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2026.01.08
日本経済
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家計負担9.7兆円の穴埋め策の検討
~家計支援は限界、望まれる賃上げ・利上げ~
熊野 英生
- 要旨
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家計の支援策を合計すると、約5兆円(4.7兆円)と見積もることができる。これに対して、2024年10月~2025年9月までに物価上昇によって目減りした家計の購買力は9.7兆円と試算できる。家計支援よりも、賃上げ・利上げによる可処分所得の増加の方が遙かにパワフルである。今後は、こちらに重心を置いた物価対策が望まれる。
実質減税は約5兆円
物価高は、家計にとって大きな苦痛を与えている。このままでは2026年も物価上昇トレンドは継続しそうである。ならば、政府は2026年度以降も、巨額の家計支援を継続するのであろうか。まず、筆者は、各種の家計支援では物価上昇によって生じた購買力の穴埋めをするには限界があることを示したい。
2025年度補正予算における「生活の安全保障・物価高への対応」8.9兆円のうち、実際に家計支援に回るのはどのくらいだろうか。高校無償化2,950億円、小学校給食無償化156億円、子供1人2万円給付3,667億円は合計6,773億円になる。ここに重点支援交付金2兆円が加わる。この交付金はすべて家計支援に回る訳ではなく、事業者支援もあり、自治体の応募によって決まる。内訳はわからないが、現時点の応募状況から考えて2兆円のうち11,300億円程度が「生活者支援」に回りそうだ。また、電気ガス代支援と、ガソリン軽油の暫定税率廃止措置も、家計向けと事業者向けがあり、試算すると家計向けは10,900億円になると見積もることができる。以上の合計で2.9兆円になる。
さらに、「年収の壁」対応で103万円の壁を160万円まで引き上げる措置(2025年~)が1.2兆円で、さらに与党と国民民主党との合意に基づき、160万円から178万円に上げる措置(2026年~)が6,500億円とされる。そうした所得税減税を加えると、合計4.75兆円の支援が見込まれる。ざっくり言えば、物価高対応で家計支援に回るのは約5兆円だという表現ができそうだ。
物価高の穴9.7兆円
家計が1年間に物価上昇によって失った購買力の実額はどのくらいだろうか。確からしい数字は、GDP統計のデフレーターから計算できる。家計最終消費支出の名目・実質額の差が、物価上昇のインパクトの実額になる。直近のGDP統計は2025年7-9月である。1年間の計算を2024年10月~2025年9月までで行うと、9.7兆円になる。過去数年間でみて、だいたい年10兆円程度の物価上昇の負担増が生じていることが、2022暦年以降でみてわかる(図表1)。

このように具体的に実額を計算してみると、高市政権が経済対策などを通じて積み上げた家計支援約5兆円(4.7兆円)は、物価上昇(9.7兆円)の約半分しか穴埋めできていないことがわかる。あれだけ財政出動したのに、まだ半分しか埋まっていないということが筆者の試算からはわかるだろう。家計支援の4.7兆円は、名目家計消費支出で割ると1.5%程度でしかない。家計消費デフレーターの伸び率3%程度の半分でしかないという言い方もできる。これは、財政・税制を通じた支援額がまだ少ないという意味ではなくて、財政・税制を通じた巨大な支援を政府が試みたところで、その手法では自ずと限界が大きいと理解すべきなのである。
家計所得の整理
筆者は、政府の家計支援よりも、賃上げ・利上げによる恩恵の方がずっと大きいと考えている。つまり、経済メカニズムを回して、勤労者への分配と金利正常化をすることがより大きな効果を生むと理解している。その意味で、岸田政権や石破政権の推進してきた「好循環メカニズムを後押しする」政策の方針は正しかったと理解している。高市政権も、同様の方針にもっと軸足を置いてほしいと思う。
さて、これも実額でそのインパクトを評価することが可能である。内閣府のGDP統計の中にある「家計可処分所得・家計貯蓄率四半期別速報」は、まだ2025年4-6月までしか発表されていないが、極めて有用な統計データである。直近1年間(2024年7月~2025年6月)までの家計可処分所得は、年間+13.9兆円の増加になっている(物価上昇分を上回っている)。このうち、雇用者報酬の増加は+13.8兆円(伸び率4.5%)、財産所得+8.1兆円(伸び率26.8%)、自営業などの営業所得+0.0兆円、そのほか社会保障・税給付の純増+8.1兆円があった(図表2)。この数字からは、家計所得を増やすために大きいのは雇用者報酬であることがわかる。2024年の雇用者報酬は、実額で313.5兆円もあるから、それが3%以上伸びれば、それだけで家計の物価負担約10兆円は吸収可能になる。2024年3月に日銀がマイナス金利を解除したので、家計の金利収入は2024年から大きく伸び始めている。過去1年間で+5.1兆円も伸びている。2025年9月末の家計金融資産残高は2,286兆円もある。例えば、預金金利が+0.25%上昇すれば、預貯金残高1,021兆円に対して単純計算で2.55兆円の財産所得の増加が見込まれる。物価の負担を相殺するには、0.95%の預金金利の増加があればよいという計算になる。与野党の政策提言では、もう少し財政依存一辺倒を改めて、以前のように経済の好循環を回すという発想を重視してはいかがだろうか。

熊野 英生
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

