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2026.08.17
アジア経済
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中国内需の弱さを再確認、景気は政策主導の様相を強める
~外需はハイテク関連がけん引役となる一方、内需は総じて力強さを欠く厳しい展開~
西濵 徹
- 要旨
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中国経済は供給サイド主導の拡大が続く一方、内需は力強さを欠く。不動産市況は大都市で持ち直しの兆しがある一方、地方都市では底打ちが見えず、雇用回復の遅れも内需の重荷となっている。一方で、輸出はハイテク関連を中心に米欧・新興国向けともに好調で、原油高を背景とした再生エネルギー・EV需要の高まりと国内の供給過剰が輸出依存を強めている。中銀による金融緩和観測が浮上する一方、原油高で4-6月期は3年ぶりに名目成長率が実質を上回るなどインフレ圧力が強まり、緩和のハードル上昇と人民元高が意識される。人民元高は輸出競争力を損なう懸念があり、当局による相場けん制の可能性に注意が必要である。
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7月の小売売上高は前年比+0.6%と伸びが鈍化し、前月比も勢いを欠いた。EC販売は堅調に推移する一方、実店舗は前年割れが続き、節約志向を映したカニバリゼーションが進行する。建材・家具・自動車・家電・宝飾品・娯楽関連など幅広い品目で前年を下回り、食料品など生活必需品のみ底堅い。価格競争激化がディスインフレ圧力を招いている可能性もある。
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新築住宅価格は下落幅がわずかに縮小したが下落基調は継続、大都市と地方都市の格差は拡大している。不動産投資は年初来前年比▲19.2%と過去最大のマイナス幅を更新した。固定資産投資全体も年初来前年比▲6.7%と2020年4月以来のマイナス幅となり、規模はコロナ禍時を下回ると試算される。民間投資・国有企業投資ともにマイナス幅が拡大する一方、新質生産力関連の設備投資は堅調であり、建設関連との明暗が分かれている。
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鉱工業生産は前年比+4.5%と伸びが鈍化しつつも拡大基調を維持し、内需の弱さと対照的に供給主導の構図が続く。ハイテク製造業(+16.9%)、集積回路(+20.7%)、産業用ロボット(+30.2%)などがけん引する一方、自動車・マイコン・携帯電話は減少幅を拡大している。不動産低迷や過剰生産能力の圧縮も重なり、粗鋼・鋼材・セメントも前年割れが続く。
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コスト転嫁が難しい逆ざや懸念に加え、金融緩和のハードルの高さ、業績改善の見通しづらさから中国株は上値が重い展開が続いた。7月末の中央政治局会議では、公共投資推進が示され、関連分野には相場下支えが期待される一方、分野間のばらつきに注意が必要である。
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- 目次
【足元の中国景気は外需への依存を強める展開が続いている】
足元の中国経済を巡っては、引き続き供給サイドをけん引役にした拡大の動きが続く一方、需要サイドは力強さを欠いている。中国当局は、3月に開催した全人代において、より積極的な財政政策とやや緩和的な金融政策を継続し、内需喚起や新興産業の育成、対外開放を拡大する方針を示した。こうした政策運営を追い風に、足元では一部の大都市で不動産市況に持ち直しの兆しが出ている。一方で、地方都市では不動産不況に底打ちの兆しがみえず、地域ごとのばらつきが鮮明になっている。さらに、若年層を中心とする雇用回復の遅れは、個人消費や不動産投資など幅広く内需の足かせとなっている。
こうしたなか、足元でも外需はハイテク関連を中心に高い伸びが続いている。国・地域別でも、米中摩擦の激化を受けて活発化してきた中南米やアフリカ、アジアといった新興国向けで高い伸びが続いている。さらに、米国向けにも持ち直しの動きがみられるとともに、欧州向けも高い伸びで推移するなど、すべての国・地域向けの輸出が活発な動きをみせている。背景には、イラン情勢の悪化を受けた原油などエネルギー価格の高止まりを受け、世界的に太陽光や風力など再生エネルギーのほか、EV(電気自動車)の需要が高まり、これらの世界シェアが高い中国製品に対する需要が高まっていることがある。さらに、中国国内における苛烈な価格競争も追い風に供給過剰状態が続いており、需要を国外に求めざるを得ない状況に直面していることも影響している。
金融市場では、景気の不透明感を理由に中国人民銀行(中銀)が金融緩和に動くとの観測が出た。7月には、李強首相が専門家や企業経営者との会合の場において「経済情勢を包括的、かつ客観的に捉え、成果を十分に認識すると同時に、問題点を冷静に見極めることが重要」と述べたと報道された。景気循環に対応するためのカウンターシクリカル(反循環的)な調整を強化するとともに、既存の政策を十分かつ効果的に活用し、経済の勢いを確固たるものにすべく、追加措置を事前に検討・準備すべきと述べたとされる。こうした動きに加え、様々な重要会議において需要喚起の重要さが示されたことも、金融緩和観測を後押ししたと考えられる。
一方で、イラン情勢の悪化による原油高を受けて、4-6月のGDP統計では3年ぶりに名目成長率が実質成長率を上回り、デフレーターがプラスとなるなどインフレ圧力が強まっていることが確認された。このため、インフレをさらに助長する金融緩和のハードルは高まっており、足元の人民元高を後押ししている可能性がある(図1)。ただし、内需が総じて力強さを欠くなかで足元の景気は外需への依存を強めており、人民元高は輸出競争力の低下を通じて外需の足を引っ張ることが懸念される。このため、先行きは中銀が一方向的な人民元相場の動きに対してけん制をかける動きが出る可能性には注意が必要である。

【家計部門の節約志向を反映して小売売上高は過去1年横ばいで推移】
個人消費の動向を示す7月の小売売上高は前年同月比+0.6%となり、前月(同+1.0%)から伸びが鈍化した。前月比は+0.06%と2ヵ月連続で拡大するも、前月(同+0.35%)からそのペースは鈍化するなど勢いを欠く推移が続いている(図2)。過去1年分の季節調整値についても、ほぼ横ばいで推移している様子がうかがえるなど、力強さを欠く状況が続いている。近年のインターネットの爆発的な普及を追い風に、小売売上全体に占めるインターネットを通じたEC(電子商取引)の割合は拡大している。前月に大規模セール(618商戦)が実施された反動の影響が懸念されたものの、オンライン販売は年初来前年比+4.8%と小売全体(同+1.2%)を上回る伸びで推移している。一方で、専門店や百貨店といったリアルな店舗では軒並み前年を下回る伸びで推移しており、家計部門が節約志向を強めていることを反映して、カニバリゼーション(共喰い)の動きが強まっている。

財別では、不動産に対する需要低迷が続くなかで建材(前年比▲14.2%)や家具(同▲8.8%)の需要は落ち込んでいる。耐久消費財に対する需要が弱いことに加え、当局による需要喚起策の効果一巡も重なり、自動車(前年比▲17.0%)や家電(同▲1.9%)は軒並み前年を下回っている。さらに、若年層を中心とする雇用不安が家計の節約志向を強めるなかで宝飾品(前年比▲10.1%)や娯楽関連(同▲10.6%)に対する需要も前年を大きく下回っている。食料品など生活必需品のほか、日用品に対する需要は底堅い動きをみせているが、この動きはオンライン取引が常態化していることが影響している可能性がある。とはいえ、家計部門の節約志向が一段と強まるなかでオンライン取引における価格競争は激化しており、結果的にディスインフレ圧力を脱することができない一因となっている可能性がある。このように、個人消費を巡る動きは引き続き厳しい状況にある。
【足元の固定資産投資の水準はコロナ禍を下回ると試算される状況に】
当局による政策支援も追い風に、7月の主要70都市の新築住宅価格は前年比▲3.2%と前月(同▲3.3%)からわずかにマイナス幅が縮小した。過去数ヵ月は一部の大都市で不動産市況に持ち直しの動きがみられたものの、7月は前月比▲0.2%と下落基調が続いており、回復の兆しはほとんどみられない状況にある。前月比が下落した都市数は47都市と前月(49都市)からわずかに減少しており、1線都市で持ち直しの動きがみられるものの、2線都市や3線都市、4線都市など地方都市は底がみえない状況にある。中古住宅価格も同様の動きをみせており、当局による政策支援にもかかわらず、大都市と地方の中小都市との格差が一段と広がりをみせている。
7月の不動産投資も年初来前年比▲19.2%と前月(同▲18.0%)からマイナス幅が拡大しており、過去最もマイナス幅が大きくなった。当研究所が試算した単月ベースの前年同月比の伸びは▲23.9%と前月(同▲23.6%)からマイナス幅が拡大しており、歴史的低水準で推移する展開が続いている。分野別でも、住宅、オフィス、商業用不動産のいずれも低迷しているほか、建設から販売にかけてすべての段階で大幅なマイナスとなっている。地域別では、東北地区で大幅に減少しているほか、それ以外の地域でも低迷が続いており、地方都市による支援拡充の動きにもかかわらず資金流入も細るなど、底のみえない状況が続いている。
設備投資などをあわせた7月の固定資産投資も年初来前年比▲6.7%と4ヵ月連続のマイナスとなるとともに、2020年4月以来のマイナス幅となっている。当研究所が試算した単月ベースの前年同月比の伸びも、7月は▲13.2%と前月(同▲9.0%)からマイナス幅が拡大しており、コロナ禍の影響が最も深刻に現われた2020年2月以来のマイナス幅となっている。前月比も▲1.42%と6ヵ月連続で減少しており、底がみえない展開が続いている。固定資産投資の規模もコロナ禍の頃を下回っていると試算されるなど、足元の状況は極めて厳しいと捉えられる(図3)。

実施主体別では、民間投資(年初来前年比▲9.4%)のみならず、国有企業(同▲3.3%)もマイナスとなり、ともにマイナス幅が拡大するなど、実施主体を問わず投資に下押し圧力がかかっている。対象別では、習近平指導部が主導する新質生産力や国内生産の強化に向けた取り組みを反映して、設備投資関連(年初来前年比+9.0%)は堅調に推移する一方、建設関連(同▲10.9%)は低迷するなど対照的であり、政策運営が投資活動を左右する展開が続いている。
【ハイテク製造業など政策支援の対象分野を中心に生産拡大が続いている】
足元の中国の需要は、外需への依存を強める展開が続いている。こうしたなか、供給動向を示す7月の鉱工業生産は前年同月比+4.5%と前月(同+5.3%)から鈍化して2ヵ月ぶりの低い伸びとなった。前月比は+0.11%と前月(同+0.76%)からペースは鈍化しているものの、引き続き拡大傾向で推移するなど供給サイドが景気のけん引役となる状況は変わっていない(図4)。前述のように、個人消費や固定資産投資といった内需は力強さを欠いているものの、生産は拡大が続くなど中国国内における需給を巡る不均衡状態は深刻化している可能性がある。こうした中国国内の余剰生産を解消する観点でも、足元の景気は外需に依存せざるを得なくなっている。
分野別では、製造業(前年比+5.5%)の生産は引き続き堅調に推移している。なかでもハイテク製造業(前年比+16.9%)は伸びが加速しており、外需の堅調さをけん引役に生産活動が活発化する展開が続いている。また、エルニーニョ現象の発生による異常気象がエネルギー需要を押し上げていることを反映して、エネルギー関連(前年比+5.0%)も底堅い動きをみせている。こうした状況にもかかわらず、鉱業(前年比▲4.2%)は対照的に減少基調で推移しており、資源調達の多様化が進んでいることを反映して生産に下押し圧力がかかっている可能性がある。

財別では、習近平指導部が主導する新質生産力のほか、サプライチェーンの自立自強への取り組みを反映して集積回路(前年比+20.7%)や産業用ロボット(同+30.2%)では伸びが加速するなど旺盛な推移が続いている。さらに、サービス業でも省力化の動きが広がりをみせていることを反映して、サービスロボット(前年比+5.7%)も底堅く推移するなど、中国においてもロボティクスが浸透している。一方で、需要喚起策の効果一巡を反映して、自動車(前年比▲0.1%)のほか、マイコン(同▲23.0%)、携帯電話(同▲16.7%)は軒並み減少しており、マイナス幅も拡大している。不動産市況の低迷が続くなかで粗鋼(前年比▲3.6%)や銑鉄(同▲4.5%)、鋼材(同▲4.1%)はいずれもマイナスとなるとともに、板ガラス(同▲3.6%)やセメント(同▲11.6%)も前年を下回るなど、中国国内における過剰生産能力の縮小に向けた取り組みも生産の足かせとなっている。原油高の長期化を受けて当局は石油製品の国内供給を優先するなか、在庫が積み上がっていることを受けて精製マージンが低迷しており、石油精製量は前年比▲15.8%と低迷している。一方で、原油高を受けて世界的に再生可能エネルギーの需要が高まっていることを反映して、太陽光電池(前年比▲9.4%)は引き続き前年を下回るものの、持ち直しの兆しがうかがえる分野もある。
【中国本土株を巡る環境はどうなる】
金融市場では、商品市況の上昇により、企業部門を中心にインフレ圧力に直面しているにもかかわらず、原材料価格の上昇の製品価格への転嫁が難しく、逆ざや状態が続くという懸念が意識され、中国本土株は上値の重い展開が続いた(図5)。原油高の一服を受けて、川上段階では物価上昇圧力の後退が期待される動きがみられたものの、イラン情勢は不透明な状況が続いており、原油価格も高止まりしている。加えて、金融緩和のハードルは高まっているうえ、業績の大幅な改善も見通しにくいなかで上値の重い展開が続く可能性は残る。7月末の中央政治局会議では、国家プロジェクトである六張網(電力、水利、通信、コンピューティング、物流、地下配管)の「着実な推進」を表明するなど、公共投資の進捗促進を図る方針が示された。このため、こうした政策に関連する分野は相場を下支えする可能性はあるものの、分野ごとのばらつきが大きくなることには注意が必要である。

西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

