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2026.06.05
国際秩序
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対日輸出規制強化後の対中レアアース輸入
~全体として変化はないものの、酸化イットリウムの輸入は激減~
嶌峰 義清
- 要旨
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中国が日本の軍民両用品(デュアルユース)輸出の禁止を打ち出したことによる影響が懸念される。中国の対日輸出規制強化策は、個別の企業や団体を対象にした輸出禁止、及び輸出審査の厳格化を打ち出したもので、個別の資源や元素を対象として明記はしていない。しかし、一部のレアアース元素については、中国からの輸入が実質的に停止、あるいは納期に時間を要する状態が長期化する可能性がある。
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対日輸出強化策が打ち出された今年に入ってからの日本のレアアースの輸入動向を見ると、全体としては急激な変化は確認されず、年ごとの変動の範囲内にとどまっている。また、中国からの輸入比率にも特段の変化はない。しかし、内訳を見ると酸化イットリウムについては中国からの輸入が急激に落ち込んでおり、日本の輸入量も急減している一方、輸入単価が急上昇している。
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酸化イットリウムは半導体製造に欠かせない物質であり、中国は米国などによる対中半導体輸出規制に対する対抗措置としていると指摘されている。もっとも、軍事品にも利用価値が大きいレアアースであることから、今後も輸出の抑制傾向が続く公算が大きく、半導体業界を中心に民政用品の製造にも支障が出ることが懸念される。
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1. 着々と進む中国の資源管理外交政策と日本への強化策
1月に公表された中国の対日輸出規制強化策は、軍民両用品(デュアルユース)の日本への輸出を禁止するという内容だ。そこでは具体的な資源や品目は明記されなかったものの、中国が世界に向けて輸出管理強化を打ち出しているレアアースが主な対象となることは明白だ。レアアースは各種軍事品に利用される資源(元素)である一方、多くのハイテク製品や環境対策製品にも利用されるため、中国の輸出方針によっては多くの製造分野に影響が出る恐れもある。
中国は、2024年10月に(世界に対し)軍民両用品の輸出規制策を整理し、その対象品目の一つにレアアースを含めた。さらに、2025年4月にはレアアースに絞った輸出規制策を、10月にはレアアースのサプライチェーンにまで及ぶ管理強化策を打ち出した。10月の規制に関しては米中交渉で1年間延期されたものの、ここ数年はレアアースを外交上の切り札とする環境整備を構築してきたといえる(図表1)。

日本への規制強化策はあくまでも軍民両用品の輸出規制という立て付けながら、今年2月には全面的な輸出禁止対象(企業や団体)と、輸出に当たっての審査を厳格化する対象を具体的に明記し、ここ数年進めてきた世界に対するレアアース輸出規制を“実行”した格好だ。
2. 全体としては対中レアアース輸入に変化はないが、一部元素は急減
今年に入ってからの日本のレアアース輸入を見ると、全体としては輸入量に特段の変化は確認されない(図表2)。ただし、詳細に見ていくと一部の元素においては大きな変化が見られる。

財務省発表の貿易統計では、レアアースの元素毎の輸入量や輸入金額は公表されていない。分類としては「希土類金属」「希土類化合物(セリウム化合物)」「希土類化合物(その他)」に分かれており、「希土類化合物(セリウム化合物)」は「酸化セリウム」と「その他」に、「希土類化合物(その他)」は「酸化イットリウム」「酸化ランタン」「その他」にそれぞれ分類されている。
そこで、それぞれについて今年に入ってからの月毎の中国からの輸入量を、昨年1年間の平均月輸入量と比較すると、セリウム化合物(酸化セリウム及びその他のセリウム化合物)と酸化ランタンは昨年よりも多めに輸入されている一方で、酸化イットリウムの輸入量は昨年平均を大幅に下回っている(図表3)。さらに、日本の酸化イットリウムの輸入量を対中輸入とその他地域とで分けてみると(図表4)、中国以外からの輸入量は増加しているものの、中国からの輸入量が激減しているために、酸化イットリウム全体では2008年以降最も少ないペースの輸入量にとどまっている。酸化イットリウムの対中輸入シェアは昨年まで95%前後と、レアアースの中でも高い元素であったが、今年に入ってからの対中輸入シェアは70%程度まで落ち込んでいる。このことから、日本は中国からの酸化イットリウムの輸入が困難になっているために、他の国からの輸入を増やしてはいるものの、対中輸入の減少分をカバーしきれていない姿が見て取れる。

3. 半導体への影響が大きい酸化イットリウムの輸入減少と価格の高騰
酸化イットリウムは、半導体製造装置の保護材(エッチング装置のチャンバー部材やプラズマ耐食コーティング)などに使用され、半導体製造には欠かせない資源とされている。中国政府は、米国が対中半導体輸出規制策を強化していることに対抗し、昨年4月以降はその輸出に際して輸出ライセンスの取得義務、エンドユーザー審査、最終用途審査などを厳格化しているとされる(実際に半導体輸出規制への対抗措置として輸出量を絞ることはWTO協約に抵触する恐れがあるため、あくまでも名目上は軍事用途品かどうかの審査を厳格に行うとしている可能性が高い)。
その結果、酸化イットリウム価格は中国以外では急上昇している。それでも、日本においては昨年も比較的安定的な輸入を維持し、輸入価格も安定していたが、今年に入ってからは中国から輸入している酸化イットリウム価格も急騰し、3月以降は中国以外から輸入する酸化イットリウム価格よりも高い水準となっている(図表5)。

基本的に、レアアースは金属であっても酸化物であっても、中国から輸入しているものが他国から輸入しているよりも価格は安い。したがって、足元で酸化イットリウムの価格が逆転しているのは異常事態と言える。今後、日本が中国以外から酸化イットリウムの輸入を増やそうとすれば、酸化イットリウムの国際的な取引価格は更に高騰すると考えられる。これは、半導体関連産業にとってはコスト上昇要因となり、ひいては半導体価格の上昇圧力となる。
4. 今後もこうした元素が増えるリスクは否定できない
イットリウムは、民生用として前述した①半導体製造装置、のほか、②TVやスマートフォン(LED・ディスプレイ蛍光体)、③MRI(超伝導部材)、④医療機器(YAGレーザー)などに利用される。一方、軍事用として④防衛レーザー(レーザー測距・照準)、⑤赤外線探知(ミサイル・赤外線センサー)として利用される他、⑥赤外線レンズ(光学材料)、⑦航空エンジン(タービンコーティング)などは軍事用にも民生用にも利用用途がある。
こうした軍民両用のレアアースは重希土類を中心に他にも多く存在する。例えばEVモーターや風力発電、産業用ロボットなどに使われるジスプロシウムは、戦闘機のモーターやミサイル誘導装置、レーダーシステムなどの軍事用にも使用される。中国は輸出禁止リストとして個別の企業や団体を挙げているが、日本全体として中国からの輸入が極端に減少している酸化イットリウムの現状を勘案すれば、今後そうした元素が拡大するリスクは否定できない。その影響を回避・軽減するためにも調達先の多角化などは喫緊の課題と言えよう。
嶌峰 義清
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

