インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ブラジル中銀は3月会合での利下げ示唆も、「慎重さ」を強調

~インフレ鈍化、トランプ関税の「勝利」、EUとのFTA、利下げ観測は追い風も、政治状況には要注意~

西濵 徹

要旨
  • ブラジル中銀は、1月27~28日に開催した金融政策委員会(COPOM)で政策金利(Selicレート)を5会合連続で15.00%に据え置いた。これまで中銀はタカ派姿勢を維持してきたが、金融市場では、景気の減速懸念が高まっているうえ、インフレが鈍化していることを理由に、早晩利下げに動くとの観測が強まっている。直近のインフレ率は+4.26%と中銀目標の域内に収まるなか、中銀による物価の見方に注目が集まった。

  • 声明文では、国際金融市場の不透明感や地政学リスクを踏まえ慎重姿勢を強調しつつ、「物価が想定通り推移すれば次回会合での政策柔軟化が見込まれる」とし、利下げの可能性に言及するなどフォワードガイダンスを修正した。一方、政策運営を巡って「慎重さ」を強調する考えを繰り返しみせており、利下げのペースや規模は限定的になるとの考え方も示唆しており、市場との間で思惑を巡る差はくすぶるであろう。

  • インフレ率は目標レンジ内で鈍化する一方、コアインフレは依然として高水準にあり、中銀の物価認識が引き続き注目される。金融市場では、利下げ期待を背景に株価が上昇しており、トランプ関税の事実上の緩和やメルコスルとEUとのFTA署名も追い風となっている。また、米ドル安も追い風に通貨レアルも上昇している。ただし、今後は大統領選を巡る政治動向が市場の変動要因となる可能性には注意が必要である。

ブラジル中央銀行は、1月27~28日の日程で開催した定例の金融政策委員会(COPOM)において、政策金利(Selicレート)を5会合連続で15.00%に据え置くことを決定した。中銀は、2025年6月のCOPOMまで7会合連続で利上げを実施する金融引き締めを進める一方、翌7月のCOPOMにおいて利上げ局面の『休止』を決定した。とはいえ、中銀は2025年7月のCOPOMにおいては再利上げの可能性に言及するなど『タカ派』姿勢を堅持していた。しかし、その後のブラジル景気は減速傾向を強めるとともに、トランプ米政権が同国に対する関税を50%に引き上げるなど景気への悪影響が懸念されたことから、金融市場においては同行が早晩利下げに動くとの見方が広がった。金融市場がこうした見方を強めた背景には、中銀がタカ派姿勢を示す根拠となる高止まりするインフレを巡って、2025年半ばを境に鈍化したことが影響している。一方、中銀はその後のCOPOMにおいて追加利上げの可能性に言及しつつ、『非常に長期にわたって』政策金利を現行水準で維持する方針を示すなど、早期の利下げを織り込む金融市場をけん制してきた。なお、2025年12月のインフレ率は前年同月比+4.26%と前月(同+4.46%)から鈍化して2ヶ月連続で中銀目標(3±1.5%)の域内で推移するなど、落ち着きを取り戻す動きをみせる。ただし、コアインフレ率は前年同月比+5.17%と着実に鈍化するも、依然として目標の上限を上回る推移が続いている。よって、金融市場においては、中銀による物価の見方に注目が集まっている。

図表
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会合後に公表された声明文では、今回の決定も全会一致であったことを示したうえで、「米国の経済政策や経済見通しが国際金融市場を揺さぶり、不透明な状況が続くなか、地政学的な緊張の高まりも重なり、新興国には慎重な姿勢が求められる」との従来からの見方を示した。そして、同国経済について「想定通り減速している一方、労働市場は依然回復が続いている」との従来からの見方を維持する一方、「インフレ率は改善する一方、基調インフレは依然として目標を上回っている」とした。ただし、物価動向については「上下双方に振れるリスクが通常より高まっている」との従来からの考えを示す一方、金融政策を巡って「地政学リスクが物価に与える影響や、ルラ政権による財政政策が金融市場などに与える影響を注視しつつ、不確実性が高まる状況で慎重姿勢を強める」との考えをあらためて示した。ただし、過去には先行きの政策運営について、非常に長期にわたって現行姿勢を維持する方針を示してきたものの、「物価が想定通りの動きをみせれば、次回COPOMでの柔軟化の開始が見込まれる」と利下げの可能性に言及するなどフォワードガイダンスを大幅に修正した。一方、「(柔軟化には)慎重な姿勢が求められる」としたうえで「インフレ目標の実現には金融政策を引き締め姿勢に維持することを強調する」との見方を示した。これは、金融市場において中銀が早期に利下げに動くとの見方を強めていることを事実上是認したものと捉えられる一方、『慎重さ』を強調しており、そのペースと規模が小幅なものに留まることを示唆している。その上で、2026年のインフレ見通しを「+3.4%」と2025年12月時点(+3.5%)からわずかに下方修正するとともに、目標の域内で推移するとの見方を示している。

図表
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前述のように、このところの金融市場においては、中銀が早晩利下げに動くとの見方を織り込む形で主要株式指数(ボベスパ指数)は上昇基調を強めてきた。また、米国はブラジルに対する関税を50%に引き上げたものの、2025年11月に米国はブラジルからの輸入品の大部分に対する追加関税を免除する大統領令を発令しており、ブラジルはトランプ関税を巡って『実質的な勝利』を収めている。こうした動きに加え、インフレ鈍化の動きも追い風に、足元の企業マインドは改善の動きを強めるなど、景気を取り巻く環境は変化している。さらに、今月17日にブラジルが加わる南米南部共同市場(メルコスル)とEU(欧州連合)が自由貿易協定(FTA)に署名しており、トランプ米政権が圧力を強めるなかで経済的な結びつきを強める動きが前進したことも、主要株式指数の上昇を後押しして最高値を更新する一助になっている。今回のCOPOMにおいて中銀が利下げの可能性を示唆したことから、当面の株価にとって追い風となりやすい環境が続くと見込まれる。一方、足元の金融市場においては、トランプ米政権の政策運営に対する不透明感が米ドル資産からの逃避の動きを促すなか、通貨レアルの対ドル相場は上昇基調を強めている。ブラジルでは10月に大統領選の実施が予定されており、最新の世論調査では再選を目指す現職ルラ氏が優勢であるなど、左派政権が継続する可能性は高い。一方、足元の世論調査では、ボルソナロ前大統領の長男(フラビオ上院議員)がルラ氏を猛追する動きが確認されており、今後の動向は金融市場を揺さぶる可能性には引き続き注意が必要と捉えられる。

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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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