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2026.01.13
アジア経済
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インド、期待は高いが軟調な市場環境が続く背景を探る
~米国との関係を巡る不透明感、政策支援に早くも息切れの兆し、市場の思惑に左右される展開が続く~
西濵 徹
- 要旨
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- インドは人口で世界最大となるとともに、若年層の多さから中長期的な成長が期待されている。米中摩擦を背景とした全世界的なサプライチェーン再編の動きも追い風となり、中国に代わる世界的な生産拠点としての注目も高まっている。よって、中長期的な観点でインド経済の成長を期待する向きは強いと捉えられる。
- 成長期待は高いものの、足元の株価や通貨ルピーは軟調に推移している。その背景には、ロシア産原油の輸入拡大を理由とした米国の対印制裁関税(50%)をきっかけにした米国との関係を巡る不透明感がある。足元においても通商合意への道筋がみえない展開が続いており、投資家心理の重石となっている。
- モディ政権は関税の悪影響を和らげるべく、GSTの実質引き下げに動くとともに、RBIは利下げや資金供給策を矢継ぎ早に実施している。一時は内需や株価を押し上げる動きがみられたものの、足元では企業マインドの悪化や雇用の停滞が顕著となるなど、政策効果の「息切れ」が意識される動きもみられる。
- 市場ではさらなる利下げへの期待があるが、物価動向は複雑である。インフレ率は低水準で推移するが、コアインフレ率は加速しており、通貨ルピーも防衛ラインを割り込む安値圏にある。一段の緩和はさらなる通貨安と物価上昇を招く恐れがあるため、当面は市場の思惑が交錯する不安定な状況が続くであろう。
足元の金融市場においては、インドに対する評価が大きく割れる展開が続いている。インドは、一昨年に人口が中国を上回り世界最大となるとともに、人口に占める若年層比率が高く、中長期的に人口増加が続くと期待される。こうした状況に加え、米中摩擦が激化してきたなかで、世界的なサプライチェーンの見直しの動きも追い風に、インドを消費市場としてのみならず、中国に代わる生産拠点に据えるとの見方も広がりをみせている。したがって、中長期的な観点でインド経済の成長を期待する向きは強いと捉えられる。
こうした状況にもかかわらず、足元の主要株式指数(ムンバイSENSEX)は上値の重い展開が続いている。さらに、通貨ルピーの対ドル相場は先月に最安値を更新、その後は一時的に底入れするも、足元では再び軟調な動きをみせている。この背景には、米国が昨年8月、ウクライナ戦争以降にインドがロシア産原油の輸入を拡大させていることに対するペナルティーとして、同国に対する関税を50%(相互関税(25%)+2次関税(25%))に引き上げたことを機に、米国との関係を巡る不透明感が根強いことが影響しているとみられる。なお、両国は通商協議を継続しているほか、インド政府高官はたびたび両国の合意が近付いているとの見方を示してきたものの、足元においても合意に向けた道筋が描けない状況が続いている。

こうしたなか、モディ政権はトランプ関税による景気への悪影響を軽減すべく、昨年9月末からGST(財・サービス税)の実質引き下げに動いている。さらに、GST実質引き下げによりインフレが大きく鈍化したことを受けて、RBI(インド準備銀行)は昨年12月の定例会合で利下げに加え、金融市場の流動性拡大を目的に大規模な公開市場操作と為替スワップを実施する方針を決定しており(注1)。財政、金融政策の両面で景気下支えを図る姿勢を鮮明にしている。GSTの実質引き下げによるインフレ鈍化も追い風に、その後の自動車や二輪車の販売台数は大幅に押し上げられており、インド経済は個人消費など内需が成長のけん引役となってきた。RBIによる利下げ実施の直後には主要株式指数は上昇して2024年9月に付けた最高値を一時更新する動きをみせたものの、その後は上値の重い展開が続いている。財政、金融政策の総動員による景気下支えにもかかわらず、足元の企業マインドは製造業、サービス業ともに頭打ちの動きを強めており、受注動向が悪化するとともに、雇用拡大の動きも一服している。このように早くも政策効果の息切れが意識される兆しがみられることも、市場マインドの足かせとなっていると考えられる。

金融市場においては、GST実質引き下げによるインフレ鈍化を受けて、RBIが一段の金融緩和に動くとの見方が広がりをみせている。12月のインフレ率は前年同月比+1.33%と前月(同+0.71%)から2ヶ月連続で加速しているものの、引き続きRBIが定めるインフレ目標(4±2%)の下限を下回る推移をみせている。国際原油価格は調整する動きが続いているほか、ロシアからの割安な原油輸入も堅調に推移しているものの、ルピー安に伴う輸入物価の押し上げが影響してエネルギー価格は上昇する一方、穀物や生鮮品をはじめとする食料品価格は下落するなど落ち着きを取り戻しており、生活必需品を中心とする物価は比較的安定する動きをみせている。一方、食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率は前年同月比+4.63%と前月(同+4.34%)から加速しており、インフレ目標の域内で推移するも、その中央値を上回る伸びとなっている。なお、昨年9月末以降、RBIは1ドル=88.8ルピー近傍で積極的な為替介入を継続してきたため、この水準が防衛ラインと見做されてきたものの、足元ではこの水準を大きく上回るなどルピー安が進行している。こうしたなかでRBIが一段の金融緩和に動けば、ルピー安が一段と進行して物価を押し上げる可能性が高まる。当面のインド金融市場を巡っては、市場の思惑に左右される展開が続くことは避けられないであろう。

注1 2025年12月5日付レポート「インド準備銀はルピー安容認か、景気下支えへ利下げと流動性拡大」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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