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2025.10.08
アジア経済
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タイ中銀・ウィタイ新総裁の初会合は様子見、利下げ効果を見極め
~政府の圧力が懸念される一方、追加利下げ余地も限られるなかで難しい対応が続くであろう~
西濵 徹
- 要旨
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タイ中銀は8日の会合で政策金利を1.50%に据え置いた。物価は6ヶ月連続でマイナスとなるなどディスインフレが続き、内需も弱いが、8月の前回会合での利下げの効果を見極める姿勢をみせた。トランプ関税や隣国カンボジアとの国境封鎖で外需も不透明な上、ドル安に伴うバーツ高も輸出の重石となっている。
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政局面ではペートンタン前首相の失職を経て、先月にアヌティン氏が新首相に就任したが、来年初めの議会解散・総選挙を前提にした暫定的な体制であり、政治の先行きは不透明である。政府は景気刺激のために年末まで一部の消費支出を最大60%補助する制度を導入し、成長率を下支えする姿勢をみせている。
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今月就任したウィタイ総裁の下での初会合は、「5(据え置き)対2(利下げ)」と意見が分かれた。声明では、財輸出は関税の影響を受けるも、観光や内需の回復を見込むほか、物価は低水準に留まるもデフレ懸念は小さいと指摘した。中銀は緩和スタンスを維持しつつ、必要に応じて政策調整を行う姿勢をみせる。今後は政府からの圧力が懸念される一方、政策余地の小ささを勘案すれば、難しい対応が続くと見込まれる。
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タイ銀行(中央銀行)は、8日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利を1.50%に据え置くことを決定した。タイではここ数年、インフレ率が中銀目標(2±1%)の範囲やこれを下回る伸びで推移しており、直近9月も前年同月比▲0.72%と6ヶ月連続のマイナスとなるなど、ディスインフレ基調が続いている。中銀は昨年10月にコロナ禍一巡後初の利下げに踏み切って以降、計4回、累計100bpの利下げを実施するなど金融緩和を進めてきた。しかし、内需は力強さを欠いており、足元のインフレ率はマイナスで推移している。さらに、トランプ関税に加え、隣国カンボジアとの関係悪化により国境封鎖が続いており、外需を取り巻く環境にも不透明さがくすぶる。また、金融市場ではトランプ米政権の政策運営の不確実性に加え、FRB(米連邦準備制度理事会)による利下げ実施も重なる形でドル安が意識されやすい環境にある。よって、タイの政局は不安定な状況が続いているにもかかわらず、ドル安を追い風に通貨バーツ相場は高止まりしており、外需の足かせとなる懸念も高まっている。したがって、金融市場においては中銀が景気下支えやバーツ高対策の観点から追加利下げを迫られるとの見方が出ていたものの、8月の前回会合での利下げによる効果を見定める姿勢をみせたと捉えられる。

タイでは8月、憲法裁判所が倫理違反を理由にペートンタン元首相の解職を命じる判決を下して失職したことを受けて、タクシン派のタイ貢献党所属のスリヤ氏とプンタン氏が首相代行を務めるも、政治空白状態が続いた。その後、一昨年の総選挙で第3党となったタイの誇り党のアヌティン党首が先月の首班指名選挙で新首相に選出され、タクシン派は約2年で下野することとなり、政局の混乱は一巡した。ただし、アヌティン氏の首相就任に当たっては、第1党の国民党(旧前進党)が政権発足後4ヶ月以内の議会解散と総選挙実施を前提に、同氏の支持を決定した経緯がある。こうしたことから、アヌティン氏は首相就任後に来年1月末までの議会解散、3月ないし4月上旬に総選挙を実施する方針を示しており、政局の行方は不透明な状況にある。

タイ経済はASEAN(東南アジア諸国連合)諸国のなかでも構造面で外需依存度が相対的に高く、トランプ政権による悪影響が懸念されたものの、最終的に税率は19%とASEAN主要国と同水準に留まった。しかし、金融市場ではバーツの対ドル相場が高止まりしており、輸出の価格競争力が懸念されている。タイ経済はASEAN主要国のなかでコロナ禍からの景気回復が最も遅れており、アヌティン政権にとっては総選挙後の政権継続に向けて、早期の景気回復が急務となっている(注1)。こうしたなか、政府は今月末から年末までを対象に、一部の食料品や消費財の購入費を最大60%補助する共同支払い制度を実施することを明らかにしている。政府は支援対象を約2000万人(全国民の約3割)とし、同制度は中小企業の支援や税制強化にも資する一方、事業費(440億バーツ(GDP比0.23%))の原資確保に向けた債務拡大の必要はないとしている。その上で、今年通年の経済成長率は+2.2%を上回ると昨年(+2.5%)並みとすることを目指すとしている。
なお、中銀では今月1日付でウィタイ新総裁が就任したが(注2)、同氏は中銀の独立性を維持しつつ、政府と協力して経済が直面する課題に取り組む方針を示すなど、難しい対応を迫られる状況に直面している。こうしたなか、会合後に公表された声明文では、今回の決定は「5(据え置き)対2(25bpの利下げ)」と政策委員の間で評決が割れたことを明らかにしている。その上で、景気動向について「今年(+2.2%)と来年(+1.6%)は想定通りの拡大が見込まれる」とした上で、「財輸出は米国の関税政策の影響を受け始めているが、観光や内需は徐々に回復が見込まれる」としている。また、物価動向は「食料品やエネルギー価格の下落を理由に想定を下回り、今年(+0.0%)と来年(+0.5%)に留まる」としつつ、「価格が広範囲に下落する兆候はなく、デフレのリスクは低い」との見方を示している。その上で、金融政策について「景気回復を支えるべく緩和的であるべき」との見方を示しつつ、「過去の利下げによる効果が続いている」とした上で、「限られた政策余地を踏まえて5人の政策委員が現状維持に賛成した」とする一方、「2名の政策委員が流動性を下支えし、中小企業の支援や家計債務の負担軽減へ一段と緩和的であるべきと判断した」としている。なお、足元の金融市場について「市場金利は利下げに歩を合わせる形で低下している」としつつ、「全体としての信用の伸びは縮小している」ほか、「バーツ高が一部の輸出業者に影響を与えている」として「的を絞った金融措置を行う用意がある」との考えを示している。その上で、先行きの金融政策について「経済を支えるべく緩和的であるべき」とした上で「マクロ金融の動向とリスクを注視しつつ、景気と物価見通しに対応して政策スタンスを調整する用意がある」との考えを示している。ウィタイ新体制の下での初会合は『様子見』姿勢を維持したものの、先行きは政府からの圧力が強まると予想されるほか、利下げ余地が周辺国に比べて限られるなかで難しい対応を迫られる局面が続くであろう。

注1 9月17日付レポート「タイ新政権、発足早々から景気刺激とバーツ高対応など難題に直面」
注2 7月23日付レポート「タイ中銀次期総裁はウィタイ氏に、政府と中銀の関係改善進むか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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