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2025.10.03
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メキシコ・シェインバウム政権が1年、国民の支持高く、市場も評価か
~ドル安も追い風にペソ相場は堅調も、先行きは外部環境に加え、実体経済の動きにも注意が必要に~
西濵 徹
- 要旨
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- メキシコのシェインバウム大統領は今月1日で就任から1年を迎えた。直近の世論調査で支持率は73%と高水準を維持している。内政面では、憲法改正を含む改革推進や社会保障拡充が進む一方、財政悪化や国家資本主義的政策への懸念が残る。一方、外交面では米国の追加関税方針に翻弄されつつも、報復を控えることで経済への打撃を回避しており、対米戦略は一定の成果を挙げている。金融面では中銀の利下げにもかかわらず実質金利は高水準を維持しており、ドル安も追い風に通貨ペソは堅調に推移している。ただし、ペソ高は移民送金や内需への重荷となる懸念がある。今後のペソ相場にとっては、来年予定されるUSMCA再交渉など外部環境の変化も含め、実体経済の動向も併せて注視する必要がある。
メキシコでは今月1日、シェインバウム大統領が就任して丸1年が経過した。昨年の大統領選における同氏の当選は既定路線とみられたものの、同時に実施された議会上下院選で与党連合は想定を上回る形での大勝利を収めた。これを受けて、その後の金融市場では通貨ペソ、主要株式指数、国債のすべてに売り圧力が掛かる『メキシコ売り』の動きが強まった。その背景として、ロペス=オブラドール前大統領が選挙公約に掲げた憲法改正(「プランC」)で、司法制度や選挙制度、年金制度、財政制度、環境規制など計20項目の改革を示しており、その実現性が高まったことが警戒された。政権発足直前には、司法制度改革として三権分立の形骸化を招く制度が成立したほか、今年6月に実施された裁判官選挙を経て司法に与党や政府の意向が反映されやすい体制が築かれた(注1)。さらに、同国では前政権によるバラ撒き政策の影響で悪化した財政の立て直しが急務であるものの、年金制度改革による給付水準引き上げ、エネルギー部門や鉱業部門の国有化など国家資本主義姿勢の強化が進む一方、国際原油価格の低迷により関連収入は下振れするなど、財政運営は不安定な状況が続いている。このように、内政面では国民からの支持の維持に腐心する対応が続いている。
他方、外交面では輸出の大宗を占める米国との関係に不透明感が高まった。トランプ米政権は、発足直後にメキシコからの全ての輸入品に25%の追加関税を課す大統領令を発令したが、直後に行われた首脳協議を経て発動が延期された。また、米国は自動車や自動車部品、鉄鋼製品、アルミ製品に対する追加関税を課す一方、25%の追加関税についてはUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に準拠した財を対象外とすることで合意した。一方、米国は同国の麻薬カルテル阻止への対応が不十分であることを理由に、8月に追加関税を30%に引き上げる方針を示したが、発動直前に90日間延期することで合意している。このようにトランプ関税に翻弄される展開が続いているものの、同国は基本的に報復措置を取らない姿勢をみせてきた。加えて、メキシコは先月、同国と貿易協定を締結していない国々からの輸入品に対する関税を大幅に引き上げる方針を明らかにしており、これは中国からの輸入を念頭に置いた策と捉えられている。このようにメキシコは米国に従属しない戦略を取りながら、報復措置を自重することで米国との関係悪化を避けるとともに、結果的にメキシコ経済への壊滅的な打撃も回避できている。
また、こうした外交面での『安全運転』も奏功して、先月に行われた直近の世論調査でシェインバウム氏に対する支持率は73%と就任から丸1年を迎えるなかでも高水準を維持しており、ロペス=オブラドール前大統領の就任1年時点(68%)を5pt上回っている。なお、世論調査では回答者の4分の3が現政権による社会保障拡充策を支持しているほか、半分以上が教育や所得を巡る格差も改善したと答えるなど、内政面での対応も支持率の高さに繋がっている様子がうかがえる。米国との関係を巡っては、メキシコ側が度重なる譲歩をみせているにもかかわらず、米国が繰り返し要求を強めていることを受けて、一部報道ではシェインバウム氏が苛立ちを強めているとの見方もある。しかし、現時点では米国に対する報復措置に動いたカナダがその後に撤回を迫られるとともに、米国がカナダに強硬姿勢を強める一方、メキシコに対しては比較的融和的な姿勢をみせていることを勘案すれば、シェインバウム政権による対米戦略は巧くいっていると捉えられる。
このところの金融市場ではトランプ米政権の政策運営に対する不確実性に加え、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げも追い風に米ドル安が意識されやすい状況が続いている。さらに、メキシコでは中銀が断続利下げに動いているものの、インフレ率が落ち着いた動きをみせていることから、実質金利(政策金利-インフレ率)は足元でも4%を上回る水準で推移しており、投資妙味が比較的高いと評価される状況にある。こうしたことから、メキシコの通貨ペソの対ドル相場は堅調な推移をみせている。先行きについても米ドル相場の動向に左右されながらも、底堅い動きが見込まれる。その一方、このところの日本円は日本銀行による利上げが意識されるとともに、米ドル安も重なる形で円高基調が強まるなど相場に変化の兆しが出ている。先行きについても米ドル/円相場の動きに左右される可能性に注意が必要になっている。

このところのペソ高の動きは、慢性的に経常赤字を抱えるなかで輸入物価を抑えることでインフレ圧力を一段と後退させることが期待される。その一方、このところは米国の雇用環境に変調の兆しが出ており、海外移民労働者からの送金が頭打ちの様相を強めているほか、足元におけるペソ高の進行を受けてペソ建てで換算した額に下押し圧力が掛かるなど、家計消費をはじめとする内需の重石となることが懸念される。来年にはUSMCAの再交渉が予定されており、その際には米国が再び厳しい要求を突きつけることが予想されるほか、金融市場を巡る環境も変化する可能性がある。先行きのペソ相場については、外部環境のみならず、実体経済の動向にもこれまで以上に注意を払う必要性が高まっている。

注1 6月5日付レポート「メキシコ裁判官選挙、司法も与党支配で三権分立はいよいよ崩壊へ」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

