高市新政権と社会保障改革

~「高圧経済政策」との親和性を考える~

星野 卓也

要旨
  • 高市新内閣が日本維新の会との連立政権として発足し、社会保障改革が加速する可能性が高まっている。両党は現役世代重視という点で一致。高市氏の高圧経済政策は労働集約的な医療・介護分野からの人材流出を招く側面があり、社会保障効率化は求められることになる。従来の家計向け給付政策の否定、高市氏のインフレ容認の姿勢も相まって、「高齢者から現役世代へ」の色彩が強まる可能性。
目次

社会保障改革重視の日本維新の会との連立政権に

21日の首班指名で高市早苗氏が首相に選出され、高市新政権が発足した。既報の通り、公明党が連立を離脱、日本維新の会が連立政権に加わる形での新政権発足だ。高市氏の経済政策スタンスなどについては、「高市新総裁の経済政策はどうなるか?」(2025.10.6)を参照いただきたい。ここでも指摘しているように、マクロ経済政策については財政金融ハト派の高市氏だが、直近の経済・物価の環境や党内融和等の観点から、財政政策や金融政策を大きく吹かすような形にはならないとみている。財政規律を一定程度重視する日本維新の会の連立加入によって、その確度は高まったとみられる。

本稿で指摘したいのは、今回の日本維新の会との連立政権発足によって社会保障改革は加速する可能性が相応に高まっているのではないか、という点である。社会保障改革は、従来から日本維新の会が重点施策として掲げていたテーマだ。今回の連立政権発足にあたっての合意書においても、具体的な記述が数多くなされている(資料1)。2025年度中の骨子合意、2026年度の具体的制度設計・実施が明記されており、今後骨子合意に向けて協議が進むことが見込まれる。“社会保障全体の改革を推進することで、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくことを目指す”とも明記され、社会保障の縮小とそれに対応して社会保険料率の上昇抑制、引き下げが企図されていることがわかる。

図表1
図表1

公定価格引き上げはあくまでインフレ調整

高市氏の政策軸の一つが現役世代・勤労者世帯の重視である。高市氏が自民党総裁選で掲げ、今後議論も進むとみられる「給付付き税額控除」は、従来の低所得者(住民税非課税世帯、多くが年金世帯)向け給付ではカバーできない現役中間層家計への家計支援を手厚くする狙いがあると考えられる。「現役世代重視」のスタンスは高齢者向け社会保障給付の効率化と現役世代負担の軽減を掲げる日本維新の会のスタンスとの共通部分である。

なお、高市氏は先の自民党総裁選で診療報酬・介護報酬など公定価格の引き上げを訴えていた。一見すると社会保障給付を増やす公定価格の引き上げと維新の社会保障削減の方針は相反するようにみえるが、高市氏が訴えているのはあくまで公定価格のインフレに伴う調整である。石破前内閣で6月に閣議決定した骨太方針でも、このインフレ調整の枠組みを取り入れること自体は盛り込まれていたほか、自民党総裁選ではほかの候補も同様の改正を掲げていた。イギリスのNHSやドイツの病院診療報酬制度など、海外の報酬制度は一定のインフレ調整の枠組みを有している。日本の公定価格はインフレに対応させる仕組みにはなっておらず、都度政治的な交渉によって定まる。日本経済にインフレが定着しつつある中での制度対応と位置付けられよう。

足元、政府の社会保障基金(健康保険、介護保険、年金保険等の会計を統合したもの)の財政は明確に改善している(資料2)が、これは制度のインフレ調整が不在である結果とみられる。つまり、社会保険料は給与(標準報酬)に対して定率であり、マクロ賃金の上昇で増加する一方、対応する医療や介護の給付(医療・介護従事者の賃金に直結)は公定価格の引き上げがないと増えない(年金は賃金物価スライドがあるので給付が自動的に増える部分がある)。そのギャップが収支の黒字拡大に繋がっているものと考えられる。

図表2
図表2

「高圧経済」の実現には社会保障提供体制の効率化が必要になる

改めて指摘したいのは、社会保障基金の黒字が拡大しても社会保障の問題が何ら解決していないことからも明らかなように、社会保障制度は“財政が改善すればOK”ではないということである。本質的な問題はカネではなくヒトにある。「お金が足りなくて財政が破綻するから大変」なのではなく、「人手不足で必要な社会保障サービスが提供できなくなるから大変」なのである。

そして、高市氏のマクロ経済政策路線は基本的に需要超過経済を続ける高圧経済だ。高圧経済政策は労働需給の逼迫状態を継続させることを通じて、高生産性・賃金の企業・産業・職種への労働移動を促すことが企図されている。ただし、この政策の方向性は労働集約的で相対的に生産性の低い医療・介護産業からの人材流出を促す側面も有している。社会保障サービスは社会インフラであり、「生産性が低いから」という理由で淘汰されてよい産業でないことは明らかであろう。社会保障給付のスリム化によって、医療需要の過剰部分を抑制すること、社会保障の提供体制を効率化してリソースを必要性の高い分野に重点配分することはこの観点でも必要になってくる。

以上のように、現役世代と経済成長を重視する高市首相と社会保障削減とそれに伴う社会保険料の引き下げを掲げる日本維新の会が連立を組んだことは、実は多くの点で親和性があり、社会保障改革が加速する可能性が高まっていると考える。これらの施策は、従来型の住民税非課税世帯向け給付(多くは年金世帯)の否定や、高市氏のインフレ容認の姿勢も加わり、高齢者世帯に厳しい形になりそうだとも言えそうだ(高齢者世帯は金融資産を多く保有する一方で、老後資産の安定の観点でリスク性資産へのエクスポージャーを高めにくく、インフレによる金融資産の目減りの影響が大きくなりやすい)。「高齢者から現役世代へ」は今回の連立政権発足によって大きく変わり得る政策軸の一つである。

以上

星野 卓也


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ