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2025.09.01
アジア経済
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インドの4-6月景気は堅調確認も、トランプ関税など外部環境に注意
~インフレ鈍化や金融緩和は景気の追い風となるも、金融市場を巡る環境が政策の手足を縛る懸念も~
西濵 徹
- 要旨
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- トランプ米政権はロシア産原油を輸入する国に2次関税を課す方針を示し、先月にインドへの措置を発動した。結果、インドに対する関税は50%と極めて高水準となっている。インドは内需依存度が高く、トランプ関税によるマクロ的な影響は限定的と見込まれる。ただし、輸出に占める米国向け比率は約2割に上るほか、仮に追加関税の対象に医薬品や半導体などが加われば、企業レベルで大きな打撃となる可能性がある。
- 一方、足元のインフレは沈静化している上、中銀は金融緩和を進めており、個人消費をはじめとする内需を押し上げることが期待される。事実、4-6月の実質GDP成長率は前年比+7.8%、GVA成長率も同+7.6%とともに高い伸びをみせている。サービス業や製造業、建設業は好調な動きをみせる一方、鉱業や農業の生産は低迷している。農業部門の生産低迷は、供給懸念が物価上昇リスクを招く可能性に要注意である。
- S&Pグローバルはトランプ関税の影響が管理可能であること、成長による財政健全化を評価して格上げを決定した。しかし、モディ政権が計画する減税は景気押し上げに資する一方、財政悪化やインフレ再燃を招く恐れがある。その結果、インド金融市場では金利上昇やルピー安に加え、株価が伸び悩む動きがみられる。当面のインド経済や金融市場は外部環境に大きく左右されやすい展開が続くと見込まれる。
足元の世界経済や金融市場は、トランプ米政権の関税政策に翻弄されている。米国は、安全保障上の脅威への対応や貿易赤字の是正を目的に関税政策を用い、相手国との協議による『ディール(取引)』を通じて米国に有利な環境の構築を図っている。さらに、トランプ氏はウクライナ戦争の早期終結を目的に、ロシア産原油を輸入する国に追加関税(2次関税)を課す方針を明らかにした。そして、先月末にはウクライナ戦争以降にロシア産原油の輸入を急拡大させているインドに対して、相互関税(25%)に加えて25%の2次関税を上乗せして、合わせて50%とする措置を発動した(注1)。なお、インド経済は構造面で内需依存度が高いことに鑑みれば、トランプ関税によるマクロ的な影響は限定的と見込まれる。しかし、輸出に占める米国向け比率は約2割を占めるなど、輸出関連産業への影響は無視できないほか、トランプ氏は追加関税の対象を医薬品や半導体などに広げる方針を示しており、個別企業への悪影響も甚大なものとなる可能性がある。

このように、インド経済の先行きには少なからず不透明要因がくすぶる。しかし、ここ数年はインフレが常態化するとともに、中銀は金融引き締めを余儀なくされる展開が続いてきたが、昨年末以降のインフレ率は中銀の目標域に収まるなど落ち着きを取り戻している。よって、中銀は今年2月に約5年ぶりの利下げに動くとともに、その後もインフレ率は一段と鈍化したことを受けて、中銀は6月の定例会合で3会合連続の利下げに加え、利下げ幅の拡大や現金準備率の引き下げも決定するなど全面的な金融緩和に動いている。上述したように、インド経済は構造面で個人消費をはじめとする内需が成長のけん引役となるなか、足元においてはインフレ鈍化と金融緩和により内需の追い風となりやすい環境にある。4-6月の実質GDP成長率は前年同期比+7.8%と前期(同+7.4%)から伸びが加速している。当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率も堅調に推移していることが確認されるなど、足元の景気は着実な動きをみせている。需要項目別では、トランプ関税を巡る不透明感を理由に輸出は力強さを欠く推移をみせる一方、インフレ鈍化や金融緩和による実質購買力の押し上げも追い風に個人消費は大きく拡大している。さらに、年度初めのタイミングが重なったことでインフラ関連など公共投資の進捗を反映して政府消費も拡大するとともに、固定資本投資も拡大基調が続くなど、幅広く内需が景気拡大をけん引している。また、内需の堅調さを反映して輸入は大きく拡大した結果、純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度は大幅マイナスとなるなど、景気実態は数字以上に堅調と捉えられる。


インドでは基礎統計が充分に整備されていないなか、かつては長年にわたって社会主義に基づく経済政策が採られてきたこともあり、供給サイドの統計は比較的整備されている。よって、供給サイドの統計であるGVA(総付加価値)の動きも合わせてみる必要があるなか、4-6月の実質GVA成長率は前年同期比+7.6%と前期(同+6.8%)から加速して6四半期ぶりの高い伸びとなっている。当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率も伸びが加速しており、8四半期ぶりに10%を超える高い伸びになっていると試算されるなど、供給サイドをけん引役に景気拡大の動きが進んでいる。分野別の生産の動きをみると、個人消費をはじめとする内需の旺盛な動きを反映してサービス業の生産が大きく拡大しているほか、製造業の生産も堅調に推移している。さらに、インフラ投資の進捗などを追い風に建設業の生産も底堅い動きをみせている。その一方、経済活動に連動する傾向がある電力・ガスのほか、水道に関連する公益関連で生産が下振れするとともに、鉱業部門の生産も頭打ちの動きを強めている。そして、農林漁業関連の生産も減少に転じる動きが確認されており、年明け以降は食品物価の安定がインフレ鈍化を促してきたものの、先行きについては農業生産の低迷による供給懸念が物価上昇圧力を招く可能性に注意する必要がある。

上述したように、先行きのインド経済についてはトランプ関税の影響が懸念されるものの、マクロ的な影響は限定的と見込まれる。こうした事情は、主要格付であるS&Pグローバル・レーティングが先月に18年半ぶりにインドの外貨建て長期信用格付の格上げを決定する一因になっている(注2)。なお、同社は格上げを決定した一因として、経済成長を受けて財政健全化に向けた道筋を付ける動きがみられることを挙げている。しかし、モディ政権はトランプ関税による実体経済への悪影響軽減を目的に、10月から財・サービス税(GST)の改正による減税に動く方針を示している。個人消費をはじめとする内需が経済成長のけん引役であることに鑑みれば、減税による景気押し上げは期待される一方、歳入減が財政悪化を引き起こすとともに、需要押し上げの動きが新たなインフレ圧力を招く可能性がある。こうしたことから、中銀による断続的な利下げ実施のほか、S&Pグローバルによる格上げ実施にもかかわらず、足元の長期金利は上振れしているほか、通貨ルピーの対ドル相場は最安値を更新する動きをみせる。さらに、トランプ関税による悪影響を警戒して主要株式指数(ムンバイSENSEX)も上値が抑えられている。足元の景気は堅調な動きが確認されたものの、インフレ懸念が中銀の政策の手足を縛る可能性がある。その意味では、先行きのインド金融市場を取り巻く状況は外部環境の影響を受けやすい展開が続くと予想される。


注1 8月27日付レポート「米国、インドへの追加関税発動、トランプ関税はブラジルと同じ50%へ」
注2 8月15日付レポート「S&Pが18年半ぶりにインドを格上げ、トランプ関税の逆風を越えるか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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