾をつなぐ海上輸送の要衝であるバブ・エル・マンデブ海峡を封鎖する可能性を警告した。同海峡は、サウジが東西パイプライン(Petroline)やアブカイク・ヤンブーNGLパイプラインを通じてホルムズ海峡を迂回する原油輸出ルートであるため、同海峡封鎖は原油供給に悪影響を与えることが懸念される。その後、フーシ派がサウジに対して海上封鎖を宣言し、サウジ主導の有志連合は船舶への脅威に武力で対応すると表明するなど、戦火が拡大しつつある。こうしたなか、イランによるヨルダンの米軍基地への攻撃で2名の米兵が死亡し、ほかに1名が行方不明となっているほか、イラク北部で撃墜したイランの無人機の爆発物処理に当たっていた米兵1人も死亡した。このため、米国とイランの戦闘が一段とエスカレートする可能性が高まっている。
こうした状況を受けて、落ち着きを取り戻していた原油価格は上昇している(図1)。イラン情勢の行方は不透明であるものの、仮に原油価格が再び急上昇した場合、抑制が効きにくい状況となる可能性がある。IEA(国際エネルギー機関)に加盟する32ヵ国は、イラン情勢が悪化した直後に過去最大規模となる計4億バレルの原油備蓄の協調放出に動いた。しかし、その後も原油供給に不安があるなかで各国は備蓄を積み増すことができず、世界の原油在庫は歴史的低水準で推移している。このため、世界経済や国際金融市場を巡るリスクはこれまで以上に高まっている。金融市場は「TACO(トランプ氏による尻込み)」を織り込んでいるとみられるものの、事態が一段とエスカレートするリスクにも引き続き警戒する必要がある。

注1 7月14日付レポート「ホルムズ海峡を巡る「みかじめ料」を要求するトランプ米大統領」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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