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韓国証取、イラン情勢を巡る市場混乱でサーキットブレーカー発動

~個人投資家のレバレッジ投資拡大が混乱を増幅させた可能性、イラン情勢を睨んだ展開が続くか~

西濵 徹

要旨
  • 2025年以降の韓国株式市場(KOSPI)は好調に推移してきた。その主な要因として、コーポレートガバナンス改革(改正商法による少数株主保護・企業統治の強化)、李在明政権の市場活性化公約(コリアディスカウント解消・KOSPI倍増目標)、世界的なAI投資拡大への期待、海外株売却に伴う譲渡所得税免除措置などが挙げられる。結果、KOSPIは2026年1月末に目標値の5000を達成した。しかし、個人投資家によるレバレッジ投資の急拡大やGDP比で9割に上る高水準の家計債務といったリスクが内在していた。
  • こうしたなか、2月末にイスラエル・米国がイランを攻撃し、イランがホルムズ海峡を事実上封鎖したことで、国際原油価格が急騰している。エネルギー輸入依存度の高い韓国を含むアジア新興国では、景気悪化とインフレが同時進行するスタグフレーションへの懸念が浮上している。さらに、外国人投資家による売りと個人投資家の投げ売りが重なり、3月4日にはKOSPIが急落して韓国証券取引所がサーキットブレーカーを発動する事態となった。ウォンも2009年3月以来の安値を記録するなど、韓国金融市場は大きく混乱している。当面の韓国市場を巡っては、イラン情勢の動向のにらみつつ、不安定な展開が続くと見込まれる。

2025年以降の韓国金融市場は活況を呈してきた。背景には、尹錫悦(ユン・ソンニョル)前政権が実施したコーポレートガバナンス(企業統治)改革の取り組みがある。なお、2025年の大統領選を経て革新派の李在明(イ・ジェミョン)政権が誕生したことで、こうした取り組みの行方に懸念が高まった。しかし、李氏は大統領選を通じて、株式市場における韓国企業の相対的低評価(コリアディスカウント)の解消、主要株式指数の倍増、任期中に毎月100万ウォンを国内株に投資するといった公約を掲げた。こうした姿勢に加え、李政権の誕生により、政府と国会のねじれ状態が解消されたことで、政策運営が円滑に進むとの期待が高まった。2025年7月に成立した改正商法では、取締役に対して企業のみならず、すべての株主に対して説明責任を負わせる内容が盛り込まれ、財閥企業におけるオーナーなど大株主優遇による不合理な合併やスピンオフを抑制することで、少数株主の利益を守ることにつながっている。さらに、改正商法ではアクティビスト(物言う株主)や個人投資家が企業の意思決定に関与しやすい環境整備なども進められている。こうした取り組みに加え、世界的なAI(人工知能)関連投資の拡大期待を追い風に、主要株式指数(KOSPI)の時価総額上位の半導体関連株を中心に株価は上昇基調を強めた。その一方、若年層を中心とする個人投資家は海外資産の購入を拡大させ、ウォン安を招く一因となった。こうした動きを受けて、政府は2025年末、個人投資家を対象に保有する海外株式を売却して国内株に1年間投資した場合の譲渡所得税を時限的に免除した。このような取り組みも追い風に、KOSPIは2026年1月末に李氏が掲げた倍増目標(KOSPI5000)を達成するとともに、その後も上昇基調を強めた。ただし、2025年末以降の株価上昇を巡っては、前述した個人投資家への譲渡所得税免除措置に加え、個人投資家がレバレッジ投資を活発化させていることも影響しており、報道ではそうした動きに警鐘を鳴らす動きがみられた。韓国では、家計債務がGDP比で9割に達するうえ、資産価格の動向は家計のみならず、金融、マクロ経済を巡るリスクとなる可能性がある。

こうしたなか、2月末のイスラエルと米国によるイランに対する軍事行動を受けて、イランも反撃に出ているほか、事態が長期化する懸念が高まっている。さらに、イランが世界の原油供給の約2割が通過するホルムズ海峡の事実上の封鎖に踏み切った模様で、同海峡を航行する船舶が8割以上減少する動きが確認されている。こうした事態を反映して、その後の国際原油価格は急上昇している。事態の長期化に対する警戒感が強まるなか、中東からの原油や天然ガスの輸入への依存度が高い韓国をはじめとするアジア新興国では、経済活動への悪影響に加え、原油・天然ガス価格の上昇がインフレを招くことが懸念される。世界経済全体を巡っても、景気減速が懸念される一方、原油高が物価高を招くスタグフレーションに陥ることが懸念されるなど、これまで活況を呈してきた金融市場を取り巻く環境は大きく変化している。また、外国人投資家を中心とするポートフォリオ見直しの流れを反映して主要株式指数は調整に転じており、レバレッジ投資を活発化させた個人投資家を中心に投げ売りの様相を呈しているとみられる。結果、韓国証券取引所は3月4日、KOSPIの急落を受けてサーキットブレーカーを発動したと発表した。通貨ウォンの対ドル相場についても、金融市場において「有事のドル買い」の動きが活発化していることも背景に調整しており、一時、世界金融危機直後の2009年3月以来となる安値を記録するなど混乱している。こうした事態に対して、中銀は群集心理的な動きに対応する構えをみせている。当面はイラン情勢の行方をにらみつつ、神経質な展開が続くことは避けられないであろう。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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