インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国、2026年全人代開幕、特異性を強める経済、内政、外交

~第15次5ヵ年計画は「高質量生産」、「内需拡大」、「共同富裕」、「発展と安全の統合」を重要課題に~

西濵 徹

要旨
  • 中国では3月5日に全人代が開幕した。2025年の経済成長率は+5.0%と政府目標を達成した。米中摩擦の激化で対米輸出は大幅に減少したが、輸出全体としては拡大を維持した。一方、個人消費や不動産投資など内需は低迷している。過剰生産能力や雇用不安も解消されておらず、足元の景気は力強さを欠く。

  • 李強首相は、第14次5ヵ年計画の5年間を平均5.4%成長で終えたほか、脱貧困、民生保障、ハイテク産業育成、大国外交など幅広い分野で成果を上げたと総括した。そして、足元の中国経済について、外部環境の悪化や構造問題などを抱えているものの、長期的な観点での成長の基盤は盤石との認識を示した。

  • 第15次5ヵ年計画では、成長率目標に具体的数値を設けず「合理的な範囲」とする一方、2035年までの1人当たりGDPを2020年比で倍増する目標を掲げた。重点戦略として「高質量発展」「内需拡大」「共同富裕」「発展と安全の統合」の4課題を設定したほか、6分野・109項目の重大プロジェクトを推進する。

  • 2026年の成長率目標は「4.5〜5.0%」と前年(5%前後)から引き下げた。具体的には、より積極的な財政政策(赤字GDP比4%)とやや緩和的な金融政策を継続しつつ、個人消費など内需の喚起、新興産業育成、対外開放拡大を推進する。台湾問題では、現状維持方針を堅持しつつ、軍事費は7%増と大幅拡大する。

  • 第15次5ヵ年計画と2026年の方針全体を通じて、中国は経済、内政、外交いずれの面でも特異性を強めている。世界的に米国の求心力が低下するなか、日本にとって中国との向き合い方が一段と重要になる。

中国では、3月5日に全人代(第14期全国人民代表大会第4回全体会議)が開幕した。2025年の経済成長率は+5.0%となり、昨年の全人代で設定した政府目標(5%前後)を達成した。米中摩擦の激化を受けて、米国向け輸出は大きく下振れしたものの、金融市場における実質的な人民元安を追い風に、米国以外の国・地域向け輸出は大幅に拡大し、全体としての輸出は拡大している。他方、不動産不況の長期化に加え、若年層を中心とする雇用回復の遅れも重なり、個人消費は頭打ちするとともに、不動産投資は低迷するなど内需は力強さを欠く。こうした状況にもかかわらず、鉱工業生産は一貫して拡大しており、供給サイドの統計で構成されるGDPの拡大を促している。また、中国国内では過剰生産能力による供給過剰が続いており、習近平指導部はこの解消を目指しているが、「新質生産力(新たな質の生産力)」というスローガンの下で設備の更新投資が活発化している。結果、中国国内における過剰生産能力は解消にほど遠い状況が続いているうえ、幅広い分野で雇用機会が失われている。2月のPMI(購買担当者景況感)も、政府版は製造業(49.0)、非製造業(49.5)ともに好不況の分かれ目(50)を下回り、雇用指数も製造業(48.0)、非製造業(46.0)ともに50を下回るなど雇用調整圧力は根強い。一方、民間版は製造業(52.1)、サービス業(56.7)がともに改善したが、雇用指数は製造業(50.1)、サービス業(48.8)と対照的に力強さを欠く。米中首脳会談を経てトランプ関税は引き下げられたうえ、米連邦最高裁が相互関税に対する違憲判決を下したことを受けて、トランプ米政権は代替的な追加関税を課しているものの、実質的に関税率は低下しており、対米輸出のハードルは低下していると捉えられる。今回の全人代では2026年から始まる第15次5ヵ年計画(十五五)が採択される一方、国内・外に懸念が山積するなかで経済、政治、そして外交面でどのような議論が行われるかが注目された。

図表
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全人代は例年通り、李強首相が前年の総括と今年の目標を示す「政府活動報告」を読み上げる形で開幕した。報告では、2025年を非常に異例の年と指摘する一方、2025年10月に開催された4中全会(中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議)について、今後5年間の中国の発展に関する壮大な青写真を描いたとした。そして、第14次5ヵ年計画(十四五)の最終年を、習近平氏を核心とする党中央の指導の下で、国内外の複雑な状況に対応しつつ、経済社会発展の主要目標を達成することで円満に終了したと評した。5%の経済成長率を実現するなど強靭さを発揮するとともに、都市部における新規雇用を1,267万人創出し、経済成長に歩調を合わせる形で世帯収入も拡大。就業前教育の無償化や育児補助制度の充実など、民生保障の強化も実現。また、習近平指導部が主導する新質生産力の下、人工知能(AI)やバイオ医薬品、ロボット、量子科学技術などの分野で世界トップ水準の成果を上げ、新エネルギー車の年間生産台数は1,600万台を超え、ハイテク製造業による付加価値も増加し、エネルギー効率も向上するなど生態環境の質も改善。貿易環境の急変や国内における構造問題など困難に直面しているが、党中央の指導による的確な対応により米中協議で成果を上げ、不動産市場の安定、株価回復、地方政府の隠れ債務の解消などを通じてマクロ経済の安定を図った。また、科学技術強国の実現に向けて技術革新と産業革新の融合を加速化させ、改革開放の深化を図り、都市化と農村振興の推進、民生保障と社会事業の拡充、グリーン型発展の推進、法治国家の建設推進や自然災害への対応強化による「平安中国(国民の権利・利益の保護と社会の公平・正義確保への取り組み)」も進展。習近平氏が主導する形で、多くの国際会議を成功裡に開催する大国外交を展開。その結果、十四五の対象期間である5年間について、習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想の科学的指針に沿う形で、平均5.4%成長を実現するとともに、脱貧困に向けた任務を完了したと評価した。そのうえで、外部環境の悪化や国内の構造問題という課題を有するものの、長期的な経済成長を実現する基盤は変わらず、制度的な優位性と大国としての強みを発揮し、課題に適切に対応すれば将来は明るいとの認識を示した。

十五五については、主要目標の実現に向けて20項目の主要指標を提起し、経済面では経済成長、構造、効率に関する3項目の指標を掲げている。ただし、経済成長率に対する具体的な数値を設定せず「合理的な範囲」に維持し、状況に応じて目標を提示するとしたうえで、2035年までに1人当たりGDPを2020年(10,629ドル)から倍増させる方針を掲げた。イノベーション関連では3項目の指標を掲げ、研究開発投資を年7%以上拡大させるなど十四五と同程度の目標を掲げることにより、研究開発の水準維持を図る。民生・福祉面では雇用、収入、教育、医療、健康、「一老一少(高齢者と育児を取り巻く環境改善)」など7項目、グリーン経済面では脱炭素、環境汚染の削減、生態環境保護など5項目の項目を掲げ、国民生活の向上に取り組むとした。安全保障面では、食料安全保障、エネルギー安全保障の2項目について国家安全保障の基盤強化に努めるとした。そのうえで、4つの重大戦略課題を掲げた。1つ目は「高質量発展の推進」として、新質生産力の発展を実現すべく、イノベーションの推進によるデジタル化の深化を図るとともに、「美麗中国(美しい中国)」の実現に向けてグリーン経済の推進を図る。2つ目は「内需拡大」として、外部環境が複雑かつ厳しい状況のなか、国内大循環(内需主導による経済循環)の実現へ消費を喚起し、高質量発展の強化を目指すとともに、双循環(内需主導型の成長、自給自足の強化、世界における中国依存度の向上)を円滑化させるとした。3つ目は「共同富裕の推進」として、中国式現代化の実現に向けて共同富裕の現代化を図るとしており、教育の拡充、高齢化への積極対応、雇用機会の拡充と所得分配制度の整備、社会保障制度の健全化、地域格差と都市・農村格差の縮小、人を中心に据えた新たな都市化の深化を図り、社会主義の核心的価値観の実践を通じて中華文明の発信力と影響力の向上を目指すとした。4つ目は「発展と安全の統合」として、国家安全の実現とその能力の現代化を推進するとして、食料・エネルギー安全保障を強化するとともに、不動産、地方政府債務、地方の中小金融機関を巡るリスクの解消に取り組むほか、社会の安全・安心の維持を図る。具体的には6分野で109項目の重大プロジェクトを提起し、短期、中長期の両面で基盤強化と弱点の補強、持続的な成長力の向上を効果的に実現することを目指すとした。

2026年については、十五五の初年度であり、習近平同志を核心とする党中央による強固な指導の下、習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想を指針に、内需拡大や供給力の最適化、新質生産力の育成を推進するとした。そして、より積極的で力強いマクロ政策を実現することにより、経済の質的向上と量的成長を両立することを目指すとした。そのうえで、成長率目標を「4.5~5.0%」と2025年(5%前後)から引き下げたものの、取り組みのなかでより良い結果を目指して努力するとの考えを示した。都市部における失業率の目標を「5.5%前後」、都市部における新規雇用者数の目標を「1,200万人以上」と、ともに2025年目標を据え置いている。物価上昇率の目標も「2%前後」と2025年目標を据え置いた。その一方、家計所得の拡大ペースを成長率並みとするほか、国際収支を基本的に均衡させる、食料生産量を1.4億トン前後、単位当たりGDPに占める二酸化炭素排出量を3.8%程度削減するといった目標を掲げている。具体的な政策運営を巡っては、「より積極的な財政政策」の実施を継続するとともに、財政赤字幅を「GDP比4%前後(5.89兆元)」と2025年並みとしたうえで、超長期特別債の発行額を「1.3兆元」と2025年並みとして「両重(重要戦略の実現と重点分野における安全能力構築)」と「両新(大規模設備更新と消費財の買い替え)」を継続するとした。また、特別国債(3,000億元)を発行して国有銀行の資本拡充を図るほか、地方政府が発行する特別債(専項債)も「4.4兆元」と2025年並みとし、インフラ建設、隠れ債務の転換、滞納金の解消を図ることで地方政府債務問題に対応する。金融政策も「適度に緩和的な金融政策」を継続し、預金準備率の引き下げや利下げなど多様な政策ツールを柔軟、かつ効率的に活用して十分な流動性を確保し、融資規模と通貨供給量の拡大ペースと経済成長、物価上昇と整合的にするとした。人民元相場についても、合理的かつ均衡のとれた水準で基本的に安定させるとの考えを示した。

内需喚起に向けて、個人消費の拡大と投資の掘り起こしを両輪で推進し、超長期特別国債2,500億元を充てる形で消費財の買い替え促進を図るほか、内需促進に向けて1,000億元規模の財政・金融連携による基金を設立して利子補給、融資保証などを図る。民間投資の活性化に加え、農村部における消費力拡大、外国人来訪者数の拡大を通じた「購在中国」を活発化させる。さらに、従来型産業の高度化に加え、集積回路、バイオ医薬、「低空経済(ドローンやeVTOLの活用)」といった新興産業、量子科学技術、フィジカルAI(身体性を持つAI)、6G(第6世代移動通信システム)など将来産業の育成を図るほか、AIプラスの深化や大規模演算クラスターといった新インフラの整備も推進する。イノベーションや基礎研究に対する投資拡充のほか、国家主導による研究施設の整備を進め、教育、科学技術、人材の一体整備を図る。また、市場の深化と拡充を一体的に推進すべく、税制や財政、金融体制改革を実施して「内巻(過当競争)」を抑制するとともに、独占禁止に向けた取り組みを強化して公正な市場環境を整備し、国有企業改革と民間企業の法的保護を並行して進める。サービス業を中心とする市場参入拡大を通じて、デジタル経済やクロスボーダー電子商取引を発展させるとともに、一帯一路との協働、貿易・投資面での協力拡大を図るほか、DEPA(デジタル経済パートナーシップ協定)とCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)への加入プロセスの積極化など、対外開放を拡大させる。農村振興の着実な推進、新たな都市化と均衡ある発展のバランスを取るほか、民生保障の強化、全体的なグリーン経済を推進する。不動産市場の安定に向けては、在庫の買い取りによる保障性住宅の供給を重点化するとともに、積立金制度の改革深化を図るほか、引き渡し保障に向けたホワイトリスト制度の拡充により債務不履行リスクを防ぐとした。地方政府債務を巡るリスクについても、積極的かつ秩序立った解消を目指すとして、隠れ債務の解消促進のほか、支援強化と債務再編、借り換えの最適化により、中国全体として統一した債務管理メカニズムの構築を図る。国家安全と社会の安定を維持すべく、食品や薬品、設備などに対する管理監督を強化するとともに、新たな時代の「楓橋経験(国民が相互に監視する治安維持活動)」を通じて多元的な矛盾解決を図る。他方、台湾問題を巡っては従来からの「九二共識」を堅持して台湾独立に断固反対する考えを示すとともに、国家統一の推進を目指す。2026年度予算でも軍事費を大幅に拡大(+7%)する一方、人民解放軍における綱紀粛正の徹底を図る方針を示している。人民解放軍を巡っては、ここ数年「習近平氏の軍」の色合いを帯びる動きがみられるものの、そうした傾向が今後も強まることを示唆した格好である。

十五五、および2026年の経済、内政、外交の方針を巡っては、これまで以上に中国が「特異性」を強めている様子がうかがえる。世界的な分断が広がりをみせるとともに、トランプ米政権の下では世界における米国への求心力が低下する動きがみられるなか、中国の存在感や動きがこれまで以上に注目を集めている。こうしたなか、日本として中国と如何に向き合うかが重要になっている。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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