インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

米中摩擦で中国は強気姿勢を維持も、その足元ではデフレが続く

~中国は強硬姿勢を崩さず、米中摩擦が第三国に飛び火する新たな問題も顕在化しつつある~

西濵 徹

要旨
  • トランプ米政権の関税政策を機に激化した米中摩擦は、その後の協議を経て報復関税の撤廃や関税の上乗せ分や輸出規制の一時停止に至り、今月末の首脳会談実施に向けて関係改善の兆しもみられた。
  • しかし、中国がレアアースの輸出管理強化を発表した直後、トランプ氏は中国からの輸入品に100%の追加関税を課す方針を示し、米中摩擦が再燃する懸念が高まっている。両国は実務者レベルの協議で意思疎通を維持しており、トランプ氏が過去にも強硬姿勢と融和姿勢を繰り返してきたため、慎重な見極めが必要である。その一方、中国は強硬姿勢を維持しており、事態を楽観視することは難しい状況にある。
  • 一方、中国経済は不動産不況と若年層の雇用回復の遅れを理由に個人消費が低迷している。また、過剰生産能力による企業間の過当競争(内巻)も深刻化し、需要の弱さと相俟って根強いディスインフレ圧力を生んでいる。9月のインフレ率は前年比▲0.3%、生産者物価も調達価格が同▲3.1%、出荷価格が同▲2.3%といずれもマイナスで推移しており、足元においては当局による内巻対策の効果はまだみえない。
  • さらに、中国当局が韓国の造船大手の子会社を制裁対象とした報復措置は、米中摩擦が第三国を巻き込む段階に発展する可能性を示唆している。米中双方で事業を展開する企業にとっては、経済安全保障およびビジネスリスクの観点から、両国の今後の対応を注視する必要性が高まっている。

米中関係は、トランプ米政権による関税政策をきっかけに、一時は米中双方が互いに高関税を課し合う貿易戦争に発展した。しかし、その後の直接協議を経て米中は報復関税を撤廃するとともに、関税の上乗せ分や輸出規制を一時停止することで合意した。さらに、その後の直接協議で停止期限が延長され、今月末に韓国で開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議に併せて両首脳による直接会談が行われる見通しが示されるなど、関係改善に向けた糸口を探る動きがみられた。一方で、11月10日に延長期限が迫るなか、懸案事項である関税や輸出規制に関する協議は進展せず、その行方が懸念されてきた。こうしたなか、今月9日に中国政府がレアアースの輸出管理に関する強化策を発表したことを受け、直後にトランプ氏も中国への追加関税を大幅に引き上げる方針を表明し、米中摩擦の再燃が懸念されている。トランプ氏は11月1日付で中国からの輸入品に100%の追加関税を課すとともに、航空機や航空機部品に対する新たな輸出規制を課す可能性を警告した。

ただし、13日に米中は実務者レベルの協議を行うなど、緊張感が高まるなかでも両国は意思疎通を維持している。また、米国側の窓口を務めるベッセント財務長官は今月末の米中首脳会談の実施に楽観的な見方を示すとともに、トランプ氏も自身の発信を機に金融市場に動揺が広がったことを受けて事態の沈静化を図る姿勢もうかがえる。そして、ワシントンDCで開催中の世界銀行とIMF(国際通貨基金)の年次総会のタイミングに併せて米中は実務レベル協議を実施している模様であり、首脳会談に向けた調整を行っているとみられる。他方、その後もトランプ米政権内からグリアUSTR(米通商代表部)代表が追加関税の発動の有無は中国の行動次第との認識を示すとともに、トランプ氏も食用油などの中国との取引停止を検討する旨を明らかにしている。過去にもトランプ氏はTALO(攻撃)とTACO(尻込み)を繰り返して金融市場を翻弄してきたことに鑑みれば、こうした動きに一喜一憂するのではなく、慎重に見定める必要性が高いと捉えられる(注1)。とはいえ、中国は一貫して米国に対して一歩も引かない姿勢を維持しており、事態を楽観視することには注意が必要である。

中国は米国に対して強硬姿勢を崩さない一方、中国国内ではここ数年の不動産不況に加え、コロナ禍以降における若年層を中心とする雇用回復の遅れも重なり、個人消費の足かせとなる展開が続いている。こうした事態を打開すべく、中国当局は昨年後半以降、財政および金融政策を転換して補助金や減税などを通じた需要喚起に動いており、対象の財で需要が押し上げられる動きがみられた。その一方、中国国内では過剰生産能力による供給過剰を背景に、企業は過当競争による価格競争が企業収益の悪化を招く『内巻(ネイジュアン)』が社会問題化しており、需要の弱さも相俟ってディスインフレ圧力が強まる展開が続いている。中国当局は内巻問題に対応すべく、過剰生産能力の是正と無秩序な価格競争の抑制に向けた取り締まり強化の方針を打ち出しているが、成否は依然として不透明である。事実、9月の消費者物価は前年同月比▲0.3%と前月(同▲0.4%)から2ヶ月連続のマイナスで推移している。前月比は+0.1%と前月(同±0.0%)から上昇しているものの、国際原油価格の調整を受けてエネルギー価格に下押し圧力が掛かる一方、生鮮品など食料品価格は上昇の動きを強めるなど、生活必需品を中心とする物価上昇が影響している可能性がある。食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率は前年同月比+1.0%と前月(同+0.9%)からわずかに加速して19ヶ月ぶりの伸びとなっているが、前月比は±0.0%と前月(同±0.0%)から2ヶ月連続の横這いで推移している。幅広くサービス物価に下押し圧力が掛かる動きがみられるなど、インフレ圧力が後退している様子がうかがえる。

図表
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さらに、川上の段階に当たる生産者物価は長期にわたってマイナスで推移しており、根強いディスインフレ圧力を招く一因となっている。9月の生産者物価(出荷価格)は前年同月比▲2.3%とマイナスが続くも、前月(同▲2.9%)からマイナス幅は縮小している。ただし、前月比は+0.0%と前月(同+0.0%)から2ヶ月連続の横這いで推移しており、消費者段階にかけて物価上昇圧力が高まる状況とはなっていない。この背景には、企業が直面する9月の生産者物価(調達価格)が前年同月比▲3.1%と前月(同▲4.0%)からマイナス幅は縮小するも、大幅マイナスが続いていることが影響している。なお、前月比は+0.1%と前月(同+0.0%)から15ヶ月ぶりの上昇に転じており、非鉄金属関連など素材・部材関連で物価が上昇する動きがみられる。こうした動きを反映して、出荷価格時点においても中間財で物価が上昇しているものの、消費財については耐久消費財を中心に物価が下落する傾向がみられる。よって、上述のように中国当局は内巻問題への対応を強化させているものの、足元においてはその効果は依然として現れていないと捉えられる。今後は中国政府が主導する内巻対策が財価格の下押し圧力を後退させる可能性はあるものの、雇用回復の遅れや不動産市況の低迷による逆資産効果が長期化するなかでディスインフレ圧力が弱まるかは見通しにくい。

図表
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また、米中摩擦の火種がくすぶる背後では、中国当局がトランプ米政権による貿易政策を支持する外国勢力に対する報復措置として、韓国の造船大手ハンファオーシャンの米国子会社5社を制裁対象に指定することを明らかにした。米国政府は通商法301条に基づく形で中国の造船業に対して不公正な貿易慣行の有無を調査しているが、中国当局は5社が調査に協力していることを理由に制裁対象としたとしている。なお、米国は各国との通商協議において、その合意では各国が米国への大規模投資を実施するといった内容を盛り込まれており、日本との合意においても5,500億ドルの対米投資を行うとされている。しかし、今回の中国当局による制裁実施はそうした動きへの『けん制』の意味あいがあるとともに、米中摩擦がいよいよ第三国を巻き込む形に発展する可能性が高まっていることを意味する。米中双方で事業を展開する企業にとっては、今後は米中双方がどのような対応を取るか、経済安全保障上の観点に加え、ビジネスリスクの観点からもこれまで以上に注視する必要性が高まっている。金融市場においても、資金そのものに色を付けることは困難ではあるものの、参加者の動きに何らかの影響を与える可能性も考えられるなど、その動向に留意する必要がある。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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