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2026.03.31
アジア経済
米中関係
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アジア経済見通し
中国経済
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トランプ政権
イラン情勢
イラン情勢悪化も中国経済は良好さを維持、持続性には疑問
~内需拡大を掲げるも、雇用不安にエネルギー価格上昇、実質的な人民元高の影響にも要注意~
西濵 徹
- 要旨
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米国とイスラエルによるイランへの軍事行動を機に中東情勢は緊迫化し、ホルムズ海峡の事実上の封鎖で原油の供給懸念が高まっている。停戦交渉は難航しており、トランプ大統領とネタニヤフ首相の間でも思惑が食い違う。この影響でエネルギーの中東依存度が高いアジア新興国を中心に金融市場が混乱している。
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中国は一次エネルギーの6割超を石炭に依存し、原油や天然ガスなどの価格上昇の直接的影響は他のアジア新興国より小さい。さらに、ロシア産原油(ESPO)を割安で輸入できる立場にあるため、中東情勢の緊迫化に対する耐性は相対的に高いと見込まれる。しかし、原油や天然ガスなどは輸入超過(GDP比2%弱の赤字)であるうえ、足元では石炭価格も上昇しており、エネルギー価格上昇の影響を完全には免れない。
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全人代では、2026年の成長率目標を「4.5〜5.0%」に引き下げつつ、財政、金融政策の両面で景気を下支えする方針を示した。第15次5カ年計画では「内需拡大」と「高質量発展」を軸に双循環戦略を推進する。3月の製造業PMI(50.4)、非製造業PMI(50.1)はともに3カ月ぶりに50を回復しており、景況感は改善している。しかし、建設業の低迷や価格転嫁の困難さ、雇用の伸び悩みといった構造的課題は依然として続いている。
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2026年の中国経済は比較的良好な滑り出しとみられるが、エネルギー価格上昇による実質購買力の低下、若年層を中心とした雇用不安、不動産不況の長期化などが内需の重しとなり、デフレ圧力が持続するリスクがある。人民元は他の新興国通貨に比べ底堅く推移しており、商品高の影響を一定程度相殺する一方、実質的な人民元高は輸出競争力を損なう面もある。中国が「デフレを輸出」する形での過当競争の激化は、グローバルな企業間競争と物価動向の双方において引き続き注視が必要と考えられる。
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イスラエルと米国によるイランへの軍事行動をきっかけに、中東情勢は緊迫の度合いを増している。両国の軍事行動では、イランの最高指導者であったハメネイ師をはじめ多数の政府要人を殺害するなど、当初の目的は達成された格好である。一方、イラン革命防衛隊は、イスラエルのほか、中東にある米軍基地や関連施設、米国と関係が深い国々に対する報復活動を活発化している。さらに、革命防衛隊は、ペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ海上輸送の要衝であり、世界の原油消費量の約2割が通過するホルムズ海峡を事実上封鎖しているとされる。その後も、米国とイスラエルはイランへの攻撃を継続し、イランも報復を続けており、事態鎮静への道筋がみえない状況が続いている。なお、米国とイランは水面下で協議の機会を模索している旨の報道があり、双方と関係が深いパキスタン、トルコ、エジプトといった国々が仲介役として非公式の接触を図っている模様である。しかし、米国が15項目の停戦案を提示する一方、イランも5項目の停戦条件を逆提案したことが明らかにされ、両国の溝の深さがうかがえる。こうしたなか、中東情勢の緊迫化を受けて金融市場は動揺するなか、トランプ米大統領は戦争終結を模索している一方、イスラエルのネタニヤフ首相はイランへの攻撃を継続する意向を示しており、両者の思惑も大きく異なる。このところの金融市場では、原油や天然ガスなどエネルギーの中東依存が比較的高いうえ、原油備蓄も乏しいアジア新興国を中心に混乱している。
IEA(国際エネルギー機関)によれば、中国の一次エネルギーに占める石炭比率は2024年時点においても6割を上回り、アジア新興国のなかでも突出している。したがって、中国はアジア新興国のなかでも原油や天然ガス価格の上昇の影響を比較的受けにくいと捉えられる。とはいえ、足元では世界的な石炭需要の高まりを追い風に、石炭の国際価格も上昇しているうえ、この動きを反映して中国の石炭価格も上昇しており、エネルギー価格の上昇と無関係ではいられない。さらに、中国の原油や石油製品、天然ガスなどエネルギー資源の収支(輸出と輸入の差し引き)はGDP比で2%弱の赤字と試算される。よって、中東情勢の緊迫化を受けた原油価格の上昇の動きは、マクロ的にみて中国経済に悪影響を与えることは間違いない。しかし、ウクライナ戦争を機に、欧米などはロシアに対する経済制裁を強化する一方、中国はこうした動きに追随せず、ロシア産原油の輸入を拡大させてきた経緯がある。ホルムズ海峡の事実上の封鎖という物理的な供給懸念を理由に、中東産原油は国際的な指標であるWTI(米国産)や北海ブレント(欧州産)に対して割高となるなか、中国が輸入するロシア産原油(ESPO)は中東産に比べて低水準で推移している。その意味でも、中国は中東情勢の緊迫化に対する耐性が他のアジア新興国に比べて高いと捉えられる。
中国で今月開催された全人代(第14期全国人民代表大会第4回全体会議)では、2026年の経済成長率目標を「4.5~5.0%」に引き下げる一方、「より積極的な財政政策」と「適度に緩和的な金融政策」を通じて景気を下支えする方針を示した。さらに、2026年から始まる第15次5ヵ年計画(十五五)で掲げられた4つの重大戦略課題の2つ目に「内需拡大」を据えるとともに、1つ目に掲げた「高質量発展の推進」と相俟って、双循環(内需主導型の成長、自給自足の強化、世界における中国依存度の向上)を円滑化させる方針を示した(注1)。この背景には、米中摩擦の激化により外需を取り巻く環境が厳しくなっていることが影響している。一方、2026年は前年に比べて春節(旧正月)の時期が大きく後ずれするとともに、連休期間も多く、月次統計を大きく左右することが懸念された。3月の製造業PMI(購買担当者景況感)は50.4となり、前月(49.0)から3ヶ月ぶりに好不況の境目となる50を上回るとともに、12ヶ月ぶりの高水準となった。足元の生産動向を示す「生産(51.4)」は前月比+1.8ptと大幅に上昇して3ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復しており、先行きの生産を左右する「新規受注(51.6)」も同+3.0pt、「輸出向け新規受注(49.1)」も同+4.1ptとともに上昇しているものの、内需向けの回復がけん引役となっている。生産拡大の動きも追い風に「購入量(50.9)」は前月比+2.7pt上昇して3ヶ月ぶりに50を上回るものの、「輸入(49.8)」も同+4.2pt上昇しているものの引き続き50を下回り、中国の生産拡大が中国経済への依存が高い国々の中国向け輸出を押し上げることにつながりにくくなっている。また、原油をはじめとする商品市況の上昇を受けて「調達価格(63.9)」は前月比+9.1ptと大幅に上昇して2022年4月以来の高水準となる一方、「出荷価格(55.4)」も同+4.8pt上昇しているものの、上昇ペースは調達価格の半分程度にとどまり、価格転嫁の困難さがうかがえる。さらに、生産拡大にもかかわらず「雇用(48.6)」は前月比+0.6ptと小幅上昇にとどまり、雇用が増えにくくなっている様子もうかがえる。

また、3月の非製造業PMIも50.1となり、前月(49.5)から3ヶ月ぶりに好不況の分かれ目となる50を上回り、幅広い分野で景況感が改善する動きが確認されている。分野別では、「建設業(49.3)」は前月比+0.9pt上昇しているものの、3ヶ月連続で50を下回る推移をみせており、回復感の乏しい展開が続いている一方、「サービス業(50.2)」は同+0.5pt上昇して5ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復しており、対照的な動きをみせている。なお、サービス業のうち、輸送関連や電気通信関連、放送関連、金融関連などは活況を呈する動きをみせる一方、春節連休の需要一巡を受けて小売関連、観光関連、飲食関連は対照的に大幅に悪化しており、生活関連サービスで軒並み景況感が悪化している。建設業についても、公共投資の進捗の動きが景況感を下支えする一方、依然として不動産不況の底がみえていない状況が足かせとなっている。先行きの活動に影響を与える「新規受注(45.0)」は前月比▲0.2pt低下しているほか、「輸出向け新規受注(48.8)」は同+4.1pt上昇しているものの、ともに50を下回る推移が続いており、内・外需ともに不透明感は根強い。原油価格の上昇を受けて、製造業同様に「投入価格(52.3)」は前月比+1.4pt上昇しており、企業部門はインフレ圧力に直面する一方、「出荷価格(49.9)」も同+1.1pt上昇しているものの、50を下回るなど価格転嫁は道半ばであり、ディスインフレ圧力の根強さがうかがえる。さらに、企業マインドは改善しているにもかかわらず「雇用(45.2)」は前月比▲0.8pt低下して5ヶ月ぶりの低水準となるなど雇用調整圧力が強まっており、製造業のみならず、非製造業においても雇用が増えにくくなっている様子がうかがえる。この背景には、習近平指導部が主導する高質量発展の推進に向けて、省力化投資が活発化していることが影響しており、結果的に雇用なき生産拡大の動きが幅広い分野で広がりをみせていると考えられる。前述のように習近平指導部は内需拡大を目指す方針を示しているものの、若年層を中心とする雇用不安が個人消費や不動産需要の足かせとなることで、結果的にデフレ圧力が内需の重しとなる展開が続く可能性は残る。

全人代では、2026年の経済成長率目標の水準を引き下げたものの、1月および2月の経済統計は外需に堅調な動きが確認されたほか、引き続き供給サイドをけん引役にした景気拡大の動きが続いていると見込まれる(注2)。さらに、3月の景況感も幅広く改善していることから、比較的良好な滑り出しとなっていると考えられる。ただし、イラン情勢の悪化を受けた原油などエネルギー価格の上昇の影響は中国も無視できず、若年層を中心とする雇用不安が続くなか、実質購買力の下押しが個人消費など内需の足かせとなる懸念が高まると予想される。金融市場では、アジアをはじめとする新興国に対する見方が悪化しており、株式、為替、債券のすべてに売り圧力が強まる動きがみられ、中国においても同様の動きがみられる。とはいえ、前述したように中国は他のアジア新興国と比較して耐性が強いと見込まれ、人民元の対ドル相場は他の新興国通貨と比較しても底堅い動きをみせている。その結果、中国の主要貿易相手国の通貨バスケットであるCFETS人民元指数は上昇しており、実質的な人民元高は原油など商品市況の上昇の影響を相殺することが期待される。他方、需要サイドについては内需に不透明感が残るなか、景気下支えに向けて外需への依存を強めると見込まれるものの、実質的な人民元高は輸出競争力の低下を通じて外需の足かせとなる。中国国内では、習近平指導部が主導する形でデフレ脱却に向けた反「内巻(ネイジュアン:過酷な過当競争)」の取り組みを強化しているが、企業は内需向けに価格転嫁が難しいなか、外需向けを中心に進める動きをみせてきたものの、外需向けにも価格転嫁のハードルが高まることも考えられる。中国によるデフレの輸出への懸念に加え、価格競争の激化が全世界的な企業間競争を一段と複雑にするとともに、物価動向に与える影響にも注意を払う必要性がこれまで以上に高まっている。

注1 3月5日付レポート「中国、2026年全人代開幕、特異性を強める経済、内政、外交」
注2 3月16日付レポート「中国経済、2026年の出だしは良好も、先行きに不透明要因山積」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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