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2026.01.29
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インドネシア市場に混乱直撃、株式、通貨の両面で不透明感強まる
~MSCIの懸念表明で株式市場混乱、中銀の独立性への懸念で通貨ルピア相場にも不透明感~
西濵 徹
- 要旨
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インドネシア金融市場では、株式、通貨の両面で不透明感が強まっている。株式市場では、MSCIが1月28日に情報開示の不透明さや低い浮動株比率を問題視し、インドネシア銘柄の新規採用停止や投資可能株式数の凍結を発表した。これにより、将来的な指数比率引き上げが困難となり、透明性が改善されなければ新興国指数での比率引き下げやフロンティア市場への格下げの可能性も浮上している。金融市場では、短期的な下振れリスクは限定的との見方もあるが、当局の対応を注視する必要性は極めて高い。
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一方、通貨ルピアを巡っては、中銀副総裁の突然の辞任、後任にプラボウォ大統領の甥が指名されたことを受けて、中銀の独立性への懸念が再燃し、ルピア安が進行した。ここ数年は、中銀法改正を通じて事実上の財政ファイナンスが是認されるなど、政策運営も独立性低下への疑念を強めている。足元では為替介入を通じてルピア相場は下支えされているが、株式市場の問題と相まって、外国人投資家の信認低下が懸念される。その意味では、インドネシア市場への過度な期待の修正が必要となる可能性に注意が必要と言える。
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インドネシア金融市場が動揺に見舞われている。指数算出会社のMSCIが1月28日、インドネシア株式市場の情報開示に関して懸念を表明したことがきっかけとなった。インドネシアの上場企業を巡っては、財閥系企業や国営企業が多く、発行済み株式の大部分をオーナーや政府など固定株主が保有することが珍しくない。その結果、主要銘柄においても浮動株の比率が2割を下回ることが少なくないなど、他国の株式市場と比較して低水準にとどまるとされる。こうしたなか、MSCIはインドネシア証券取引所(IDX)が公表するデータについて、浮動株を巡る状況が不透明であることを理由に、所有構造の不透明さと協調的な取引行動によって適切な価格形成が損なわれていると指摘した。そのうえで、「指数入れ替えの回転率や投資可能性に関するリスクの軽減」を目的に、同社が算出する世界株指数などへのインドネシア銘柄の新規採用を停止するとともに、海外投資家が購入可能な株式数も凍結すると発表した。この措置に伴い、同社が算出する指数に占めるインドネシア株比率の引き上げや組み入れ株数を増やすことが不可能となる。そして、MSCIはIDXに対して、今年5月までに透明性向上に向けた取り組みを求めるとともに、十分な進展がなければインドネシア市場へのアクセスに関する再評価を行うとしている。同社が算出する新興国株式指数におけるインドネシア株の比率引き下げのほか、フロンティア市場への『格下げ』の可能性もあり得るとしている。なお、金融市場においては、2025年以降の株式市場では海外マネーの資金流出が続いてきたことを理由に下振れリスクは限定的との見方がある。しかし、当局が同社や市場が抱く懸念に適切に対応できなければ、混乱が一段と広がる可能性は残り、当面はその動向を注視する必要がある。

一方、インドネシア市場においては通貨ルピアにも不透明感が広がっている。その契機は、1月19日に中銀のジュダ・アグン前副総裁が任期満了まで1年余りを残して突如辞任したことにある。さらに、直後に政府は国会に3名の後任候補を提出したが、そのなかにプラボウォ大統領の甥(姉の長男)で財務副大臣を務めるトマス・ジワンドノ氏が含まれたことで、ルピア安の動きに拍車がかかり、一時最安値を更新した(注1)。インドネシア中銀を巡ってはここ数年、度々その独立性が毀損されかねない動きがみられた。具体的には、中銀法改正により金融政策の目的に経済成長の支援が追加されており、景気下支えを図る必要性があるほか、事実上の財政ファイナンスを是認する内容も盛り込まれている。2025年に政府と締結した協定では、政権公約に掲げる事業進捗を目的に、政府による中銀預金に対する金利を引き上げるなど、事実上の財政支援を行う内容も盛り込まれている。トマス氏は財務副大臣であるとともに、最大与党のグリンドラ党の財務担当を務めており、仮に同氏が中銀副総裁に就任すれば、金融政策が政府のみならず、グリンドラ党の意向を反映したものとなることが懸念された。こうしたなか、27日に議会はトマス氏を中銀副総裁に指名する人事案を承認した。前述のように、政府はトマス氏を含む3名を候補者として議会に提出したが、当初からトマス氏の就任を前提にした動きが活発化していたことに鑑みれば、一連の動きは『出来レース』であったと捉えられる。足元のルピアの対ドル相場は、今月22日に一時最安値を更新した後、当局による積極的な為替介入を通じて下支えされている。しかし、株式市場を巡る不透明感に加え、中銀の独立性を巡る問題など、外国人投資家からの信認低下に繋がる材料が山積している一方、当局の認識の『甘さ』が懸念される。インドネシア市場を巡っては、過度な期待の修正が必要になる可能性に要注意と言える。

注1 1月21日付レポート「インドネシア・ルピア最安値、中銀の独立性懸念で、利下げに二の足」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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