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2025.09.17
アジア経済
タイ経済
為替
タイ新政権、発足早々から景気刺激とバーツ高対応など難題に直面
~4ヶ月以内の解散総選挙という時間制約のなか、その成否は選挙後の政権の行方に影響する~
西濵 徹
- 要旨
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- タイでは今月、タイの誇り党のアヌティン党首が新首相に就任し、タクシン派のタイ貢献党は下野した。一方、首班指名でアヌティン氏を推した最大野党の国民党は政権に参加せず閣外協力に留まり、新政権は少数与党となっている。アヌティン新政権は議会解散の時間的制約に直面するなかで、短期的な景気下支えを重視する。また、隣国カンボジアとの関係修復も急務だが、ナショナリズムが高まるなかで難しい対応を迫られている。金融市場では政権交代やドル安観測を追い風にバーツ高が進み、輸出競争力低下への懸念が高まるなか、金取引の急拡大もバーツ高を後押ししている。中銀は対応策を検討するが効果は不透明である。新政権は発足直後から景気、外交、バーツ高対応などで難しい舵取りを迫られる状況に直面している。
タイでは今月5日、人民代表院(議会下院)による首班指名選挙が行われ、一昨年の総選挙で第3党となった「タイの誇り党」のアヌティン党首を新首相に選出した。その後、今月7日にアヌティン氏は国王による承認と任命を経て首相に就任し、セター、ペートンタンと2代続いた『タクシン派』の「タイ貢献党」は下野することとなった。首班指名選挙を巡っては、第1党で最大野党「国民党(旧前進党)」の動向が注目されていた。国民党は当初、過去の首班指名選挙での対応を理由に、貢献党、誇り党にも協力することを否定した。その後アヌティン氏が政権発足後4ヶ月以内に議会解散と総選挙を実施する方針を示したことで、国民党は同氏を支持する姿勢をみせた。ただし、新政権に参加せず閣外協力に留めている。よって、アヌティン政権を支える与党は人民代表院で少数派に留まる。アヌティン新政権は、上述のように議会解散時期の制約があるなか、政権安定と総選挙後の政権維持を見据えて短期的な成果の達成を重視する姿勢をみせる。こうした動きは、政権の屋台骨である財務相に財務省での経験が長いエクニティ氏(財務省財務局長)を据える方針を明らかにし、短期的な景気下支えの強化を指示したことにも現れている。また、ペートンタン前政権の下で関係が急速に悪化した隣国カンボジアとの関係修繕に加え、遅延する国境再開が急務となっている。ただし、タイ国内ではナショナリズムの高まりがカンボジアに対する強硬姿勢を後押しする向きもみられ、アヌティン氏は王室支持色の強い保守派との繋がりも強いなか、両者のバランスを取る難しい対応を迫られている。よって、ペートンタン氏の停職を機に噴出した政局混乱は政権交代により一旦は収束しているものの、新政権も引き続き難しい舵取りを迫られている。

こうした状況ではあるものの、金融市場においては同国の通貨バーツの対ドル相場は上昇の動きを強めており、足元においては4年ぶりの高値を付けている。政権交代により政局混乱が収束するとの期待に加え、金融市場ではトランプ米政権の政策運営を巡る不透明感に加え、FRB(米連邦準備制度理事会)による利下げ観測も重なる形で米ドル安圧力が強まっていることも、バーツ相場の底入れを促しているとみられる。タイ経済は、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国のなかでも構造面で外需依存度が相対的に高く、バーツ高による輸出競争力の低下は外需の足かせとなることが懸念される。タイの経済団体はバーツ相場の適切な水準を「1ドル=34~35バーツ」と見做しているとされるなか、足元の水準はこれを大きく上回り、新政権は発足早々から新たな難題に直面している。なお、足元のバーツ相場が上昇基調を強める一因には、隣国カンボジアとの関係の急速な悪化や政局混乱も追い風に、金取引が急拡大していることも影響している模様である。タイでは金の取引が活発に行われるとともに、その大宗がバーツ建で行われている。こうしたなか、中銀は金取引に対する課税のほか、ドル建での金取引支援など応急措置を検討している方針を明らかにしているものの、事態打開に繋がるかは見通しにくい。アヌティン新政権にとっては、船出早々から短期的な景気刺激とバーツ高への対応という難しい舵取りに揺さぶられており、その動向は来るべき総選挙の結果にも影響を与えることは避けられない。

西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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