なぜAIが普及しても新卒採用は好調なのか?

~日本と海外で異なる「若者雇用」の意味合い~

星野 卓也

要旨
  • AI の普及により海外では若年大卒者の雇用環境悪化がみられる一方、日本では新卒採用の売り手市場が続いている。背景には、日本の新卒採用が単なる「エントリーレベル職の補充」ではなく、将来の専門人材・幹部候補を育成するポテンシャル採用として機能していることがある。

  • ジョブ型雇用が中心の欧米では、AI が入口となる職務を代替すると若年雇用に影響が及びやすい。これに対し、メンバーシップ型雇用の色彩が残る日本では、AI による定型業務の省力化が直ちに新卒採用の縮小へつながるとは限らない。

  • 日本で AI による雇用調整の影響を受けやすいのは、新卒者よりも社内で余剰感のある中高年層や、事務職の担い手となっている女性・非正規雇用層とみられる。「エントリーレベルの仕事=新卒の若者」という欧米型の構図が日本では成り立ちにくいことが、AI の雇用影響の表れ方を異なるものにすると予測する。

目次

※本稿は東洋経済オンライン(2026/6/2)への寄稿をもとに作成。

AI→若者失業が見えてこない日本

新卒採用における「売り手市場」状態が続いている。文部科学省と厚生労働省の調査によれば、2026年3月卒業の大卒者の就職率(2026年4月1日時点)は98.0%と前年度から横ばいで高止まりが続いた(図表1)。人手不足環境下で、若年雇用に対する引き合いは依然として強い。少子化により大卒者数自体が頭打ちとなるなか、若手人材の不足感は続いており、企業側の採用意欲は衰える気配が乏しい。内定の早期化・複数化も常態化しているようだ。

図表
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一方で、昨今しばしば話題になるのがAIの労働市場への影響だ。AIへの曝露度が高いホワイトカラー職、中でもエントリーレベルの仕事はAIによる代替が進みやすいとされ、実際に海外ではその影響が顕在化する動きがみられる。米ニューヨーク連銀の集計では、22~27歳の大卒者の失業率は2026年3月時点で5.6%と、全労働者(16~65歳)の4.2%を1.4ポイント上回った。従来、大卒新卒者の失業率は全体平均を下回るのが常だったが、2023年以降にこれは逆転しており、差は開く傾向にある(図表2)。特に、顕著な影響がみられているのはエンジニア、コンピュータサイエンスやファイナンスなどだ。AIが業務の生産性を爆発的に引き上げたことで、実務部隊としての新人を多数抱える必要性が薄れたということなのだろう。スウェーデンの実証研究では、生成AIへの曝露度が高い職業では22~25歳の労働者の採用が2025年初頭までに5.5%減少した一方、50歳以上の雇用はむしろ1.3%増えたことが示されている(Lodefalk et al., 2026)。AIが若年層の「入口」を狭めている、という構図は欧米で確かに進行中である。

日本にも同じ波が訪れるのは時間の問題…なのかもしれない。だが、その時間は思いのほか長いのではないか、と考え始めている。

図表
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なぜ日本では「若者」の雇用環境が悪化しないのか

まず、日本でも企業がAI浸透を背景にエントリーレベルの「職」を再構築する動きはすでに生じている。①事務職人員の削減を行いつつ営業やコンサルティング業務に配置転換する、②従来の事務職を再定義、スキル獲得の支援とともに高度な専門性を求める形で新卒採用の職掌を組み替える、③バックオフィス業務を総合職化して事務のプロフェッショナルを育成する・・・などが主な事例だ。特徴的なのはエントリーレベル業務の再整理を進めながらも、より高度な業務を求める形に組み替えたうえで採用枠の維持・拡大を打ち出す企業が目立っている点である。

なぜ日本では、AIがエントリーレベル職を侵食しても、新卒採用の縮小に直結しないのか。鍵は労働市場の構造にある。ジョブ型労働市場が基本の欧米では、企業は職務(ジョブ)に紐づいて人を採用し、雇用者にはその職務を遂行するための即戦力であることが求められる。AIがエントリーレベルの職務を代替すれば、無スキルの若者・新卒者の主たる受け皿が縮み、若年雇用へのしわ寄せが直接及びやすい。

一方の日本では、依然としてメンバーシップ型の雇用慣行が根強く残っている。企業は特定の職務ではなく組織の一員を採用する。新卒採用は「エントリーレベル業務の担い手を確保する手段」としての位置づけに加えて、将来的に専門人材、幹部候補へ育成する仕組みとなっている。AIで定型業務が省力化されても、将来の伸び代を見込んで新卒者を確保し、育成しておくインセンティブは容易には消えない。

むしろ、AIをはじめとする働き方の変化への柔軟性・適応力という観点では、白地のキャンバスである新卒者の優位性は際立つ。中高年層と比べてリスキリングの心理的・時間的コストが低く、デジタルツールへの抵抗感も小さい。学生時代から生成AIを日常的に利用してきた世代であれば、AIを使いこなす前提で再設計された業務への適応もスムーズだろう。

加えて、年功的な賃金カーブの名残から、生産性に対して賃金が高くなりがちなのは新卒者ではなく実務担当のミドルシニア層である。メンバーシップ型雇用が生む課題として「社内失業」「窓際族」「働かないおじさん」など、出世ルートを外れて社内に活躍の場を失った中高年層の存在がある。賃金上昇圧力が強まる下で、足元で増えているのが希望退職制度などの利用である。東京商工リサーチによれば、2025年度の上場企業の希望退職募集人数は2万781人と前年度の約2.5倍にのぼり、その多くは黒字企業だった。対象の多くは中高年層に偏っている。

ジョブ型雇用の欧米では人員整理が「ジョブ」を基準に決まる。年齢ではなく職務で待遇が決まるため、日本のようにエントリーレベルに近い仕事を中高年層が高い賃金で行っている、といったギャップはそもそも生じていない。その結果、エントリーレベルの仕事の淘汰は若年雇用の悪化に直結するのである。一方、日本ではメンバーシップ雇用に根差した中高年層の余剰感が依然として強い状態にあるとみられる。人員整理の対象となりやすいのは新卒採用より中高年層、という現実は初任給の上昇と希望退職の増加という状況からも明らかである。従来は「従業員への裏切り」のようにとらえられた中高年の早期退職制度も、中高年の転職市場の拡大、株価や企業価値向上のための手段としてより一般的にとらえられるようになってきている。

「エントリーレベルの事務」の担い手は若者ではない

もう一つ重要な点がある。日本の労働市場の特異性として、女性の非正規雇用の存在がある。特にAIに対する曝露度の高いとされる事務職では、中高年の女性、女性・非正規雇用者が大きな担い手となっている(図表3)。今でこそ夫婦ともに正社員の世帯は一般化しているが、現在の50代以降程度の世帯は結婚・出産とともに女性が専業主婦になり、子どもが大きくなってから簡単な仕事に就く、というキャリアパスも珍しくはなかった。子育て後の中高年女性は現在も事務職雇用の中心となっている。AIによる事務職の淘汰が雇用調整として真っ先に及びやすいのはこの層であると考えられる。

図表
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日本ではAI失業は異なる形で表面化する

日本企業にとって新卒採用は「エントリーレベル職の担い手」としての性格だけでなく、将来の育成を通じた専門人材、幹部になるためのポテンシャル採用としての性格がある。企業はAIによるエントリーレベルの職の淘汰を見据え、新卒者を単に減らすのではなく、新卒者により高度な仕事を求める方向に舵を切っているように映る。ジョブ型雇用とメンバーシップ雇用のもとで「新卒者」の意味合いは異なり、海外で進行する「AIが若者の入口を奪う」現象は、日本では同じ姿では現れにくいのではないか。「AIによるエントリーレベルの仕事の淘汰」の影響を日本で真っ先に受けるのは社内で需給がだぶついている中高年層やエントリーレベルの事務業務の担い手となっている女性・非正規雇用層、だと予測している。「エントリーレベルの仕事=新卒の若者」という欧米型の単純な対応関係が成り立たないことが、異なるAI影響を生むことになるだろう。

参考文献

Lodefalk, M., Löthman, L., Koch, M., & Engberg, E. (2026). Same Storm, Different Boats: Generative AI and the Age Gradient in Hiring. Örebro University Working Paper 2/2026.

以上

星野 卓也


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星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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