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政府は、ナフサが代替調達などの努力によって足りていると説明する。しかし、事実として塗料や尿素水などの不足感は強く存在する。
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石油由来の製品は、市場が小さく末端まで分岐していくほどに、そこでの需給逼迫を止めにくくなる。基本は事業者の買い急ぎの行動を抑制しなくてはならない。買い急ぎの心理を沈めるためには、市場全体の木目細かい需給情報の提供が必要になる。
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「石油備蓄は十分」とのズレ
最近、政府の高官たちが、経済人に対して「ナフサは足りているからご心配なく」と述べているのを見た。しかし、一方でナフサを原料としているゴミ袋(ポリエチレン)、塗料、シンナー、尿素水(アドブルー)、エンジンオイルなどが足りないという現実はある。原料=ナフサは、全体として供給量が前年並みに確保できているが、それを製品にすると供給量が不足している品目もあるという図式なのだ。個々の種類の製品が足りていないのに、現在の「ナフサが足りています」というのは、あまり意味を成さないと感じる。また、この図式に関して、「流通段階で目詰まりが起こっている」という抽象的な説明も、一見、問題を理解しているかのような錯覚を与える。筆者が話を聞いた事業者は、「目詰まりと言っているだけでは仕様がない」とぼやいていた。
現在、起こっていることを三段階で説明してみたい。まず、日本で供給されてきたナフサは、約6割は輸入されていて、残りの4割が日本で精製されている(2025年の量的シェア)。輸入の約7割が中東からだから、ホルムズ海峡の航行制限が起きると、日本全体の供給量が途絶えてしまうリスクにさらされる。国内精製の4割にしても、日本の原油の9割が中東から入ってきているので、同様に先細りする。いずれにしても、ホルムズ海峡の問題が片付かないと本質的な解決はない。
また、イラン攻撃が開始される直前に日本国内では、ナフサは民間で20日分程度しか在庫がなかった。これが原油とは異なり、備蓄法に基づくストックが決められていなかったからだ。以前、1975年に制定された備蓄法は備蓄義務があったが、1993年に義務の対象から外された経緯があるとされる。経済産業省によると、最新の5月26日時点で石油備蓄は、204日分あるという。いわゆる「ナフサ不足」の原因の第一は、こうしたホルムズ海峡封鎖・備蓄の乏しさにあると考えられる。
政府の対応
こうしたホルムズ海峡封鎖に対して、日本政府は代替調達を進めている。米国や南米(ブラジル、ガイアナ)、アフリカ(ナイジェリア、アルジェリア)などからの輸入増加である。これで、例年の8割程度までは確保できていて、2026年末を越えて供給が継続できるとしている。
確かに、量的な供給途絶という最悪のリスクはこれで回避できたように思えるが、その副作用として価格上昇の問題が残ることは留意が必要である。日銀の輸入物価指数では、ナフサ価格(円ベース)が2026年4月に前年比35.3%も上昇している。国内のナフサ価格も前年比1.79倍である(3月は輸入ナフサ前年比▲7.3%、国内ナフサ同▲11.8%)。代替輸入は、4月以降のコスト高騰を引き起こすので、たとえ供給量が確保できても、中小企業などの価格転嫁問題として禍根を残すだろう。
ここにきて、中東問題はトランプ大統領が停戦合意に何とかこぎ着けるのではないかいう観測もある。WTI価格は5月18日時点で1バレル100ドルを超えていたが、5月27~29日は80ドル台後半まで下がってきている。こうした市況は水ものなので、一喜一憂するべきではないと知ってはいるが、ナフサの代替輸入を増やすことは逆にコスト上昇を長引かせることになってしまう。筆者は、エネルギー安全保障の観点からのコストアップはやむを得ないと考えている。
国内のサプライチェーン問題
ここまでは、全体の供給量が政府の代替輸入によって、何とか総量を確保できそうだという図式を説明してきた。しかし、それでも国内でナフサ由来の石油製品には不足感がつきまとうことを、三段階目の図式としてみていきたい。
石油製品は、原油からナフサ=粗製ガソリンが作られて、エチレンなどの誘導品になって、さらに多種多様な製品へと分化していく。筆者も、昔は化学メーカーの担当者として、一生懸命に誘導品の名前を覚えた記憶がある。こうした素原材料から中間財、最終財へとサプライチェーンを降りていくとき、最終財に近づくほどに市場規模は小さくなる。そこで、事業者が買い手として、「前年よりも多く買っておこう」と考えると、需給が逼迫しがちになる。すると、ほかの事業者でも、「将来、足らなくなるから前年よりも購入量を増やそう」という不安の連鎖が起こる。すると、市場全体では、石油製品の末端部分で「あれもこれも足らない」という話になる。川上の素原材料の市場ではこうした逼迫は相対的に起こりにくいが、川下に行くほどに誰かが多めに購入する効果が不具合を生じさせやすい。当然、政府の監視の目も、小さな市場には向きにくい。石油由来の製品市場が多種多様で、末端にいくほどに市場が小さくなるので、こうした需給逼迫を防止しにくくなる。
だから、いくら大本のナフサが足りていると政府が言っても、現場では不足が起こり続けるのだ。これは、私たちが1990年代後半から2000年代初頭に経験した金融不安と酷似した図式である。政府・日銀がいくら資金供給を行っても、末端の銀行店舗では預金の引き出しが続いて、インターバンクでの資金不足はなくならない。市場全体でこうしたマネー偏在が起こるのは、市場の各所でパニックが起こっているからなのだ。
解決法をどうするか?
ナフサ不足問題が究極的に、トランプ大統領の停戦の判断に委ねられていることは厳然たる事実だが、政府が可能な範囲で努力できる余地は、いくらかあると筆者は考える。
特に、ナフサ問題が一種の金融パニックに似ていると理解すると、いくらか解決法、改善策に近づくことができる。パニックに陥っている事業者は、いずれ石油製品の原料が入手できなくなると疑心暗鬼に陥っているから、原料調達をできるだけ増やそうとする。これは、「いずれ石油製品が入手できない」と思っている心理を落ち着かせることで、無用の原料調達の増加を抑制できる。おそらく、原材料やプラスチックなどの中間財市場では、業界団体やそれに絡んだメーカーが2026年後半の製品供給を木目細かく予想として示すことができるはずだ。大本のナフサのところだけではなく、もっと川中の誘導品のところでの供給量の「見える化」である。原材料のナフサが足りているというアナウンスから、エチレン製品(例えば、エチレンオキサイド、エチレングリコール)、合成ゴム原料、塗料原料、合成洗剤原料などの各市場での情報開示を行って、サプライチェーンの供給量は末端近くまで行き渡っていることを示すことが一案になる。
さらに言えば、ガソリンなどの燃料に回っている原油をもっとナフサに回した方がよい。アジアには、自家用車の使用を控えて、公共交通機関に切り替えることを呼びかけたり、夜間電力などの節約を求めるところもある。日本では、特にガソリンの使用量を抑えることもせず、ガソリン消費をそのまま促進するような価格維持政策をしており、そこにはちぐはぐ感がある。もしも、イラン攻撃後の原油使用量が1日当たりで減っていけば、備蓄日数も計算上増えていくだろう。政府が節約を呼びかけない姿勢は、筆者としては少し疑問がある。電気代支援は仕方がないとしても、ガソリン補助を大規模に継続することは、「ナフサは足りている」という政府のアナウンスの信認を低下させていると考えられる。
熊野 英生
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